住宅ローン完済後に待ち受ける“恐ろしい未来”

さらに筆者は、夫婦が想定している返済金利である年利0.5%は、今後の金利の上昇を考えると少々心許なく感じました。

そこで、夫婦の借入額は変えずに、変動型金利の5%ルールや125%ルール※を考慮したうえでシミュレーションをしてみることに。

※ 変動金利型の住宅ローンは、一般的に半年に1度金利を見直すが、5年間は毎月の返済額は変わらない「5年ルール」がある。また、「125%ルール」は5年経過後の6年目からの毎月の返済額を見直しても、今までの返済額の1.25倍までしか上げることができない。なお、これらのルールを適用していない銀行もある。

その結果、住宅ローンは完済できても、やはり老後資金は枯渇してしまうことが分かりました。

原因として、住宅ローンの返済期間中に支給されるBさんへの「出産手当金」や「育児休業給付金」が挙げられます。これらは本来の給与額を満たす金額ではなく、返済期間も教育費が必要な時期に重なるためです。

そのため、今までの蓄えなどを毎月のローン返済額に充て、さらに現金が必要となる子どもの教育費のことを考えると、老後の生活資金を貯める余裕はありません。

その結果、老後は年金収入だけの生活を強いられ、家計支出を減らすだけでは生活が成り立たなくなる懸念があるのです。

A夫婦の住宅ローンの借り入れ計画は、確かに住宅ローン利用者の実態調査をみると、決して突拍子のないものではありません。

〈住宅ローン利用者の実態調査※〉

■利用した住宅ローンの借入金利:0.5%以下

返済期間:30年超~35年以内

■融資率(住宅購入価格対する借入額の割合):90%超~100%以下、平均値は75.9%

■返済負担率:15%超~20%以内

■金利タイプ:変動型76.9%、固定期間選択型15.1%、全期間固定型8.0%

■「ペアローン」の利用割合:22.8%

※ 住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2024年4月調査)】」より抜粋

しかし、これはあくまでも一例。家計や家族の構成によっては成り立たないこともあるのです。

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これから貯蓄してから融資を受ける“ベストプラン”は?

しかし、夫婦は通勤の便や部屋の広さにこだわるため、自ずと購入価格は下がりません。そこで筆者は、ペアローンを考え直すよう必死に説得したうえで、次のような「新しい住宅購入計画」をすすめました。

まず、現在の住宅購入計画は断念します。これからまず6年間は、Aさんの現在の貯蓄800万円を1,500万円まで増やして、その資金を頭金にAさんが単独で6,500万円の融資を受けます。そして、全期間固定金利型年利1.8%の住宅ローンで、40歳から25年間、毎月約26万円ずつ返済する計画です。

Aさんの昇給を見込むと、年収倍率も返済比率もクリアできます。またBさんの給与は、子ども教育費や夫婦の老後資金のための貯金に回します。

この計画で夫婦の老後の家計の心配はなくなり、夫婦ともに100歳まで生存しても、数百万の貯蓄は残ります。

住宅ローン金利が想定より上昇しても、夫婦で節約を重ねて、Aさんが毎月約10万円貯め続けることが成功のカギとなります。

住宅購入のために必要以上の費用をかけて、家計が成り立たなくなっては元も子もありません。入念な準備をしてから、人生で一番高価だと言われる買い物をしたいものです。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員