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9月に新学年度を迎えるフランスでは、全国の中学校のうち199校において、スマホとの距離をとる「デジタル休止」の試みを開始すると、ベルベ教育相が8月27日発表した。「オンライン暴力の予防」と「デジタル画面との接触時間の制限」を目的としており、テスト期間を経て2025年1月から全国的に適用する予定となっている。
◆法で禁止されている小中学校でのスマホ使用
フランスではすでに2018年から小中学校でのスマホの使用は法律で禁止されているが、携帯自体は禁止されていない。そのため、本来ならば校内ではオフにしておくべき電源をオフにしていない生徒も少なくなく、学校側とのいたちごっこになっているのが実情だ。今回の「デジタル休止」テストには、この現状を打破する期待が寄せられる。
対象となる中学生は5万人以上。どういう方法を取るかはそれぞれの学校に任されているが、基本は生徒が中学校に到着した時点から帰宅前まで、スマホを預けるという形をとる(フランス・アンフォ、8/27)。
◆スマホ専用ロッカーの設置
今回のテストへの参加を決めたフランス南西部のある中学校では、中学生約200人分の鍵つきスマホ専用ロッカーを設置。登校時に全員にスマホを収納させ、下校時まで施錠することを決めた。普段から、授業の妨害に加え、盗撮やいじめ、デマの流布など、スマホの中学生の日常への悪影響を憂えている同校校長は、この「デジタル休止」試験への参加を即決したという。(フランス3、8/30)
◆賛否両論
とはいえ、みながこぞって賛成しているわけではない。登下校時の混雑が増すことを憂えたり、職員が本来の教育という業務から外れる「見張り」の仕事をしないといけないのはおかしいという意見もあれば、ダミーを預けるなど何らかの抜け道を見つけてスマホを隠し持つ学生が出てくるという声がある。また、ネット上の嫌がらせは、校内ではなく校外にいるときにされるため、校内のスマホ禁止はいじめ防止にはならないという声もある(フランス・アンフォ、8/28)。
また、もっと根本的に、試験的実施が始まる前から、全国での一斉開始を2025年1月と定めた教育相への批判の声も聞こえる。
◆レストランでのスマホ利用禁止
過剰なスマホ利用に疑問を抱くのは、レストラン経営者も同様のようだ。フランス3(8/29)によると、フランス東部ロトーのあるレストランでは、顧客がテーブルに決まってスマホを置き、食事中もその使用をやめないことに業を煮やした店主が昨年9月、店内でのスマホ利用の禁止を宣言した。
これで客が減っても仕方がないと覚悟していたが1年後の結果は良好で、顧客は減少せず、逆に食事をゆったりととる人が増えたおかげで、デザートの注文が20~30%増えたという。
◆食後のコーヒープレゼントや割引も
ほかにもレストランでのスマホ使用を減らそうとする試みは、あちこちでされている。イタリアでは、スマホを鍵つきロッカーに預ける顧客にワインをプレゼントするレストランがある。
フランス南部のあるレストランでは、かごにスマホを預け、食事が終わるまで触らずにいた人には、食後のコーヒーか紅茶、食後酒をプレゼントするサービスを行っており、おおむね好評だ(フランス・アンフォ)。
フランス中部のレストランでは昨年、1週間限定で食事中のスマホ禁止イベントを行い、参加者の食事代を割引したが、そこでも顧客らのなかには、むしろスマホをいじれない状況を楽しむ人のほうが目立ったという(フランス3、3/12)。
案外、誰しもスマホとの正しい距離を模索しているのかもしれない。