“ラーメン二郎を150杯食べた”韓国人がソウルで営むラーメン店。「日本のジロリアンも満足する一杯を」

 豚系の脂が溶け込んだ濃厚スープに、しっかりした歯ごたえの極太麺とマシマシの茹で野菜を絡ませていただく「ラーメン二郎」。その元気の出るボリュームと特有の接客スタイルから、ラーメン二郎は一つのカルチャーとして受け入れられています。

 実は、お隣の韓国にも「二郎系ラーメン」は存在し、現地のジロリアンたちから愛されています。

 日本のラーメン二郎を愛し、韓国・ソウルで「566ラーメン」の経営をスタートした韓国人店主、チェ・ヨンウン氏に、経営のきっかけや店舗の接客スタイルについてお話を伺いました。

◆もともとは普通の会社員。日本で食べたラーメン二郎に衝撃を受ける

――店長は、もともとラーメン店の経営者だったのですか?

ヨンウン氏:いいえ。私はこの店で働くまで、ジムのトレーナーとして働いていました。しかし、もともと日本のラーメンが好きで、転職するならラーメンを一から学びたいという思いを持っていたため、この店で働くことにしました。

――では、もともと別なオーナーが経営していたんですね。

ヨンウン氏:そうです。その時からここは二郎系ラーメンのお店でしたが、当時二郎系ラーメンとして提供していたのは、とんこつラーメンにもやしをたくさん乗せただけのものでした。今考えると二郎系ラーメンとは言い難いものでしたが、当時の私は「これが二郎の味なんだ」と勘違いしていました。

――本物の二郎を知ったきっかけは何でしたか?

ヨンウン氏:その後、満を持して日本に渡り、初めて本場のラーメン二郎を食べた時、頭を殴られるかのような衝撃を受けたんです。「自分が食べてきた二郎は二郎ではなかった」と。本場の味が忘れられず、そこから本物のラーメン二郎を作りたいという思いが湧き上がりました。

――そこからどのように、本場の二郎を再現する流れになったのですか?

ヨンウン氏:帰国してから当時のオーナーに「このお店のラーメンは二郎ではありません。本物の二郎を作ってみましょう。」と言ってみました。オーナーは当時、別な事業をスタートしようとしていたこともあり「できるならやってみてよ」と経営を任せてくれました。そして私は店を継ぎ、本場の二郎の味を再現するチャレンジをスタートさせました。

◆日本で150杯の二郎を食べ、独学で味を再現

――二郎の味を再現するうえで、日本での修行はされましたか?

ヨンウン氏:私は本場の二郎店での修行経験はなく、すべて独学でこの味を再現しています。経営を任されてからは日本に何度も足を運び、韓国に戻っては味の記憶をフル回転させて試作する、という日々が続きました。

――本場の二郎はどれほど食べたのですか?

ヨンウン氏:日本に何度も足を運んで、一日に3〜4杯、計150杯ほど食べました。時にはしんどくなって、太田胃散を飲みながら通うほどでした(笑)。でも、経営するための義務感で二郎を食べ続けたわけではなく、本当においしいと思って毎回通いました。

――日本に通ううちに、ますます二郎を好きになっていったのですね。

ヨンウン氏:二郎は知れば知るほど、奥が深いラーメンなんです。お店によってスープの味や麺の太さ、追加できるトッピングまでさまざま。つまり、二郎という料理一つで、できることが無限大にあるんです。日本に通いながら、二郎の魅力にすっかりハマってしまいました。

◆日本のジロリアンから称賛を受け自信がついた

――韓国で唯一の二郎店として、自信がついたきっかけはありますか?

ヨンウン氏:日本には、ラーメン二郎の熱狂的なファン「ジロリアン」がいますよね。日本のジロリアンから、直接称賛を受けたことがあります。その方は日本国内にあるラーメン二郎をすべて食べつくしてしまい、海外の二郎ツアーまで始めたという筋金入りのジロリアンです。

 台湾にもラーメン二郎系のお店が増えているようで、台湾でラーメンツアーをしてからうちの店に来てくれたそうです。その方はウチのラーメンを食べて「台湾よりもここのほうがおいしい!」と褒めてくださりました。

――ジロリアンから褒めてもらえるのはかなりの自信になりますね!

