ゴミ収集や足場の建設、道路工事などの現場作業。社会のために必要なエッセンシャルワークである一方で、きつい・汚い・危険の「3K」と呼ばれ、敬遠されてしまう傾向も。そんな現場作業のイメージを変えるため、山口県のとある会社が立ち上がった。
HARADA株式会社(以下、HARADA)は、作業服や安全用品を取り扱う会社だが、特に注目されているのが「オーダーユニフォーム」。それぞれの会社のイメージを表現した、唯一無二のおしゃれでスタイリッシュなデザインがさまざまな業界から人気になっている。
今回は代表取締役の原田栄造さんに、オーダーユニフォームの事業を始めたきっかけや、3K労働のイメージを変えるための取り組みなどについてお話を聞いた。
◆事業に限界を感じ、オーダーユニフォームの道へ
HARADAは創業52年を迎える老舗企業だ。先代の初代社長が軍手や手袋を作る事業をはじめたことが創業のきっかけで、現在は作業服や安全靴の製造を行っている。また、原田さんが会社を承継してから約20年が経過。現在では全国展開を達成し、年商34億円の企業に成長している。
そんなHARADAがおしゃれでかっこいいオーダーユニフォームの展開をはじめたのは2017年ごろ。きっかけは、とある会社からの一言だった。
「これまで行っていた一般的な作業服の販売に限界を感じ、全国に展開できるビジネスを始めたいと考えていました。そんな折、ある取引先から『自分の会社だけのオリジナルのユニフォームがほしい』という声がありました。そこで、会社の特徴や社風に合わせたデザインのユニフォームを作ってみると、とても大好評でした」
◆殺到する問い合わせに手応えを感じた
これが広がって他の会社からも、うちもオリジナルデザインのユニフォームがほしいという声が殺到。「これなら全国展開ができるのでは?」と手応えを感じた原田さんは、オーダーユニフォームの企画・制作を新たなビジネスとして始めることになった。
「野球やサッカーの選手たちは、チームの看板を背負っているという誇りをユニフォームに感じていると思います。作業着を着て仕事をする方たちにも同じような気持ちになってもらいたいと思い、『誇りを纏う』をキャッチコピーに掲げ、スタイリッシュでかっこいい作業着のデザインをはじめました」
◆目標は「3K」のイメージを変えること
原田さんがオーダーユニフォームの制作を始めると、多くの取引先から「うちでもオリジナルのデザインのものがほしい」という声が上がり、次第にHARADAの主要ビジネスに成長することになった。現在では500社以上ものユニフォームを手掛けるまでになった。
原田さんはこのビジネスを通して「3K」へのイメージを変えていくことが目標のひとつだと話す。
「現場作業は汚れることも多いですし、油やペンキなどの臭いも付きます。そして生命に関わる危険な作業もあります。このような現場で着る作業着はまさに『3K』のイメージを与えることが多かったように思います。ですが、そのような先入観をデザインの力で少しでも和らげるのが弊社のミッションです」
◆リクルートに加え、事故防止にも…
HARADAのオーダーユニフォームは特に若い世代に好評で、会社によっては「かっこいいユニフォームを着たくて入社した」という新入社員が現れたり、「自分の仕事に自信を持てるようになった」と従業員が喜んだりと、積極的に作業着を着る人が続出。ユニフォームがリクルートや福利厚生に一役買うことで働き手を呼び込み、定着させるという好循環を生み出している。
そして、オーダーユニフォームは印象の変化だけでなく、事故の予防にも役立っているという。
「とある足場建設の会社が弊社のユニフォームを採用して、ヒューマンエラーが劇的に減少しました。足場を組むにはチームワークが必要で、作業中は瞬時に仲間の動きを判断しないといけません。これまでは社内外の人が似通った作業着を着ていて、混乱が起こることが常にありましたが、オリジナルユニフォームを採用して誰が仲間か一瞬で判別がつき、事故の予防もできるようになりました」
◆日本全国の労働者が、誇りを持てる環境を
3K労働のイメージを変えるだけでなく、従業員に仕事の誇りを抱かせ、事故や怪我の防止までも実現しているHARADAのオーダーユニフォーム。慢性的な人手不足に悩む業界が多いなか、このビジネスが救世主になる日は近いかもしれない。
原田さんはオリジナルユニフォームの展開を通して、「改めて、日本はユニフォーム文化だと思う」と分析している。
「現場仕事はチームスポーツと同じように、チームワークが求められることがとても多いです。だからこそ一致団結するための目に見える装置が必要なのだと思います。弊社のユニフォームが労働者の皆様のパフォーマンスを上げられているとすれば、これほど嬉しいことはありません。」
HARADAの今後の目標は、引き続き3Kのイメージを払拭するようなユニフォームを提供していくだけでなく、日本一のオーダーユニフォームの会社になることだ。そして、今以上の中小企業に対してユニフォームを販売し、ビジネスの規模を増やして100億円の売り上げを目指している。
「これからもおしゃれでかっこいいユニフォームを提供し、日本全国の労働者が誇りを持って働ける環境作りに貢献していきたい」と話す原田さん。今度は海外の作業労働にも目を向けて、オリジナルユニフォームのグローバル展開を図る予定だ。
労働とは汗水を流して働くこと。文字通り汗水を流しながら作業に打ち込む現場作業の方々の自信と誇りを守っていくのがHARADAの役割だ。3Kに本来の意味ではなく、かわいい・きれい・かっこいいといったプラスなイメージを抱かせることも、業界存続のために必要な働きかけではないだろうか。
<取材・文/越前与(えちぜんあたる)>
【越前与(えちぜんあたる)】
ライター・インタビュアー。1993年生まれ。大学卒業後に大手印刷会社、出版社勤務を経てフリーライターに。ビジネス系の取材記事とルポをメインに執筆。