2024年8月中旬、「障害者5000人が解雇や退職」というニュースがにわかに世間を騒がせた。「就労継続支援A型事業所」などの閉鎖が相次いだためで、国が「収支の悪い事業所の報酬を引き下げた」ことが原因だという。ただ全てが閉鎖されたわけではなく、その4割強は「就労継続支援B型事業所」に移行したという点には注意が必要だ。
筆者自身も障害者であるが、近年、障害者にまつわる施策は民間企業が行うなどビジネス化がすさまじい。むろんビジネス化が全て悪いわけではなく、問題は①事業所によって特色が異なるが、情報がオープンになっていない、②中立な情報が開示されていないため、利用者が自身に合った事業所を選択できていない、といった点ではないだろうか。A型、B型といった違いも一般にはわかりづらい。以下、厚生労働省のホームページから概要を引用した。
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・就労移行支援
就労を希望する障害者であって、一般企業に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、一定期間就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行います。
・就労継続支援A型
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。
・就労継続支援B型
一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。
・就労定着支援
就労移行支援等を利用して、一般企業に新たに雇用された障害者に対し、雇用に伴う生じる日常生活又は社会生活を営む上での各般の問題に関する相談、指導及び助言等の必要な支援を行います。
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◆「障害者を放送するには“悲惨さ”がないと」
障害者支援の現場の一例を見ようと、2024年9月2日、就労移行支援事業所T&E(東京都世田谷区)を取材のため訪れた。所長の山﨑浩司さん(49)は身長2メートルの体躯を誇り、にわかに圧倒される。しかしテーブルに着いて話し始めると、一貫して柔和な態度で不思議と威圧感はない。
「かなり前の話になりますが、とある有名な番組から電話がかかってきたんですよ。エンディングでみなさん一緒に歌いませんか、というような。当時は精神の障害をお持ちの方が多く登録されていたことを伝えると、見た目で障害者とわからないからか『じゃあいいです』ってあっさり切られたんですよね。ほかにもテレビ局の取材は数社入りましたが、『障害者を放送するには“悲惨さ”がないと画にならない』とはっきり言われました」
あっさりした語り口で障害者支援の現状を説明してくれる。
「“障害者転職エージェント”が営業にきたこともありましたね。障害者転職エージェントは優秀な障害者を一般企業に売り込み、紹介手数料を企業から徴収するビジネスです。ですが登録者の8割くらいは企業に紹介できるスキルに未達らしいんです。その8割を、『一人10万円で買い取ってください』という営業です。『その方たちが無事就職できた暁には、“お祝い金”として一人10万円支払います。だからペイできます』って。驚きましたね」
◆情報がオープンにされていないという問題
しかし山﨑さんが続けたのは憤慨ではなく意外な言葉だ。
「転職エージェントの“仕事”によって、最終的に就職できてWin-Winとなる障害者もいるでしょう。あるいは株式会社化して一部上場して、短期決戦で障害者を企業に売り込んでいる就労移行支援事業所も、ニーズは確かにあると思うんです。問題は『秘密裡に動いている、情報をフルオープンにしてない』ということなんですよ」
問題は「当事者に情報がいかない」ことだという。
「区市町村は公平でないといけないので、事業所の電話帳みたいな冊子を渡して『ここから選んで下さい』と言う。それで当事者もわからないから、ネットで検索する。そうするとSEOなどで広告に大金をかけている企業がまずヒットするので、そういったビジネス化している事業所にみんな集まりやすいんです。だけどそういった事業所と、自分のニーズが必ずしもマッチしているとは限らないですよね」
◆自分の力で人生を切り開いてほしい
山﨑さんが所長を務める就労移行支援事業所T&Eはどのような施設なのだろうか。
「うちは広告にお金をかけてなくて(笑)、口コミで来てくれた利用者ばかりですね。精神科医や心理職、学校の先生が紹介してくれて。利用者は卒業後に自分の力で人生を切り開いていくことのできる“胆力”を身に着けられるよう、長期的な視点で支援に当たっています。利用者の発達課題の取りこぼしの解決などですね」
そう言って、エリクソンの発達課題を詳細に説明したサイトURLを筆者の携帯に送ってくれた。
エリクソンの発達課題にせよ、障害者問題にせよ、この情報が氾濫している社会において、一般に多くの人々は自覚なく表層的・短絡的に物事を捉えようとするだろう。情報の表面部分をすべるようにして過ごす生き方だ。
だが「僕は独身で、今のところ土日祝はないですね(笑)。切れ目なく働いてます」と快活に語ってみせる山﨑さんは、問題の“根底”の一端に迫っている可能性があることを感じた。
<取材・文/延岡佑里子>
【延岡佑里子】
障害者雇用でIT企業に勤務しながらの兼業ライター、小説家。ビジネス実務法務検定2級、行政書士試験合格済み。資格マニアなのでいろいろ所持している。バキバキのASD(アスペルガー症候群)だが、パラレルキャリアライフを楽しんでいる。Xアカウント名:@writer_nobuoka