September.06 – September.12, 2024
Saturday Morning
Title.
Heaven Must Be Like This
Artist.
D’Angelo あまり曜日に関係なく動く自分のようなものでも、土曜日の朝は自然と元気である。平日の緊張感でぱんぱんに膨らんだ街の空気がシューと抜けていくのを感じて開放感がある。散歩に出てD’Angelo版の「Heaven Must Be Like This」を聴くと、それはまさに天にも昇るグルーヴや音色、メロディー、歌で、いつまでもこの曲に包まれていたくて、気付けば2時間くらい歩いている。ああ、いっぱい聴いた、最高だった、と帰宅して読む歌詞は、自分が解釈するところだと、天国をだれかの中に見出したよろこびの言葉に満ちているものの、天国や神の存在を求めるきっかけになった癒されることのない不安や悲哀の影が落ちているのも感じて、「ちがいない」といったん断言してみるに至った切なさでからだがばらばらになりそうになる。断言することは、ものごとが不確定なのをはっきり認めることでもあって、しんどい作業で、いつもためらわれるけれど、なにかをいったん乗り越えてまた考え直していくために役に立つ。そういう風にとらえられる元気が土曜日の朝にはある。
アルバム『The Best So Far』収録。
Sunday Night
Title.
幸せっていうのは
Artist.
冨田勲 土曜日の朝は元気なのに比べて、日曜日の夜はけっこう弱気。そういう時に冨田勲さんの曲を聴く。素直に、すごいな、と思えて勇気が出るからだ。映画が始まってすぐ、音楽がいいなあと調べたら冨田さんでうれしかったのを思い出して、1993年公開の映画『学校』のOSTを聴き始めた。そしてメインテーマであるこの曲のタイトルが「幸せっていうのは」ということを今さら知って、良い方のショックを受けてしばらく固まった。この曲は映画にぴったり並走しながら、映画には出てこない、言い切らない言葉の先にあるかもしれない物語の想像をちょっとずつ差し出すような音楽に聴こえてきて、この映画においての最高の在り方という気がして、感動で硬直したのだった。冨田さんはほんとうに様々な種類の曲を作っていてすごすぎる。人間では理解できないくらいのおもしろくてすばらしい曲もあり、こうして映画がまっすぐに伝わり拡がる曲もあり、情熱ととてつもない手腕に慄く。どうやって生きたらこんな曲が作れるんだろう。余白を前半と後半をつなぐように挿入されるチェロのメロディーが、だれかがひとりぽつりと話し始めるようで聴き入る。この音楽を自分の知っている現象に喩えることしかできなくて、諦めと安堵の混ざったため息をついて眠る。
アルバム『映画「学校 シリーズ」 (オリジナル・サウンドトラック)』収録。
&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ
音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。
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シンガー・ソングライター/詩人 柴田聡子
北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。2012年、『しばたさとこ島』でアルバム・デビュー。2016年、詩集『さばーく』を上梓し、第5回エルスール財団新人賞受賞。2023年、エッセイ集『きれぎれのダイアリー』を上梓。2024年、アルバム『Your Favorite Things』をリリース。