会社のお金を管理する経理担当。経費を取り扱う部署だけに「お金の使い道」ついて、強い権限を持つこともあるようだ。吉田功さん(30代・仮名)は、経理担当者の50代女性に頭を悩ませた経験を持っているそうだ。
◆業績が落ち、出張時の食事代が削られる
吉田さんはシステム会社で営業を担当し、全国を飛び回っていた。以前はかなり業績が良かったそうだが、現在は「ギリギリ黒字」だそう。利益が落ちてくると、経理担当者の態度が変わってきたという。
「会社の売上が落ちてくると同時に、経理を担当するベテラン女性社員Aさんが“経費削減最優先主義”になりました。私が入社してしばらくは出張時の食事代が2500円だったんですが、ある日から1000円になってしまって……。さすがに『1000円ではきつい』と文句を言ったのですが、『そもそも2500円も出るのがおかしい。私は、経費の使い方を一任されている』と逆ギレされてしまいました。営業の士気は、かなり落ちましたね」
◆レンタカーやタクシーが使用不可に
経理担当のどケチぶりはどんどんエスカレートしていったと、吉田さんは回想する。
「うちの会社は全国規模ではないので、東京から地方に飛行機や新幹線で移動し、現地でレンタカーを借りて移動していました。ところがAさんは『レンタカーを借りる必要があるのか。上層部に確認します』と言ってきました。嫌な予感がしましたね……」
結局レンタカーの利用は禁止になってしまったそう。
「その後、『レンタカーは事故のリスクがあるからNG』という通達がありました。『じゃあどうすればいんですか?』と聞いたら、『営業車かタクシーを使え』と。『営業車で東京から大阪まで行けということですか?』と問いただすと、『それが望ましい』とのこと。営業車もレンタカーも同じ車だし、よっぽど高速で長時間運転するほうが危険だし、ガソリン代もばかにならないですよね。越権行為にも思える所業の数々は、なんだか自分の力を誇示するためだけに思えてきました」
また、タクシーの使用にも制限がかかったという。
「タクシーを使った場合も、領収書を見たあと、実際にどこに行ったのか質問されるんです。わざわざGoogleマップを開いて距離を確認し、『これくらいなら歩けるんじゃないの?』と。商談の場合、約束の時間に遅れるのはご法度ですから、よほど近くでない限り使わないですよ。汗だくで行くわけにもいかないですから。クーラーの効いた部屋で数字だけ見てる人にわからない」
◆冷房が「28度以下禁止」、スマホの充電は「1日2回まで」
出張だけにはとどまらず、経費以外の部分にもメスが入ったと吉田さんは話す。
「まず、電気代が高騰しているということで、『無駄な電力は使用しないように』と通達がありました。外出する際は必ず電気を消す。スマートフォンの充電は2回まで。パソコンも食事や休憩の際は消すなど。本当にやりづらかったです」
さらに吉田さんをはじめとする社員を激怒させたのが、冷房の設定だった。
「冷房の設定温度は『28度以下禁止』と言われました。それまでは外から帰ってきた営業のために少し低めに設定して、寒さを感じる社員にはカーディガンなどを羽織ってもらっていたのですが。ある日『電気代節約のため28度以下絶対禁止』と。猛抗議しましたが、またも『私はこの会社の台所事情を任されている』とつっぱねられ、我慢するしかありませんでした」
◆署名を提出され、あえなく異動に…
また、冬の暖房にも制限がかかったという。
「冬はもっと酷くて。Aさんは北国育ちで、『東京の寒さなんか厚着で防げる』などと言われ、基本暖房を入れるのは一切禁止。みんな、ダウンジャケットを着て仕事をしていましたよ。ありえません」
「社員のほとんどがAさんに反感を持つようになり、会社上層部に待遇改善を求めて直談判しました。上層部は『会社の利益を考えてくれている』と擁護し、取り合ってくれませんでした。しかし『これ以上あれこれ制限をかけられては業務に支障が出る』と営業部員全員の署名を添えて意見書を提出したところ、会社も事態を重く見たようで、聞き取り調査などを経て異動になりました。今は倉庫番をしているようですよ。きっと真夏でも、冷房を28度に設定して、作業をしているのではないですか?」
長引く不況で会社が「お金の使い方」を見直すのは当然のこと。しかし、社員の感情や業務内容を無視した形での経費削減は、会社の生産性を下げることになる。多少は現場の意見も取り入れたうえで自身の業務を遂行してほしいものだ。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など