住人の自殺、他殺、孤独死などが原因で生まれる事故物件。これまで17軒もの事故物件に住んできた芸人の松原タニシさん(@tanishisuki)。
2024年6月には『恐い怪談』を上梓するなど、著作家としても活躍している。前編のインタビューでは、事故物件で起きた恐怖体験を話していただいた。今回は、過去に訪れた心霊スポットでの体験や、じかに聞いたという実話怪談をうかがった。
◆鈴の音に追いかけられる
――心霊スポットで、一番すごかったところはどこでしたか?
松原タニシ(以下、松原):今も記憶に焼き付いているのは、台湾の心霊スポットとして有名な廃火葬場です。ここには後輩芸人と2人で行きました。そこには現役で稼働している火葬場もあって、目的地はその反対側にある、もう使われていない火葬場です。もはや廃墟に近いのですが、なぜか廊下に灯りがついていました。
死体を火葬する施設に続いていそうな、その廊下を進んでいくと、暑い夏にもかかわらず、2人とも鳥肌が立って、耳鳴りがし始めました。そして、後輩のスマホが急に作動して、支離滅裂な内容の文章が画面上に次々と流れてきて、ちょっとパニックになりかけました。
すると、先の方からチリン、チリン、チリン、チリン、チリン……と鈴の音がしてきました。音は、こちらに近づいてくるのか、だんだん大きくなってきます。思わず全速力で逃げ出して、外の広い駐車場まで行ったのですが、まだ鈴の音は追いかけてきたのです。
完全に恐怖心にとらわれ、さらに逃げて、照明の明るい辛亥トンネルまで来て、ようやく鈴の音は聞こなくなりました。このトンネルも心霊スポットなのですが、特に異変は起きませんでした(※タニシさんのYouTubeチャンネルの「台湾廃墟で鈴の音に追いかけられる」(1時間36分あたりから注目))。
◆牛の刻参りの現場に遭遇しかけて…
――日本国内の心霊名所に行って、恐い思いをした体験を1つ教えてください。
松原:名古屋市郊外の山の頂上に、牛の刻参りで有名な神社があります。深夜1時をまわって真っ暗な山道を歩き、1人で頂上を目指しました。神社までたどり着いたところで、参道の石段の横からパキパキと音がしたのです。動物かなと思ってゆっくり進んでいくと、音がついてくるのですよ。そして、自分が止まったら、相手も止まるのです。
恐くなって、灯りのある神社の社務所まで戻りました。すると、その壁に、泥をつけた手のひらを押し付けたような跡がついているのです。泥はまだ濡れているから、つけてからそう時間は経っていないはずです。
パキパキという音を出したのは、手形をつけた人間なのかと思い、拝殿の前にあったほうきを手にして、もし相手が襲いかかってきたら戦おうと待機しました。というのも、牛の刻参りで藁人形を打つ姿を人に見られたら、呪いは成就せず、それどころが本人に呪いがかかってしまうと言われているのですね。それを防ぐには、目撃者を殺さなくてはいけない。
ということで、警戒していたのですが、誰も襲ってきませんでした。むしろ、隠れようとしてパキパキという音を立てたのではないかなと……。その日は無事帰れて、後日もう1回山に登ったのです。「この辺でパキパキ音がしたな」というところに行くと、木に穴が開いていて、まさに何かを釘で打った感じなのですね。藁人形がないのは、神社の人が取ったのでしょう。人を呪い殺したがっている人が本当にいるという、そのこと自体に恐さを感じましたね。
◆夜の間に食べ物がなくなる現象の正体
――ご著書の『恐い食べ物』では、食べ物にまつわる怖い話がいろいろ出てきますが、タニシさん自身の、眠っている間に何かを食べている話が気になりました。「寝ている間、僕は僕じゃない」という、出だしから引き込まれてしまいました。
松原:ええ。1軒目の事故物件でのことです。前の晩に買っていたアーモンドチョコが、翌日朝には、パッケージが破られ空っぽになっているというのが、しばしばありました。もともと霊現象を撮るため、定点カメラを夜通しオンにしていたので、それを再生しました。そこには、自分が起きあがって、コンビニの袋を漁ってチョコを食べている姿が映っていました。
睡眠専門のクリニックで診てもらうと、睡眠関連摂食障害かレム睡眠行動障害か、判然とはしないけれども、そういった病状だろうと言われました。要するに、お医者さんもはっきりとは、わからない。症状を抑える薬を、とりあえず処方してもらいました。
不思議なのは、住んだ事故物件によって、寝ながら食べるものが変わることです。最初は、アーモンドチョコでしたが、別の物件ではポテロングだったり、ぬれおかきだったり……。今はもっぱらヨーグルトばかり食べています。もしかすると、事故物件に以前住んでいた人の好物が、霊的に影響しているのかなとも推測しますが。
◆呪われている踏切で判明した事実
――最新作の『恐い怪談』には、100話もの実話怪談が掲載されていますが、その一つを紹介いただけますか?
松原:広島に住んでいるOさんから聞いた話です。家の近所に踏切があって、そこでは人身事故が妙に多いのですね。踏切を渡ろうとしたら、地面から手が出てきて足を引っ張るといった噂もありました。
Oさんが高校生の頃、知り合いの兄が、その踏切で電車に轢かれて亡くなるのです。自ら飛び込んでの自殺だったようです。あの踏切は、やはり呪われているのではと思い、その記憶が焼き付いたそうです。それから、歳月が経って大人になったOさんが、踏切近くの食堂でご飯を食べていたときのことです。
常連のお客さんが食堂の女将さんと、踏切について喋っているのが耳に入ります。「今日も電車が止まっているみたいだね。ここはよく人身事故があるわね」という世間話のノリです。お客さんが、「昔そこで高校生の男の子が自殺して」と言ったら、女将さんが「あれ自殺じゃないよ」って言うのです。Oさんは、思わず聞き耳をたてました。
「私、見たのよ。男の子が、急いでいたのか遮断機をまたいで向こうに渡ろうとしたのを。でも、途中で線路の上に、急にバタッと倒れたんです。倒れたまま、足をバタバタさせるんです。そのまま起き上がることもなく、電車に轢かれてしまいました。自殺だったら足をバタバタさせないでしょう」
すごく恐いわけではないですが、この話が、自分としては印象に残っています。
<取材・文/鈴木拓也>
【松原タニシ】
1982年4月28日生まれ。兵庫県神戸市出身。松竹芸能所属のピン芸人。現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組「北野誠のおまえら行くな。」(エンタメ~テレ)の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまでに17軒の事故物件に住む。ラジオ関西「松原タニシの生きる」、MBSラジオ「松原タニシの恐味津々」、CBCラジオ「北野誠のズバリ」などレギュラー出演中。最新の著書は『恐い怪談』(二見書房)。
X:@tanishisuki
Instagram:@tanishi_m
YouTube:「松原タニシch」
【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki