ようやく9月。やっと地獄のような暑さともお別れかと思いきや、2023年9月には、全国で9000人以上が熱中症により救急搬送されたという総務省の資料「熱中症による救急搬送状況」もある。そのため、まだしばらくは必須となりそうな熱中症対策に頭を悩ませる人も多いかもしれない。
◆一人暮らしの母の困ったこだわり
今回話を聞かせてくれた村上順子さん(仮名・40代後半)の母は、エアコンの使用を頑なに拒否。「エアコンは、夏の必須アイテム」という順子さんとは、クーラーを使う使わないで言い合いになることも少なくなかった。
「数年前に父が亡くなり、母は一軒家でひとり暮らし。私は夫と子どもといっしょに、別で暮らしています。ただ、ここ数年は夏になると酷暑が続くため、別居している母のことが心配で、空き時間をみつけては様子を見に行くようにしていました」
毎回実家へ行くたびに、母はうちわで扇ぎながら「暑い」と汗ダラダラ。さらに、「しんどい」「息苦しい」と口癖のように小言をつぶやくのだ。当然、順子さんも汗でぐっしょり。ときには、カラダの奥底から煮えたぎってくるような不快な感覚に襲われることもあった。
◆母の主張にドン引き
「そのため、母にはタイミングをみて『エアコンは付けたほうがいい』とアドバイスしていたのですが、最終的には激しく言い合いになるという繰り返し。強制的に私がつけたところで、私が帰ってしまえば消すだろうし、本当に心配でした」
ところがついに母は、「エアコンを使うと、カラダが弱くなる。コロナのワクチンだって身体に良くないらしい。そんなことばかり推奨する国は、私たちを弱らせてどうにかしようとしているのよ」などと驚愕の反論。これには順子さんも驚きを越えて、ドン引きしたとか。
「私がしつこくエアコンを使うよう勧めたから言い逃れが難しくそのようなことを言い出したのか、それとも本気なのかはわかりません。ただ、さすがにもうエアコンを使うよう説得するのは難しいと判断。もう、『エアコンを使ったほうがいい』と言うのはやました」
◆実家でぐったりしていた母
ところがそんなある日、順子さんが実家へ立ち寄ってみると、母がグッタリしている。呼びかけても、しどろもどろの返答しかない。すぐに車で病院へ連れて行くと、熱中症との診断。75歳という年齢もあり、安静をとって3日ほど入院することになってしまう。
「心配な気持ちとともに、『だから、あれだけエアコンを使ってと言ったじゃない!』という怒りもわいてきましたが、弱っている母を責めるのは違うとひとまず深呼吸。そして、ワガママで頑固な母が快適に入院生活を送れるよう、病院の個室を準備しました」
すると母は、病室でもエアコンをつけないとダダをこねはじめ、順子さんと言い合いになりかけてしまう。そこへ入ってきた医師と看護師が、やさしく説得をスタート。順子さんはひとまず2人に説得を任せ、いったん自宅へ帰宅している。
「翌日、母の着替えなどを持って病院へ行くと、エアコンがついていて驚きました。しかも母は、『昨日の夜は、すごくよく眠れた』と超ご機嫌。入院中にエアコンを使うようになったことで快眠できるようになり、『快適に過ごせる』と大喜びしていました」
◆嘘のようにエアコンに依存
退院した母は嘘のようにエアコンに依存し、「はぁ~、快適!」「エアコンがないと生きていけない」「エアコンをつけるようになって、カラダがラク」と繰り返しているのだとか。順子さんも、一安心。夫や子どもを連れて実家へ遊びに行きやすくなったと大喜びしている。
「クーラーの使いすぎはカラダにとってよくないとは思いますが、命にかかわるほど暑い日も少なくありません。母は入院で済みましたが、熱中症で後遺症が残ったり命を落としたりする人もいるようなので気をつけてほしいです」
そして順子さんは、「まわりがしつこくエアコンの使用を提案する理由についても、もっと真剣に考えてほしいです」と付け加えた。昨今の夏は、健康が脅かされるほど暑い日も多い。まわりの意見やエアコンの風も取り入れつつ、残暑を快適に過ごしてほしいものだ。
<TEXT/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意