妹からの病気の告白を突き放した兄
ところが、想定外の事態が起こった。会社の人間ドックで、佐藤さんにがんが見つかったのだ。
「手術が必要ということで、バタバタと手術の日程が組まれました。仕事をどうしよう、母の介護をどうしよう…と、いろいろな心配や不安が押し寄せてきました」
佐藤さんも、この時ばかりは自宅に母親を引き取ったことを後悔したという。
「ひとり静かに考える時間がほしかったのですが、むずかしい状況でした」
帰宅すると、テレビで見た内容をとめどなく話し続け、リアクションを求める母親に耐え切れず、佐藤さんは頭を冷やすため、サイフと携帯電話をもって外に出ると、兄に電話をかけた。
「母を引き取ってすぐに私の手術が決まって…。まさか会社で相談なんてできないし、だれかと話して落ち着きたかったのですが…」
佐藤さんの兄は「ああ、そう。大変だね。役に立てなくてごめんね」「でも、お母さんのことよろしくね」とだけいうと、話も聞かずにそそくさと電話を切ってしまった。
「そのあと、どうしても部屋に戻る気になれず、カフェでずっとひとり、コーヒーを飲んでいました」
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母に思い切って、自分の病気のことを話したら…
佐藤さんは自宅へ戻ると、思い切って母に自分の病気のことを話した。手術が決まり、しばらく入院すること。もしかしたら、仕事復帰まで少し時間がかかるかもしれないこと。元の生活に戻れるまで、母親には施設で過ごしてもらいたいこと、などだ。
「する母は、〈そんな面倒なことになるんなら、ここに来なければよかった〉〈あなたがいなくなったあとにお母さんが困らないよう、ちゃんとしておきなさいよ〉と…」
そういうと、佐藤さんはうつむいた。
「兄といい、母といい、私をなんだと思っているのでしょう。怒鳴られたわけではありませんが、ハッキリいって暴言ではないでしょうか。ほとほといやになりました。やはり、母には施設に入ってもらおうと思います。とてもそばで面倒を見ることはできない…」
介護の負担が子どもの人生の抱えきれない重荷となることもある。家族として支え合えればいいが、だれもが理想的な着地ができるとは限らない。日本はさまざまな行政サービスが整備されている。頼れるところは頼り、利用すべきところは利用し、なにもかもひとりで背負い込み過ぎないことが重要だ。
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