“4000日以上”毎日カレーを食べ続ける人物を直撃。「体調や体重」以外で現れた“変化”

焼肉に寿司、ラーメンにパスタなど、飽食の時代と言われて久しい現代日本では、あらゆるものが好きな時に食べられる。しかし、なかにはひとつの食べ物にこだわり続ける人もいる。自身が食べたカレーをInstagramにアップし続ける、福岡裕介氏もその一人。毎日1食以上必ずカレーを食べているという同氏。健康面に問題はないのか、そして単純に飽きないのだろうか。本人を直撃した。

◆カレーは「特別に好きでもなかった」

毎日カレーを食べることを決意し、それを続けているとなると、よっぽどカレーを愛してきた人物なのだろうと思われる。しかし、福岡氏は次のように話す。

「子供のころ、カレーは普通に好きな程度で“特別”という感じではありませんでした。毎日カレー生活を始める時も、カレーにこだわっていたわけではないですね」

これまで、毎日同じものを食べる人物を何人も取材してきたが、その多くが「好きが高じて」という人ばかり。一方で、福岡氏が毎日カレー生活を始めたのは、ひょんなきっかけだった。

「一人暮らしで鍋いっぱいのカレーを作っちゃって、1日3食カレーを食べてたんです。数日後、やっと完食だと思った頃に、実家から届いた荷物に、特大サイズのジップロックがパンパンになるほどの、母手作りのカレーが入ってたんです。それで、『もし、毎食カレーを食べ続けたら、体はどうなるのかな?』と素朴な疑問が浮かび、試してみることに。でも、3週間ほどして親戚の不幸で実家に行かなくてはならなくなり、連続カレーが止まってしまいました。そこで毎食は諦め、毎日カレーに挑戦し、2013年から4000日以上続いています」

◆毎日カレーを食べても太らない?

自身の体の変化に興味を持ってスタートした特殊な食生活。始めてみて実際に変化はあったのだろうか。

「すみません。残念なくらい変化がないんです。健康診断の結果も変わらずで」

特に変化もないままカレーを食べ続けると、体調や体重ではなく“舌”に変化が現れた。

「カレーの中でもインド料理のカレーを食べる事が多いのですが、インド料理で使うお肉は鶏肉や羊肉ばかりなので、豚肉や牛肉をあまり食べなくなりました。そんな生活をしていると、久しぶりに牛肉を食べると味が全然違って感じるんです。『え!?牛肉ってこんなに乳臭いんだ』って」

◆毎日世界旅行をしているような気分

では、毎日食べていて、シンプルに飽きることはないのだろうか。

「飽きることは全然ないです。日本のカレーばかりではなく各国のカレーを食べているので、毎日世界旅行をしている気分ですよ」

カレーに詳しくない者から見れば、日本・インド・タイのカレーはイメージがつくが、他にどんなバリエーションがあるのか。

「異国の食文化が混ざるところでは、新しいカレーが生まれます。例えば、イギリスはインドからの移民が多いのでイギリス生まれのカレーがあります。特にアジア各国には、独特のカレーが根付いていて、例えばマレーシアはマレー人とインド人と中華の文化がミックスされています。中華の影響が強いと、砂糖を使うので独特な甘みが出るんですよ。面白いのは、かつて植民地だった国や地域は占領していた国の文化がミックスされるんですよね。例えば、ベトナムのカレーだとフランス料理の影響を受けていて、カレーをライスではなくパンで食べます」

カレーが文化のミックスである事は日本も例外ではないと福岡氏。

「日本のカレーも、明治時代に西洋からの影響を受けた洋食の文化によって発展して来ました。そう思うと、毎日カレー生活は、毎日世界旅行をしているようなワクワク感にあふれています」

◆「100年に一度の大雪」で大ピンチ

毎日カレーの日数が、体調の変化や飽きなど内発的な理由で途切れることはなさそうだが、これまで継続のピンチに陥ったことは何度もあるという福岡氏。

「仕事などで普段と違う地域に行って夜が遅くなると、カレー店はもう空いてないんですよ。その時に助かるのが牛丼チェーンの『松屋』ですね。松屋もなければ、コンビニ。カレーって、どのコンビニでも展開はしているんですが、人気があるので深夜だと売り切れが多いんです。カレーを求めて、ファミマ・セブン・ローソンをはしごした夜も何度かありました(笑)」

カレーを求めて町を夜の徘徊する、もはや“カレーゾンビ”の状態にまでなっていた。さらなるピンチは、旅行先での予想外の悪天候だった。

「鳥取に家族旅行した時、100年に一度と言われる大雪が降って、数日間どこにも出られない状態になったんです。でも、それまでのピンチの経験を踏まえて、レトルトカレーを持参していたので難を逃れました(笑)」

◆子供が生まれて生活が一変したが…

そんな福岡氏の生活も、子供の誕生で外食の機会が減り、大きく変わったという。それでも、毎日カレーをやめなかったのには、ひとつの決心があった。

「『カレーで子育てをしよう』と決心したんです。せっかく僕の子供として生まれて来たなら、カレーまみれで育ててみようと」

そこから、ある意味での英才教育が始まった。

「お食い初めは、僕が世界のカレー料理で再現しました。実家の金沢から鯛を送ってもらって、それをスパイス焼きにして、お吸い物もカレースープに(笑)。それから、誕生日は南インド料理に見えるバースデーケーキ(?)を作りました」

育児イベントだけでなく、日常食もカレーまみれになったそうで……。

「まず、最初の離乳食はインドのお米をおかゆにして食べさせました。離乳食を卒業してからは、辛いカレーは食べさせられないので、唐辛子を抜いたスパイスのブレンドを考え、パプリカパウダーに変えて作っています。同じナス科の植物なので、唐辛子の辛味はなくても香りは唐辛子そっくりなんですよ。日本のカレーライスも本格インド料理も不思議とよく食べてくれています。カレーのスパイスには子供を魅了する力があるようです」

カレーへの愛もすごいが、これらすべてを試行錯誤して手作りする手間を考えると、子供への愛情もひとしおだ。

「そして、1歳の息子を連れて、インドにも行きました。道中は本当に大変でしたが、息子にはカレーを通していろんな世界を見て欲しいと思っています。本人から『イヤ』と言われるまで続けたいと思いますが、イヤと言われても続くかも(笑)」

◆食べていない時も「カレーのことを考えている」

最初は特別に好きだったわけではないカレーに対し、ここまで執着するほどになった福岡氏。今では、カレーを食べていない時間もカレーのことを考えているほど。

「学生時代、地理学を勉強していたので地図帳を見るのが大好きなんです。だから、時間が空くと、世界地図を見ながら『ここは西に山脈があって東が乾燥地帯だから、こんなカレーがあるんだな』なんて妄想をしています」

もはや、脳みそがカレーに満たされているような状態だが、世界地図を見ながら将来の展望も芽生えた。

「インド人が世界中に進出しているじゃないですか。例えば南アフリカとか。そういう場所で生まれるカレーってどんなものなんだろうと興味がありますね。他には、ドバイにもインド人たちが建徳関係の労働力として大勢行ってるんです。そうなると、これまでになかったドバイ・インド風カレーが生まれますよね。食べてみたいです!」

取材終わりで、福岡氏に「有名店以外で個性の強い店を」と聞いたところ、カレーの聖地・神保町の「パンチマハル」という店を教えてくれた。世界中にカレー文化があり、日本でも店ごとの個性が強烈だというカレーの世界。勧める「パンチマハル」が出すカレーは、何風とは形容しがたい美味しさを感じるとのこと。一度、訪れてみてはいかがだろう。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。