ヨンウン氏:ほかにも、韓国在住の日本人のお客さんが「なんで日本に出店しないの?」「十分日本でも通用するのでは?」と言ってくださることがよくあります。最近は、そういう言葉を耳にすることが増えて自信がつきましたし、経営を楽しめるようになってきました。

◆本場二郎の接客スタイルをリスペクトしつつも自店には取り入れず

 ――本場の二郎によくある、独特の接客スタイルについてどう思いますか?

ヨンウン氏:スマホを触りながら食べたらいけない、おしゃべりをしながら食べたら怒られるなどの文化ですよね。経営のためであることは理解していますし、あのような独特な文化はおもしろいとも感じます。うちの店に取り入れたいと思うこともありますよ。「早く食え!」「スマホを見るな!」って(笑)

――ただ、566ラーメンのお客さんは飲食をゆっくり楽しんでいるイメージです。

ヨンウン氏:韓国人にとってラーメンは「外国の食べ物」なので、うちではゆっくり楽しんでもらえるようにしています。あまりにも長居するお客さんには丁寧に事情をお伝えすることもありますが、基本的にはルールは設けていません。

 ただ、韓国では日本ブームに乗っかりラーメン店が増えているのですが、店舗によっては回転率を重視し「30分以内に食べる」というルールを設けるところもあるみたいですよ。

◆韓国人の味覚に寄せず本場の味を提供し続ける理由

――私は韓国でさまざまなお店のラーメンを食べてきましたが、566ラーメンの味の再現度はダントツだと思います。

ヨンウン氏:うちでは、ラーメンを韓国人の味覚に寄せず、あえて本場日本の味で提供することにこだわっています。そのため、材料は醤油から麺の小麦まで、すべて日本の二郎に倣っています。

――どうしてそこまで、現地の味にこだわるのですか?

ヨンウン氏:たとえば、日本で日本人の味覚に合ったキムチを食べてから本場韓国のキムチを食べたら、味の違いを感じるはずです。辛すぎる味付けに、戸惑うかもしれませんよね。

 韓国人がうちの店でラーメンを食べたら「しょっぱい」「味が濃すぎる」と感じるかもしれません。しかし、その後日本で本場の味を知ったときに「日本でもこんな味なんだ。だとしたら、あそこはちゃんとしたお店だったんだ」と思ってもらえるはずです。

――本場の味を保障するという意味があるのですね!

ヨンウン氏:はい。ただ、韓国では「キムチチゲ」や「コムタンスープ」などに代表されるスープは、食卓に欠かせない存在です。そのため、韓国人は日本の方が思っているよりもスープの味に敏感です。だからこそ、うちの二郎系ラーメンでも最初の一口に強いインパクトを持たせることを意識しています。

 そのおかげもあり、お客様から「食事中は量が多く、脂っこくて食べるのが大変だったけど、家に帰るとまた食べたくなってしまう」という嬉しいお声もいただけています。

◆故郷の味が恋しい日本人に二郎の味を届けたい

――お店に来られる日本人にメッセージをお願いします。

ヨンウン氏:韓国で働いていらっしゃる日本人の方で、二郎の味が恋しいと感じる方が結構多いようです。なかなか日本に帰れず、故郷の味が食べたくなったら、韓国に唯一あるうちの二郎系ラーメンを楽しんでもらえたら嬉しいです。

――今後の目標も教えてください。

ヨンウン氏:実は今後、韓国で店舗拡大する予定があるので、今よりもさらにうちの二郎系ラーメンを味わってもらえる機会が増えると思います。

 また、現時点での最終目標である日本進出を叶えられるように、日々精進していけたらと思います。

取材・文/松浦聡美

【松浦聡美】

韓国のじめっとしたアングラ情報を嗅ぎ回ることに生きがいを感じるライター。新卒入社した会社を4年で辞め、コロナ禍で唯一国境が開かれていた韓国へ留学し、韓国の魅力に気づく。珍スポットやオタク文化、韓国のリアルを探るのが趣味。X:@bleu_perfume