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ドイツの多国籍自動車製造企業フォルクスワーゲンAGが、コスト削減のため、ドイツ国内の数ヶ所の工場の閉鎖を検討しているという。87年の同社の歴史のなかで、国内工場を閉鎖したことは一度もなく、電気自動車(EV)を製造する新興企業との競争のなかで、厳しい決断を迫られている。
◆業績最悪…ベルギーでも閉鎖検討
フォルクスワーゲンAG(以下VWAG)は、従業員を代表する労働者評議会に対し、数十億ユーロに相当するコスト削減のため、ドイツ国内の少なくとも1つの大型車両製造工場と、1つの部品工場の閉鎖を検討している。
ロイターによれば、VWAGは、過去5年間で企業価値の3分の1近くを失い、欧州の主要自動車メーカーのなかでは最悪の業績となっている。同社の販売台数の大半を占めるブランドのフォルクスワーゲンのトーマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)は、状況は非常に緊迫しており、単純なコスト削減策では乗り越えられないと述べている。
VWAGは、アウディ、ポルシェなどの有名ブランドも傘下に収めているが、7月にはベルギーにあるアウディ工場の閉鎖を検討中と発表していた。
◆新たなライバルの台頭 コスト面で脅威
VWAGのオリバー・ブルーメCEOは、欧州の自動車産業は非常に厳しく、深刻な状態にあると指摘。経済環境はさらに厳しくなり、新たな競争相手が欧州市場に参入してきていると述べた。(ガーディアン紙)
新たな競争相手として上げられているのは、BYDをはじめとする中国のEVメーカーだ。欧州連合(EU)は中国からの輸入品に通常の関税に加え追加関税を課すとすでに発表しているが、多くの中国メーカーはコスト面で有利なため、欧州で利益を上げることが可能だと指摘されている。
BYDは、2026年までに欧州自動車市場の5%を支配することを目指しており、直接販売のためすでにドイツの販売代理店を買収している。EV専門サイト『エレクトレック』は、VWAGが積極的にコスト削減をするのとは対照的だと指摘。今回の買収により価格設定と流通をよりうまくコントロールできるようになれば、BYDのセールスは伸びると述べている。
◆労組も批判 政権への影響も
VWAGは約68万人の従業員を雇用しており、2029年まで雇用を保障するという協定を労働組合と結んでいる。しかし会社側は、この協定をも終了せざるを得ないと考えているという。INGリサーチのカルステン・ブジェスキー氏は、VWAGの今回の計画は、長年にわたる経済停滞と成長なき構造変化を浮き彫りにしたと指摘しており、ショルツ首相にとっても打撃になるとみられている。(ロイター)
労働者評議会の代表ダニエラ・カバロ氏は、経営陣は近年、ハイブリッドへの投資を行わなかったり、手頃な価格のEVの開発着手に後れを取ったりしたことなど、「多くの誤った決断」をしてきたと批判している。今後は会社側と従業員側の大きな衝突が予想され、工場閉鎖の検討は、欧州トップの自動車メーカーの基盤を揺るがす問題となっている。(同)