昨年末に膵臓がんであることを公表した、経済アナリストの森永卓郎氏。しかし、再検査の結果、膵臓がんではなく、「原発不明がん」へと診断が変わる衝撃の事態に……。今回、森永氏の著書『がん闘病日記』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、現在も精力的に執筆活動を継続する森永氏が、原発不明がんへと診断変更されるまでの経緯や、変更後の治療法について、見ていきます。

衝撃の血液パネル検査

結果東京の病院に入院中、私は病院近くのクリニックで「血液パネル検査」を受けることにした。

この検査は、私の血液からDNAなどを取り出し、80種類ほどある「がん関連遺伝子」に変化があるかどうかを解析する検査だ。採血した血液サンプルをアメリカの検査機関に送付し、解析結果を送り返してもらう。この検査の結果で、がん本体がどこにあるのか見当がつく。

状況によっては、検査自体に保険が適用になる場合もあるのだが、当時の私の診断は、「すい臓がんのステージⅣ」で確定していたから、約50万円の検査費用が全額自己負担となった。また、検査結果が到着するまでは4週間ほどかかるという。

それでも私は検査をやることにした。心のどこかに、まだ「本当にすい臓がんなのか」という疑問が残っていたからかもしれない。

アメリカからの検査結果は、思いのほか早くもたらされた。そこで結果を聞くために、2月1日に、東京のクリニックに向かった。

結果は、衝撃的なものだった。

遺伝子の変異からみると、がんの可能性があるのは、乳がん、肺がん、血液のがんの3つだけだった。しかも、がんに罹患しているレベルの変異ではなく、がんの可能性があるというレベルだった。

そして、問題のすい臓がんだ。すい臓がんになると、KRASという遺伝子に95%の確率で変異が現れることが知られている。

ところが、私の検査結果でKRASには、一切変異が見られなかったのだ。つまり、私は95%の確率ですい臓がんではないということになる。もちろん、すい臓がんの可能性は5%残されてはいるのだが、ふつうに考えたら、すい臓がんではない。しかも、すい臓がんに反応する腫瘍マーカーの数字も低位に収まっていた(ちなみにマーカーの数字は3月に入ると、完全な正常値に戻った)。

じつは、医師はすい臓がんの判定が出ることを前提にして、すい臓がん用の新しい抗がん剤を準備していたという。

しかし、検査結果を受けて、診断が変更された。私の診断は「すい臓がん」から「原発不明がん」に変更されたのだ。

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抗がん剤治療のできない原発不明がんの治療法とは

息子の康平は「そもそも誤診だったのではないのか」と言った。しかし、私はそうは思わない。私はしぶとい性格なので、医師からサードオピニオンを聞いたあとも、複数の医師に診断当時のデータに基づいてどう診断するかを尋ね続けた。そして全員が「すい臓がん」と答えたのだ。つまり、診断を誤ったのではなく、そう診断するしかないデータだったのだ。

しかし、血液パネル検査の結果は、診断を根底から覆した。「すい臓がんでなくてよかった」と思われるかもしれない。だが、じつはこの診断変更は、私に大きな困難を突き付けることになった。

それまでは、すい臓に病変は見られないものの、原発はすい臓のどこかにあるという診断だった。

ところが、新しい診断では、原発がどこにあるのかまったくわからないということになった。それまでも手術と放射線治療はできなかったのだが、そこにすい臓がん向けの化学療法(抗がん剤治療)もできないことになってしまったのだ。

しかし、診断をした医師から思わぬ言葉が発せられた。

「原発不明がんの場合、保険適用でオプジーボが打てますよ」

オプジーボというのは、ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が発見した「がん免疫治療薬」だ。

抗がん剤は、直接がん細胞を攻撃して消滅させようとする。一方、オプジーボは、免疫の力を回復させることで、がんへの攻撃力を回復させる「がん免疫療法」の治療薬だ。

がん細胞は、免疫細胞の働きにブレーキをかけて攻撃から逃れているが、オプジーボはそのブレーキを解除する効果を持ち、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようにする。