1.ペインクリニックとは
痛みの治療を専門とした医療機関
「ペイン(pain)」は英語で「痛み」を意味し、ペインクリニックは痛みの治療を専門におこなう診療所(クリニック)のことです。なお、クリニックという名称ですが病院内の診療科として「ペインクリニック科」「ペインクリニック内科」なども存在します。
「痛み」とは?
痛みは本来、身体に異変が起きたことを知らせる警告信号であり、生命を守るために必要な感覚です。こうした痛みを「急性痛」といい、通常は原因が改善されることで消失します。一方、3ヶ月以上にわたって続く痛みを「慢性痛」といいます。慢性痛は原因が特定できない場合も多く、予後も不明になる傾向があります。
慢性痛はもはや警告信号の役割はなく、日常生活や精神状態に悪影響を及ぼすため、痛みに特化したアプローチが必要となります。
ペインクリニックの対象疾患
ペインクリニックの治療対象となる痛みは、全身で生じます。具体的には以下のような疾患があります。
首こりや肩こり腰痛症首や腰の椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症変形性関節症三叉神経痛(顔面の激しい痛み)頭痛(片頭痛をはじめとした頭痛)帯状疱疹のあとの痛み線維筋痛症(原因不明の全身の痛み)幻肢痛(失った腕や脚の断片や先端の痛み)手術後の痛みがんの痛み など
上記のように身体の構造的な要因で生じる痛みのほかに、ストレスなどの心理社会的な要因が複雑に絡んで増強あるいは慢性化している痛みも治療の対象です。
ペインクリニックでの主な治療法
ペインクリニックでは、医師や看護師をはじめ多くの専門職が連携しながら、以下のような治療をおこないます。なお、ペインクリニックでの治療には、原則として健康保険が適用されます。
神経ブロック治療 | 特定の神経やその周辺に針で直接薬液を注入し、病変部位に限局して痛みの伝達を遮断する。疼痛緩和だけでなく、交感神経ブロックによる血流改善や痛みの連鎖を遮断する効果も期待できる。 |
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薬物療法 | 鎮痛効果のある内服薬や外用薬として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどを使用。痛みの要因に応じて抗うつ薬や抗てんかん薬を処方することもある。 |
理学療法(リハビリテーション) | 身体の運動機能の改善を目的に運動、温熱、電気、光線などの物理的手段を用いておこなわれる治療法。とくに運動療法は認知行動療法を組み合わせることで有効性が高まるとされている。 |
鍼治療 | 経穴(ツボ)に金属の細い針を刺して刺激することで、もともと身体に備わっている治癒力を高める治療法。腰痛や肩こりなど筋骨格系の痛みに効果が期待できる。 |
認知行動療法 | ストレスなどの心理社会的因子が大きく関与している場合に適切な治療法。アセスメントや心理テストをおこない、患者が痛みの原因に気づき受容することで痛みの緩和が期待できる。 |
疼痛管理 | 主にがん性疼痛や術後の痛みに対し、上記の治療法を組み合わせることで痛みの強弱に合わせて疼痛をコントロールする方法。 |
ペインクリニックと整形外科の違い
肩こりや腰痛、膝痛など筋骨格系の痛みに対して、ペインクリニックと整形外科どちらを受診すべきか迷う場合もあるでしょう。どちらも痛みを取り除く治療が可能ですが、治療の対象と目的に違いがあります。
ペインクリニックは、あらゆる「痛み」を対象に「痛みを取り除くこと」を目的としています。そのため、対症療法という側面が強いです。
一方、整形外科は「痛みの原因となる骨や筋肉、関節など」を治療対象とし、「機能回復」を目的として治療をおこないます。そのため、根本治療の側面が強くなります。
以上を考慮すると、とくに次のようなケースでペインクリニックの受診が推奨できます。
とにかく今ある痛みを早く取り除きたい整形外科で治療したが、痛みがまだ残っている年齢や既往歴などから、手術などの根本治療が難しい整形外科の領域以外にも原因がある
ペインクリニック専門医制度とは
ペインクリニック専門医制度は、慢性痛治療の専門家を育成することを目的に、一般社団法人日本ペインクリニック学会により1989年に設立された認定制度です。痛みの治療に関する十分な知識と経験を有すると認められた医師が登録されています。
ペインクリニック専門医になるには、以下のような条件があります。
麻酔科医をはじめとした日本専門医機構の専門医資格を有すること臨床医として6年以上の実務経験があること日本ペインクリニック学会の正会員として5年度以上在籍していること指定研修施設で1年以上ペインクリニックに関する研修を受けていること書類審査と筆記・口頭試験に合格すること など
ペインクリニック専門医制度の詳細や認定医の在籍情報については、日本ペインクリニック学会の公式サイトで確認できます。ペインクリニックを探す際の参考にしてください。
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2.ペインクリニックで働く
ここからは、ペインクリニックで働く職種の仕事内容や役割について解説します。
医師
