日本賃貸住宅管理協会によると、全国の賃貸物件における滞納率(1ヵ月)は0.8%と、およそ125世帯に1件が家賃を滞納しています。保証会社の普及や審査の厳格化で滞納者の割合は年々減少傾向にあるものの、深刻なのが「高齢者による滞納」です。賃貸マンションで暮らす元公務員Aさんの事例をもとに、AFPの石川亜希子氏が解説します。

もはやボランティアですよ…不動産オーナーの苦悩

マンションやアパートを何軒も所有していると聞くとなんともうらやましいと思ってしまいますが、時にはそうともいえない事情もあるようです。

入居者が高齢で、家族や親戚とも付き合いがないようなケースでは、家賃を滞納していてもなかなか追い出せず、それどころか色々な世話をするはめに。

「もはやボランティアですよ……」と、とあるオーナーは自嘲気味に、最近あった事例を話してくれました。

元公務員の入居者、悠々自適な老後と思いきや…

マンションの一室に暮らすAさん(79歳)は元公務員で、若いころに離婚して以来、ずっと一人暮らしのようです。月に20万円ほどの年金を受給していて、退職金もあり、賃貸契約時の預金額1,000万円以上。経済的に困窮しているようには見えませんでした。

Aさんは一人暮らしとはいえ非常に社交的で元気そうでしたし、元公務員ということで悠々自適な老後なんだろうとオーナーも安心していました。

しかし、だんだん家賃をきちんと振り込んでくれないことが増え、その都度催促することが続きました。そして、Aさんがだんだん小さくなっていくようにも見えたのです。

あるとき、ついに滞納が3ヵ月をすぎ、しびれを切らしたオーナーは部屋を訪ねました。

最初はなかなかドアを開けてくれなかったAさんでしたが、オーナーの粘り強い声掛けでようやくチェーン越しに顔を見せました。

「すみません、ちゃんと払います……」

「お願いしますね、何か困ったことがあったら相談してくださいね」

そんなやり取りを交わしましたが、ドアの隙間から見えたAさんの部屋に驚いたオーナーは、これはただ事ではないと、海外に住んでいるAさんの長女に初めて連絡を取りました。

オーナーから話を聞き驚いた長女は、都合をつけて1ヵ月後に一時帰国。最初は長女の帰国に驚き、家にあげることにも抵抗したAさんでしたが、長女の説得に観念したようです。

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なんでこんなことに…長女とオーナーが唖然としたAさんの現状

渋々玄関の扉を開けたAさん。Aさんの部屋を見た長女とオーナーは、おもわず固まってしまいました。

「なんでこんなことに……」

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響もあり、一人暮らしのAさんは話す人がおらず孤独に苛まれたそうです。そのようななか、たまたまテレビでみかけた通販番組にハマってしまい、買い物依存症に。結果、Aさんの部屋は通販や訪問販売などで購入したさまざまなモノで溢れかえっていたのでした。

片づけを済ませた長女は、何度も「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と深々頭を下げます。ただ、長女によると「あと数年は日本に戻れない」とのことでした。

ひとまずは遠隔の見守りサービスを利用しながら、自治体にも相談するとのことです。また、オンラインで子どもや孫と顔を見せ合い、人と話す機会も増やすことになりました。