秋の始まりは、澄んだ空気に 似合う透明感ある草花を。

まだ暑さは残っているものの、空が高くなり、虫の声も聞こえてくるように。朝晩の気温が徐々に下がり、過ごしやすい日が増え、ほっと一息。9月の初秋から11月の晩秋にかけて、植物は大きく変化。そんな秋の始まりは、郷愁を感じさせるはかなげな花や、透き通る色合いの実ものなどを贈りたい。


ジニア クイーンレッドライム
Zinnia elegans ‘Queen Red Lime’

アンニュイな色合いで、秋の気分を深める。
科名/キク 原産地/メキシコ、南北アメリカ。お盆の仏花としても出回っているジニアの和名は百日草。初夏から秋までと開花時期が長いことからこの名前がつけられた。上向きに直立して咲くので、飾りやすい切り花だ。クイーンレッドライムは、秋の始まりにふさわしいアンニュイな色合い。「ジニアといえば原色系を想像しがちですが、お盆が過ぎていち段落した頃には、こういう色合いが似つかわしいと思います。小花や葉っぱものと合わせると、立体感のあるブーケに仕上がります」


マリーゴールド
Tagetes

秋の光をイメージする、美しい花色。
科名/キク 原産地/メキシコ。花色は黄色やオレンジで、アブラムシなどの害虫を寄せ付けない独特の香りを放つ。名前の由来は聖母マリアにちなみ“聖母マリアの黄金の花”という意味がある。「4月から10月頃までと長い期間、咲いている花です。私はこの花のオレンジ色が、斜めから差し込む秋のお日さまの光と似ているなってつくづく思うんです。だから、ぜひ9月に贈ってほしい。葉っぱも華奢でかわいらしいです」。丈夫で生命力もあるので、健康を祈って渡すのにも最適。


リコリス
Lycoris

天に向かって伸び、前向きな気持ちを誘う。
科名/ヒガンバナ 原産地/東アジア。花持ちがよく、丈夫で扱いやすい。クリームがかったホワイトにピンクが混じるホウディシェリーはおすすめの品種のひとつ。咲き始めは白く、満開になると花弁の縁などがピンクに染まる。「赤が印象的なヒガンバナの仲間ですが、白のほうが比較的インテリアに馴染むので、贈る相手を選ばない気がします。まだ暑さが残っているので、扱いが楽な球根植物は重宝されるはずです」。いくつかの花弁が外側に向かって放射状に並び、エレガントな咲き姿を披露。


コスモス
Cosmos bipinnatus

郷愁を覚える、けなげさに魅了される。
科名/キク 原産地/アメリカ、メキシコ。和名で秋桜と記される、秋の季語にもなっているほど馴染み深い花。日本にやってきたのは比較的新しく、明治時代といわれる。規則正しく花弁が並び、秩序のある調和が取られている。「日本人の情緒に訴える、はかなげな美しさがあります。秋の風にゆれながらどんどん背が高くなっていく姿は、子どもの頃の記憶にある原風景。ノスタルジックな心持ちを誘います。最近は八重咲きもあり、思い出を蘇らせる花束として、受け取っていただきたいです」


ビバーナム コンパクタ
Viburnum opulus ‘Compactum’

小鳥も大好きな、赤い実もので季節感を届ける。
科名/スイカズラ 原産地/ヨーロッパ、東アジア。春にアジサイのような花を咲かせ、コンパクタは秋になると光沢感のある赤い実をつける。「赤は小鳥が見つけやすい色といわれています。種を遠くに、なんなら海も渡って飛ばしてほしいので、鳥に食べてもらえるよう色づくのだとか。そんな自然の営みをお届けしたいので、実ものをチョイス。でも、これはまだ、秋の始まりになる実なので、透き通ったきれいな赤をしているんです。晩秋につく植物の実は、もっとぐっと深い赤色になります」

平井かずみ Kazumi Hiraiフラワースタイリスト

草花が身近に感じられる、暮らしに根付いた日常花を提案。東京・恵比寿のアトリエ「皓SIROI」を拠点に、日本全国で花の教室をはじめとしたワークショップや展示を開催。著書に『あなたの暮らしに似合う花』『花のしつらい、暮らしの景色』(ともに扶桑社)など。

illustration : Shinji Abe (karera) edit & text : Wakako Miyake
参考文献:『花屋さんで人気の469種 決定版 花図鑑』(西東社)、『花の名前、品種、花色でみつける 切り花図鑑』(山と溪谷社)

&Premium No. 126 Life with Flowers & Greens / 窓辺に、花と緑を。

人はなぜ、こんなにも花や草木を愛するのでしょうか。植物と触れ合うことは、その美しさを愛でるということにとどまらない大きな喜びを、私たちに与えてくれます。植物とともにある生活は、毎日が発見の連続。 季節の移ろいに敏感になるだけでなく、住まいや暮らしそのものを、心地よく、健やかにしたいと願う気持ちまでもが、ふつふつと湧いてくるように思います。さらに、私たちの中に潜む原初的な感覚の扉をそっと開き、心にやすらぎをもたらしてくれるのです。今号は、花を飾ること、植物を育てることを楽しみながら、心地よく暮らす人たちを訪ねました。

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