日本人の悪習のひとつとされる「足の引っ張り合い」。なかにはそうした環境になかったにもかかわらず、仲間の足を引っ張ることが常態化するようになったケースもあるようだ。
この話を語ってくれたのは三塚真さん(仮名・33歳)。前職で建材メーカーに営業職として勤めていた際に体験した話だという。
◆外部から招聘された取締役が社内ルールを改悪
「転職して入った会社でしたが、和気あいあいとしていて、チームワークの良い環境という点に惹かれて入社した形でした。数字が悪いメンバーがいてもみんなでフォローするような温かさがあって、良い職場だと思っていました」
だが、営業の部門長が外部から招聘された人物に変わってから、おかしくなったのだという。
「役員待遇として入社した人間だったんですが、着任早々から『この組織には緊張感がない』として、それまでは絶対評価だった評価を相対評価に変更したんです。職位も細分化して、上位評価の人間数%は昇格、下位評価の人間も同様に降格するという制度で、これを半期ごとに行う形になりました。成果が出せる人間はどんどん給与が上がりますが、その逆も起きる環境になったんです」
◆社内の雰囲気も悪化の一途をたどってしまう
最初のうちはそれでもあまり雰囲気は変わらなかった。だが、評価が下されてからは一変した。
「自分もそうでしたが、危機感を覚えるようになったんです。それまではクレームが発生した際は、チームみんなでフォローしあっていたのですが、上長以外はフォローしなくなりました。上長はそれまでメンバーを叱るようなことはなかったんですが、負荷が高くなったことで、声を荒げることが増えていきました」
朝会もストレスフルなものに様変わりした。
「それまで部全体で行っていた朝会は、頑張っているメンバーの共有などがメインの内容でした。それが、成績の悪いメンバーはどうやってリカバリーするのか、具体策を発言しなければいけなくなったんです。詰められたりするわけではないですが、対策に実現性がないと淡々と指摘を受けることになります。それをみんなの前で、明確な答えが出るまでやるので、かなりきつかったですね」
◆行き過ぎた成果主義でトラブルが続出
次第に異常をきたすものが現れたという。
「体調不良を訴えるメンバーが出るようになりました。やはり、成果がなかなか出ないメンバーが多かったのですが、一方で徐々に成果が出ているメンバーも休みがちになっていき……。自分は良くも悪くもない成績でしたが、それでも出勤するのに気力がいるようになって、体調不良を理由に休むことが多くなりましたね」
それまでにはなかった問題も発生するようになった。
「みんな成果を出すことに追われるようになって、トラブルも増えていきました。例えば、お客さんからの注文書を入れるボックスがあるんですが、その中から書類が紛失したり、商談が進んでいた顧客がいたのに、他の営業メンバーに勝手に商談されて成果を横取りされたりということも起きるようになりました。社員同士で喧嘩になる例も増えていき、成果を横取りされた社員による暴力沙汰も起きたりして、部内の雰囲気はかなり悪くなりましたね」
◆2年も経たずに解任されることに
痛みを伴う改革だったわけだが、結果としてはどうだったのか?
「本当に成果を出せるメンバーにとっては良い環境だったのかもしれませんが、多くの人間にとっては劣悪な環境になっただけでした。伸びたのは一部だけで、多くの社員は成果を落とす結果になりました。退職する社員も増えることになりましたが、新しく入ったメンバーも長続きしないので、第一線で稼働できるメンバーの数も減った形でした。結果として、全体としては大きく成果が下がりました。それで改革を行なった役員も2年も経たずに解任されることになったんです」
会社には合わない方針だったとして、元の環境に戻すことになったそうだが、もう昔のような一体感は無くなっていた。三塚さんも会社を去ることにしたという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め