中国軍のY-9|Ministry of Defence of the Russian Federation / Wikimedia Commons

 タイ北部のタイ王国空軍基地で8月18日から8月29日まで、中国との共同演習「ファルコン・ストライク演習」が行われた。長年詳細が非公開だった中国の電子戦機「Y-9LG」が参加し、その子細が初めて明らかになった。

◆長距離におよぶ妨害能力

 中国の最新の電子戦機「Y-9LG」は、Shaanxi Y-8/Y-9四発ターボプロップ輸送機シリーズをベースとした多用途機だ。長距離ジャミングプラットフォームとしての役割を担うとみられる。中国は電子戦プラットフォームに大規模な投資を行っており、Y-9LGはその一環として開発された。米ウォー・ゾーン誌は、これにより、中国の特殊任務機のラインナップがさらに強化されたと分析する。

 Y-9LGは「高新13号」とも呼ばれ、2022年に中国人民解放軍空軍(PLAAF)に配備された。フランスの軍事メディアであるネイバル・ニュースは、開発は少なくとも2017年から行われていたと指摘する。今回、タイでの二国間空軍演習「ファルコン・ストライク」に参加し、初めて海外演習に姿を見せた。

◆早期警戒機に妨害機能を付加か

 最も顕著な特徴は、機体上部に取りつけられた「バランスビーム」レーダーアンテナだ。ウォー・ゾーンは、KJ-200早期警戒機にも似ているが、より攻撃的な用途に使われると分析する。電子スキャン用のレーダービームを放つだけでなく、敵のレーダー信号を妨害する能力を持つとの見立てだ。

 Y-9LGの具体的な役割については未詳で、PLAを注視するコミュニティ内でも見解が分かれている。ネイバル・ニュースは、主に電子戦を中心に活動するとの観測が主流となっており、特に「バランスビーム」型のジャマー(妨害)・プラットフォームとして投入されるとの見方があると報じている。現行のAEWC(空中早期警戒管制システム)の強化版の位置づけであり、目標の検出と追跡だけでなく、電子戦を通じて敵兵器を妨害するとの読みだ。

 ネイバル・ニュースによると機体には、特殊任務用のフェアリングが複数装備されている。前部胴体上部には衛星通信(SATCOM)ドーム、後部胴体側面には側方監視用のSIGINTアンテナが設けられている。さらに、翼端や垂直尾翼の上部には電子支援対策(ESM)アンテナがあり、多様な電子戦任務を遂行可能とみられる。

◆台湾有事でも投入の可能性

 インドのウィーク誌は、中国がアジア太平洋地域でY-9LGを使用する可能性があるとみる。Y-9LGのセンサーは、目標を視認する必要があるという制限がつくものの、PLAAFのシチュエーショナル・アウェアネス(状況認識)において重要な役割を果たす可能性があると論じる。

 ウォー・ゾーンによると、基礎となるY-8/Y-9プラットフォームは、中国本土から遠く離れた地点に位置する簡素な基地からの運用に特に適している。すでに、ターボプロップエンジンを搭載した特殊任務機が中国の島嶼(とうしょ)部の一部の前哨基地に定期的に出現しており、台湾海峡でも定期的に運用されている。

 空中からの電子戦支援は、台湾有事の際にも積極的に用いられる可能性がありそうだ。