高速道路の時間別料金設定「ロードプライシング」は渋滞緩和の有効策?「先行実験」でみえた “微妙”な効果

国土交通省が、高速道路の料金を時間帯などによって変える「ロードプライシング」の導入に向けて検討を始めたことが報道されている。2025年度に一部地域で試行を開始するという。

ロードプライシングは直訳すると「道路の値付け」。有料道路の通行料金によって、都市部への交通流入や渋滞緩和などにつなげる交通需要マネジメント施策のひとつだ。

東京オリンピック・パラリンピック開催時に選手や大会関係者などの移動を円滑にすべく、導入されたことは記憶に新しいだろう。首都高速の渋滞を緩和させようと昼間の時間帯において乗用車のみ料金を上げて交通量のコントロールを目指し、実際に期間中の首都高の渋滞減少に貢献したことも報告された。

ロードプライシングは渋滞緩和に有効か

では、ロードプライシングは、持続的な渋滞緩和にも効果が期待できるのだろうか。

東京オリンピック・パラリンピック時は、たしかに首都高速で実施したロードプライシングはそれなりに機能したという印象がある。ただ、巨大イベント開催中であり、期間限定だったことを踏まえると、あくまで参考程度と捉えるのが妥当といえよう。

渋滞しそうな時間帯において交通量を減らすために通行料金を上げるのがロードプライシング制度。十分に機能するには、多くのユーザーに徹底した合理性があることが条件になるだろう。それではじめて「通行料金の安い時間帯を利用しよう」というドライバーにとってのインセンティブにもつながりうる。だが、そこには机上の空論的なロジックが含まれている気がしてならない。

結論からいえば、ある意味で「我慢強く」かつ「慣れやすい」という日本人の特性からすると、導入当初こそロードプライシング本来の交通量分散による渋滞緩和は実現できたとしても、ほとぼりが冷めてくれば時間帯によって高くなる料金体系を受け入れてしまい、結局は混雑する時間帯は変わらない。そう推察する。あくまで予測だが、実はすでに“実証済み”だ。

実証実験で見えてきた効果の微妙さ

たとえば、東京湾アクアラインがロードプライシングの実証実験を令和5年7月22日より実施している(令和7年3月31日まで延長実験中)。これは、アクアラインの木更津―川崎をつなぐ上り線で、土日など休日の13時〜20時に限り通行料金を高くして、逆に20時〜24時は安くすることで交通量を分散しようとするものだ。

具体的には普通乗用車での場合、以下の料金体系となっている。

0時〜13時:800円
13時〜20時:1200円
20時〜24時:600円

この料金体系を見れば、誰もが安価な時間帯に走行するのが経済合理性があると考えるはずだ。ところが、実証実験の途中経過をまとめたレポートを見る限り、そうはなっていない。


実証実験の結果は微妙な印象だ(千葉県HPより)

たしかに料金が割引になる20時〜21時の時間帯に走行しているユーザーが多少は増えてはいるが、結果としてもっとも混雑している時間が14時前後であることは変わっていない。さらに制度実施から時間が経つにつれ、19時台の交通量が増えているなど時間の経過とともにロードプライシングによる効果が薄れていることがみて取れる。

結局のところ、ドライバーは「●●時には帰宅したい」、「●●時ころには食事をしたい」といった慣れ親しんだ生活スタイルを優先し、ロードプライシングによる高い通行料金を受け入れてしまう人のほうが多くなるという状況が容易に想像できる。

まして、全国的にみれば慢性的に渋滞している道路はごく一部だ。ロードプライシングを全国的に導入するならば、そこに渋滞緩和のプラスの意義は見出しづらい…。

考えるべきは渋滞の根本原因

ロードプライシングの狙いが、体の良い通行料金値上げではなく、本当に渋滞の解消をしたいという目的なら、考えるべきは渋滞の根本原因だろう。

渋滞は交通量が道路のキャパシティを超えたときに発生する。それは間違いないが、それだけが原因ではない。

一見すると、スムースに流れているようでもトンネルや登り坂など無意識レベルで”わずかに”速度が落ちてしまうような「サグ部」とよばれる地点が渋滞の原因となることもある。そうした、サグ部のような道路の構造による渋滞についてはロードプライシングでは解消できないのは自明だ。

もちろん、サグ部では、速度低下への注意喚起の看板や流れる光などで速度を維持するような仕掛けや、車線を増やして対応していたりすることもあるので、渋滞の発生に対して無策というわけではない。

いずれにしてもロードプライシングだけで渋滞を緩和できるわけではなく、あくまで数ある施策の一つでしかない。

本格的にロードプライシングを導入するのであれば、高速道路のスマートかつスムースな走り方についてもより啓蒙が必要だろう。最近ではACC(追従型クルーズコントロール)を装着しているクルマも増えてきている。そうした機能も適切につかえば渋滞緩和につながる部分もあるだろう。

なお、現時点においても高速道路では、特定の時間帯に走行することで30%の「深夜割引」を受けられる制度なども実施されている。高速道路の交通量を平準化する施策としてのロードプライシングはすでに行われているともいえるのだ。

ただ、こうした深夜割引を利用すべく時間調整を行う一部ドライバーの行為が社会問題となっているほか、割引される時間帯に走ることがトラックドライバーの労働環境悪化につながっているという指摘もある。その対策として制度の見直しが進められていることも覚えておきたい。