こんにちは、一級建築士の八納啓創と申します。会社員の方から上場企業の経営者宅まで、住む人が幸せになる家をテーマにこれまで120件の家づくりの設計に携わってきました。
『日刊SPA!』では、これまでの経験を生かし、「これからの時代に必要な住まいの姿」をテーマにお伝えしてきましたが、今回が最終回です。「どんどん幸せが育まれる家とそうでない家の違い」をお伝えします。
◆住まいがあなたの人生を幸福にも不幸にもする?
「あなたはなぜその家に住んでいるのでしょうか?」
私が開催する“家を幸せに住みこなすコツ”セミナーでいつもこのテーマを質問します。なぜかというと、この答えこそが、あなたの人生を大きく作用するからです。
これを強く実感したのは、2020年4月に発令された緊急事態宣言でした。当時、流行した言葉に“コロナ鬱”というものがあります。家に四六時中いないといけない事態に陥ったことで、一定の割合で鬱っぽくなった人が出てきたのです。どうして“コロナ鬱”が増えたのかをひも解いていきましょう。
◆普段あまり帰らない人が、家で一日中過ごした結果…
筆者が「今の家を選んだ理由」をリサーチした結果、上位は「仕事から帰って寝るだけの場所として都合が良い」でした。週末もほとんど家に居ないので、それ以上を求めていないという人が結構いたのです。
例えば、こう答えた人が家で24時間過ごしていたとしましょう。「日中、ほとんど日が入らない暗い家だったんだ」「隣の部屋や上の階の騒音がこんなにするとは思わなった」など、あまりの居心地の悪さに愕然とし、それに悩み、鬱っぽくなってしまったのです。
コロナ前までは、一日の平均滞在時間14時間と言われていた住まい。それが一気に24時間になったことで、多くの人の人生を狂わせました。しかし、一方でこの時期を満喫した人たちもいます。自身の住まいを「当時、声に出して言えなかったけど、本当に天国でした」とまで称するわけです。
「一体どういうこと?」と思うようなコメントですが、実は同意見の人は一定数存在します。まさに、住まいがその人の人生を幸福にも不幸にもするような事態が起こっていたのです。
ここからは、「家が住人を不幸にした」実例を紹介しましょう。
◆なぜか「なかなか恋愛できない女性」が住むマンション
「八納さん、私の住んでいるマンションなのですが、何か呪われているのでしょうか?」
家相鑑定(日本の風水)の相談で来た女性が、こう切り出しました。
よくよく話を聞いてみると、「素敵だな」と思う人とデートしても、自宅に帰るとその気持ちが妙に冷めてしまう。つまり恋愛が長続きしないとのことで、「家が私のことを呪っているのではないか?」という趣旨の相談でした。
しかし、家相的に見ても特に問題のない間取り。その旨を、彼女にも伝えたところ「じゃ、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?」と相当困惑した様子に。
そこで私はふと「このマンションを購入したのは10年ぐらい前だと言われていましたが、なぜこのマンションを購入したのですか?」と尋ねました。
◆買った理由は「一生一人で暮らすため」だった
不意を突かれた様子で、一瞬考えこんだ後、ハッとして私は次のように言いました。
「すっかり忘れていましたが、このマンションは婚約破棄をされたことの腹いせで購入しました。一生一人で暮らしていこうと思って……」
彼女も、そのことを思い出し、ぞっとした表情を浮かべていました。私はこう返します。
「でも、時が経つにつれて、当初の決意を忘れ、新たに恋愛したい思いが募ってきて。再び恋愛するようになったんですね。だから、家に帰ると妙に気持ちが盛り下がったのですね」
彼女もそれに納得した様子でした。しかし、彼女の不安は募るばかりです。
「この家に住んでいる限り私は恋愛できないのでしょうか?」
それに対して、次のように伝えました。
「当初の動機を思い出したことで、呪縛は半分外れたと思います。ですので、この家に住んでいても恋愛していいし、パートナーとこの家に一緒に暮らしてもいいと強くイメージしてみてください」
その後、彼女は無事「長期的な恋愛」が出来るようになったと聞いています。
◆「風水が完璧な家」に引っ越ししたのに…
私は、風水や家相を探求する設計士として一つ確信したことがあります。それは、風水が整っていても、その家に住んでいる動機のほうが大きく影響するということ。ある男性から次のような相談がありました。
「3か月前、東京から故郷である広島に戻ってきました。ただ、広島で有名な風水師の方に見てもらって選んだマンションに引っ越したのですが、体調を崩してしまうなど、良いことがありません。本当にこのマンションは吉相なのでしょうか?」
「こんな相談は困るな……」と思いながら、そのマンションの鑑定をしたところ、さすがにいいマンションを選んでいることが分かり、そのことを伝えました。
本人は、半分安堵しながらも、疑問が払しょくできないという様子。そこで私は次のように尋ねます。
「そういえば、なぜ東京から広島に戻ってきたのですか?」
◆背景には「逃げ帰るように戻ってきた」と思いが
沈黙が続いた後、彼が次のように言ったのです。
「思い出したくなくて、言わなかったのです。実は東京で事業に失敗して、再起をかけて広島に戻ってきていて。それが何か影響しているのですか?」
さらにいろいろと掘り下げていくうちに分かったことがありました。それは、彼は再起をかけて戻ってきたのではなく、「東京で敗北して、逃げ帰るように広島に戻ってきた」という思いが強かったのです。
いくら風水が整っている家に住んでいても、この動機が根底にあったのであれば、うまくいくものもうまくいきません。「自分を責めなくてもいい」「再起をかけてこの家で楽しむ」と思い改めてもらうことで、彼はどんどん人生が好転していきました。
◆風水などよりも重要なことは、あなたの思い
私はこれまで、風水や家相を組み込んだ家づくりを多数してきましたが、心底分かったことがあります。それがこれまで述べてきたように「風水などよりも、その家に住んでいる根底の動機のほうが、住み心地に大きく作用する」ということです。
もし、今住んでいる家が嫌いなら、「たいした人生を送れない」と無意識に思っている可能性があります。その思いが、あなたの人生をどんどん蝕んでいきます。まさにその家があなたのことを呪っているようなものです。人生をより良くしたいのであれば、その家に住む一番の動機を前向きなものにすることが必要です。
「今までそういったことを考えたことがなかった」という日本人が大半なのですが、人生をより良く充実したものにしていっている人たちは、自然とその家に住むことで前向きな人生になることを意識しています。
ぜひ前向きな動機を設定してみましょう。心から、あなたの人生が前向きになり、住まいがあなたの人生を後押しすることを祈っています。
これにてコラム終了です。お付き合いいただきありがとうございました。今後も色々なところで、皆さまと触れ合うことを楽しみにしています。
<TEXT/八納啓創>
【八納啓創】
1970年、神戸市生まれ。一級建築士、株式会社G proportion アーキテクツ代表取締役。「地球と人にやさしい建築を世界に」をテーマに、デザイン性、機能性、省エネ性や空間が人に与える心理的影響をまとめた空間心理学を組み込みながら設計活動を行っている。これまで120件の家や幼保園、福祉施設などの設計に携わってきた。クライアントには、上場会社の経営者やベストセラー作家をはじめ「住む人が幸せになる家」のコンセプトに共感する人が集い、全国で家づくりを展開中