元セクシー女優でフリーライターの「たかなし亜妖」がお届けする連載コラム。2016年に「ほかにやることがなかったから」という理由でセクシー女優デビュー。女優生活2年半が経過したところで引退を決意し、現在は同人作品やセクシービデオの脚本など、あらゆる方面で活躍中。
◆同人ビデオと適正ビデオの違い
正規団体による審査を受けてから流通するのが「適正ビデオ」、その反対が「同人ビデオ」だ。同人はいい意味での手作り感や演者の素人っぽさ、低価格での販売などが魅力のひとつと言われている。
同人=非公式ではあるが、正規品でないながらも2018年以降に流行が爆発。現在も多数の個人運営サイトが展開され、事務所に所属しない本気の素人が出演を繰り返している。
適正ビデオに比べると遥かに挑戦のハードルが低いものの、手軽さゆえに大きな落とし穴が潜むのだから、非常に怖いところだ。かつての出演者は「後悔しかありませんよ」「目先のお金に捉われて出なければよかった」と嘆きの声を挙げているが、実際はどうなのだろうか。実際に同人ビデオに出演したことがある春奈さん(仮名・20代)のインタビューと併せて解説していこう。
◆出演者の後悔、同人ビデオの闇
世の中の人は出演に対し「金をもらったんだから文句言うな」「自分で決めたことなんでしょ? 自己責任じゃん」などと、シビアな意見を放つだろうし、実際に筆者もそういう考えを持たないわけではない。
しかし、春奈さんによると“非正規品”の世界は随分とずさんなものであり、話を聞いてこちらも少々胸が苦しくなった。
春奈さんがビデオへの出演を決めたのは「お金がほしかったから」と、“よくある志望動機”の中でトップ3を争うレベルの理由である。当時はお金に困っていて、今すぐにでも収入を得たかったため、知人を通じたスカウトマンに連絡。その後は1週間もしないくらいのスピードで現場に入ったらしい。
「その時はお金がほしかったので、先のことは全く考えませんでした。条件は1回3時間拘束で、ギャラは8万円です。内容は……まぁ普通のビデオと似たようなものですよ。ナンパして家に連れていかれるみたいな。メイクさんはおらず、衣装なども全て自前です」
3時間で8万円もらえる仕事と聞くとかなりの高給取りに思えるが、条件は「衛生器具の着用はなし+ノーモザイク」とのこと。この時点でもう、値段とは到底見合わないリスクが潜んでいた。
男優、女優、スタッフ1人と非常にコンパクトな現場で撮影を進め、すべての工程が完了すると春奈さんは現金8万円を手渡しで受け取った(消費税、源泉徴収による天引きはなし)。
撮影から数か月後、運営者から配信開始のお知らせも、売れ行きに関する報告も何もなかったが、彼女は気にしない。即日即金であるなら、またビデオに出ようとさえ思っていた。
◆即、知人バレしてしまう…
リリースされていることさえ知らずにいつも通りの日々を過ごしていると、知人より、ビデオの発見報告LINEがくる。
「“これ、春奈ちゃんだよね?”ってLINEがきて驚きました。彼女も同人ビデオの出演者の1人で、なんとなくサイトを見ていたら私を発見したそうなんです。まず販売中なのも知りませんし、サイト内には溢れんばかりの作品が羅列するのに、その中から見つかっただなんて……」
恐る恐る自分の作品を検索すると、すでにあちこちのサイトに転載されており、もはや手が付けられない状態だったという。
急に怖くなった春奈さんはスカウトマンへ連絡し、削除依頼を出した。幸いにも削除には応じてもらえたものの、転載先のサイトに関してはどうしようもない。
春奈さんはこの一件で同人ビデオへの出演をやめることができたが、今でも「“身内バレ”を危惧する毎日」だと語っている。
◆同人ビデオを選ぶ理由
ぶっちゃけたことを言うと春奈さんの事例はまだラッキーな方で、運営者が逮捕されたり、音信不通になったり、「一度載せたら削除申請には応じません」のような契約書にうっかりサインをすれば、泣き寝入りまっしぐらでしかない。
このようなトラブルが絶えないにも関わらず、なぜ“同人”を選んでしまうのか?
その理由は、以下のような「適正ビデオ特有の面倒くささ」にまつわることが挙げられる。
・適正ビデオのように、同人ビデオはメーカー周りや面接などの手間がない
・同人ビデオは事務所不要で誰でも出られる
・すぐ仕事にありつけて、日払いで給料がもらえる(時間がかからない)
・労働時間が適正ビデオに比べると遥かに短い
・スカウトマンや出演者の紹介など、仕事を見つけるまでのルートが簡単
つまり、適正ビデオよりも時間をかけずに仕事(撮影)が見つかり、「給料日は末締め翌月払い」なんて縛りもなく、税金も引かれない。即日即金手渡しで、お金に困った時には救世主のような存在にもなり得る。
◆軽い判断が招く大きな代償
オトナのお店で働けば、基本的に完全歩合制システム。出勤しても必ず10万円手にできる保証はないと思えば、ビデオのように1回〇万円の確約は大きな安心材料だろう。
手軽さが人の判断力を惑わす一因、といっても過言ではない。特にお金に困っている人は切羽詰まると判断力が鈍りやすいため、後先考えずに足を踏み入れてしまう。
◆冷静な判断で自衛を
適正ビデオも出演すれば立派なデジタルタトゥーだが、同人よりもルールが定められているので、トラブルが起きた際の対処はしやすい。反対に同人は“公式”ではないので、ルールも何もかもが曖昧なグレーゾーン。よからぬ事態が発生しても、未解決のままで終わってしまうことが多い。
同人ビデオの世界からはバッシングを受ける発言だが、筆者としては出ない方がいいと思ってる。いくら即金10万円だったとしても一生食べていける額には程遠く、身バレ、病気、運営者によるセクハラ、無断の二次使用などデメリットが多すぎるからだ。
被害に遭わないためにはまず、目先のお金ばかり追わないことが重要なポイントとなる。そして契約書が用意されても油断してはならない。運営者に都合の良いことばかりが記載されている場合も多いため、誘いを受けたら冷静に「これは本当に大丈夫なのか?」と慎重に考える必要がある。
「誰かが紹介したから大丈夫」「契約書もあるし、しっかりしてそう」という甘い考えはNG。出演を検討する女性は今一度考え直してほしい。
文/たかなし亜妖
―[元セクシー女優のよもやま話]―
【たかなし亜妖】
元セクシー女優のフリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ソーシャルゲームのシナリオライターを経て、フリーランスへと独立。WEBコラムから作品レビュー、同人作品やセクシービデオの脚本などあらゆる方面で活躍中。