ヨルダン川西岸のエフラト入植地|ImageBank4u / Shutterstock.com

 ユダヤ人がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸において「入植地」を拡大している。昨年10月にガザ地区で戦闘が始まってからは、パレスチナの民間人に対する入植者の暴力も急増しており、懸念が高まっている。

◆銃で脅され住居を奪われた女性

 被害の実例を報じる英BBC(9月3日)によると、パレスチナの高齢女性であるアイシャ・シュタイエさんは昨年10月、銃を突きつけられ、50年間住んでいた家を離れるように脅された。武器による脅迫は2021年、違法な入植地が彼女の家の近くに設けられてから起きるようになったという。

 アイシャさんと夫が持ち物を取りに家に戻ると、家はすっかり荒らされていた。キッチンの戸棚は壊れ、リビングルームのソファはナイフで切り裂かれていた。彼女はBBCに、「私は彼を傷つけた訳ではないし、何もしていない。なぜこんな目に遭わなければならないのか」と無念の胸中を明かす。

◆宗教的信念に基づかず、単に安い家を求める人々も

 こうした事例は頻発している。英エコノミスト誌(8月27日)は、イスラエルの入植者がガザ地区での戦争に関連して、「前例のない権力」を手に入れつつあると報じる。

 ヨルダン川西岸に位置する入植地ミツペ・レボナ(Mitzpe Levona)では最近、イスラエル人向けの新しい住宅が建設されている。政府の承認を受けており、宗教的シオニズム(宗教的信念に基づき、ユダヤ人国家をパレスチナに再建することを目指す政治運動)を信奉する人々が多く住んでいる。

 同じ西岸地区のツォフィムの入植地はさらに大規模だ。シオニズムとは特段関連のない多くのイスラエル人が、単に低価格の住宅を購入したい動機により移り住んでいる。

◆政府・軍が入植を支援

 入植地には、イスラエル政府によって公式に承認されたものと、そうでないものがある。公式に承認された入植地は、主に都市型のユダヤ人居住区だ。しかし、これらの入植地も国際法違反と指摘されている。さらに、一部の入植地はイスラエル政府すら承認しておらず、違法な入植地「アウトポスト」と呼ばれる。

 このアウトポストが近年急速に増加している。BBCの分析によると、現在ヨルダン川西岸全域に少なくとも196ヶ所あるという。そのうちほぼ半数の89ヶ所が2019 年以降に建設されたものとみられている(昨年は29ヶ所)。またBBCは、イスラエル政府と密接な関係を持つ組織が違法なアウトポスト建設のための資金と土地を提供したことを示す文書を確認した、と報じている。

 IDF(イスラエル防衛軍)も入植地と無関係ではない。入植地の防衛やパレスチナ人との衝突の解決において、IDFがしばしば入植者を支援する。入植地周辺でのパトロールや警備活動は、IDFが担当することが多い。介入は必ずしも中立的ではなく、入植者側に有利な振る舞いをすることがある。

 IDF内部にはこの状況を懸念する声もある。元中央司令部の司令官であるイェフダ・フックス少将は、入植者の一部が「超国家主義的な犯罪活動」に関与していると批判する。

◆国連は入植の停止を求める

 国連の国際司法裁判所(ICJ)は7月、イスラエルが占領地での新たな入植活動をすべて停止し、占領地からすべての入植者を撤退させるべきだという勧告的意見を出した。しかし、イスラエルはこの意見を「根本的に間違っている」と述べ、一方的だとして拒否した。

 入植地の拡大や暴力を国際社会は問題視している。イギリス政府は今年初め、パレスチナ人に対する暴力を扇動または実行したとして過激派入植者8人に制裁を科したした。アメリカ政府は先月末、イスラエル政府の資金提供を受けている過激派入植者に対し、新たな制裁を発表した。パレスチナ人を威嚇し土地を奪う特定の組織と個人を対象に、アメリカ財務省は「特別指定国民」に指定し、資産の凍結とアメリカ市民・企業との取引を禁じた。日本政府も7月に、ヨルダン川西岸の住民への暴力に関与したとされる入植者4人に対し、資産凍結などの制裁を科すことを決めている。

 イスラエル側が「合法」と位置づける入植地だが、国際社会の懸念の対象となっている。