ペインクリニックで働く医師の多くは麻酔科医です。さまざまな診療科を受診してもなお痛みに苦しんでいる患者が多く来院するため、最後の砦としての役目も期待されます。また、患者が抱える痛みには心理社会的要因が複雑に関わっている場合もあるため、精神面でのケアや、他職種と協力して治療にあたることも重要です。
ペインクリニックは予約制であることが多く、急患も少ないことから残業が少なく、休みも取りやすい点が特徴です。
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看護師
ペインクリニックで働く看護師は主に外来業務を担当します。具体的には、問診、診察・検査・治療の補助、点滴・薬剤の投与、採血などです。患者の痛みの程度をアセスメントし、その評価内容を医師に伝えることも重要な役割の一つです。
病棟がある場合もありますが、多くは外来のみのため日勤が中心です。予約制を導入しているクリニックが多く、残業は少ないでしょう。ただし、クリニックの場合は看護師の人数が少なく、即戦力を求められることもあります。
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薬剤師
ペインクリニックで働く薬剤師は、処方薬の調剤、服薬指導・管理、薬物治療後の効果や副作用の評価などの業務を担当し、必要に応じて医師への処方提案もおこないます。
薬物療法では鎮痛薬をはじめ、ステロイド剤や抗てんかん薬、麻薬など副作用のリスクが高い薬剤も使用します。痛みが効果的に緩和できるよう、医師をはじめとした他職種との連携が求められ、薬剤師としての専門性も発揮される環境です。
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理学療法士・作業療法士
ペインクリニックで働く理学療法士・作業療法士は、痛みの程度や状況、患者の心理面を考慮しながら、リハビリメニューを立案・実践します。リハビリは神経ブロック治療後で痛みが消失しているタイミングのほか、痛みのある状態で実施する場合があります。また、運動器エコーを用いて、筋骨格系の構造や動きをリアルタイムで確認しながらリハビリをおこなうこともあります。
医師と連携して痛みの原因を探りながら治療をおこなうため、リハビリ職としての専門性の向上にもつながるでしょう。
理学療法士(PT)について詳しく知る
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診療放射線技師
ペインクリニックにおける診療放射線技師の主な仕事内容は、以下のとおりです。
エックス線撮影CT検査MRI検査骨密度測定透視下での神経ブロック治療のサポート画像機器のメンテナンス管理 など
痛みを抱える患者に対応するため、検査中に患者が安心して過ごせるようにコミュニケーションをとることや体位を調整することなども大切です。なお、クリニックによっては診療放射線技師が1名のみの場合もあり、自分で検査のスケジュール管理をおこなうこともあります。
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鍼灸師
東洋医学的治療法を重視するペインクリニックでは、主に筋骨格系の痛みに対して鍼灸治療が導入されています。強い痛みではない慢性痛や、長期的な治療が必要な場合は、身体への負担を抑えられる侵襲性の低い治療法を選択する傾向にあるためです。
鍼灸治療をおこなうことで筋肉の緊張をほぐし、血流を改善することにより、慢性痛の緩和・消失が期待できます。また、自律神経のバランスを整えることで、ストレスなどの心理社会的要因による痛みの軽減にも効果があるとされています。
ペインクリニックでは、一般的な鍼灸院では関わる機会の少ない医師や看護師、薬剤師などと連携して治療の一端を担うため、鍼灸師としてのスキルアップにつながるでしょう。
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柔道整復師
柔道整復師が在籍するペインクリニックもあり、とくに整形外科とペインクリニック科の両方がある医療機関の場合、柔道整復師の在籍人数も多い傾向にあります。主に慢性腰痛や肩こり、関節痛などの筋骨格系の痛みに対して、医師の指示のもと以下のような業務を担当します。
問診レントゲンのセッティング徒手療法運動療法テーピング・固定電気治療けん引治療温熱療法・冷却療法 など
接骨院や整骨院ではほとんど関わることのない他職種と連携して働けるため、幅広い知識や技術が身につくでしょう。
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公認心理師・臨床心理士
慢性痛を抱える患者は、心理社会的な要因が複雑に絡まり痛みが増強したり、痛み自体がストレスになっていたりします。そのため、心理的アプローチをおこなう専門家として公認心理師や臨床心理士を配置しているペインクリニックもあります。
心理職員が患者の心理状態を観察・分析し、その評価をもとに医師や他職種と連携しながら治療方針が決定することもあります。患者に対する助言や指導もおこない、痛みや精神的苦痛の軽減を目指します。
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