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50代や60代で夫婦生活が終焉(しゅうえん)を迎える「熟年離婚」の割合が増えつつある。状況は日本も海外も似ているようだ。何が原因で離婚に至り、どうすれば防止できるだろうか。
◆離婚した4組のうち1組が…
厚生労働省発表の人口動態統計(2022年)によると、同年に離婚した夫婦のうち、「熟年離婚」(同居期間20年以上)の割合は23.5%に達し、統計のある1947年以降で過去最高の数値となった。
離婚件数全体が減少しているなか、熟年離婚の件数は約4万組前後と高い水準が続いており、離婚全体に占める割合として前年から0.8ポイントの上昇となった。
NPO法人、日本家族問題相談連盟理事長の岡野あつこ氏は、朝日新聞(8月13日)に対し、背景には長寿社会の影響が大きいと指摘する。男性の平均寿命は1950年頃の約58歳から、現在の81歳にまで延びた。
岡野氏は、「このため、子どもが独立すると定年後に夫婦で過ごす時間が長くなり、性格の不一致などから一緒にいることに耐えられず、新しい人生を歩みたいと夫婦関係をリセットしようとするケースが目立つ」との見解を示す。
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◆海外でも増えている熟年離婚
熟年離婚の増加は、海外でも同じ傾向にあるようだ。心理学やメンタルヘルスを扱う米メディアのベリー・ウェル・マインド(5月22日)は、1970年以降、中高年層の離婚率がアメリカでも増加していると述べている。1970年には熟年離婚は比較的珍しかったが、1990年までにかけてわずかに増加した。
その後は、さらに顕著な増加傾向となっている。1990年には50歳以上の夫婦のうち8.7%が離婚を迎えていたが、2019年にはその割合が36%にまで増加した。特に65歳以上の人々の離婚率の増加が目立つ一方、20代や30代の離婚率は近年減少しているという。熟年層の離婚が目立っている状況だ。
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米心理学者のマーク・トラヴァース氏は、米フォーブス誌(7月8日)への寄稿で、一般的に50歳以上の高齢者が結婚生活に終止符を打つ現象が、「グレイ・ディヴォース(灰色の離婚:髪に白髪が交じる年齢で起きることから)」の名で知られている、と解説している。
オーストラリアでも熟年離婚が増えている。豪公共放送ABCは、オーストラリア家族問題研究所の2021年のデータをもとに、熟年離婚の状況を報じている。それによると1980年代や1990年代には、20年以上の婚姻期間を経た「熟年離婚」は、離婚件数全体の約5分の1に過ぎなかった。だが、2021年には、全離婚件数5万6244件のうち、実に4分の1以上を占めるようになったという。
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◆子離れ後に訪れる「空の巣症候群」
熟年離婚の割合は、なぜ増加しているのか。最も大きく指摘されているのが、「空の巣症候群」だ。
ベリー・ウェル・マインドは、子供が家庭から独立していなくなったことが転機になる、と述べている。2人だけの暮らしに戻った夫婦は、親としての役割以外に、思いのほか共通点が少ないことに気づくことが多いという。子供と同居していた時代には疑いもしなかった親密さやつながりを見つめ直す機会が生じ、婚姻生活の外に充実感を求めるようになることがあるようだ。
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20年の結婚生活の末、53歳で離婚を決めたオーストラリア人女性のリアン・ウィンターさんはABCに対し、「私たちはとてもいい暮らしをしていましたし、とても幸せでした」と語る。しかし、「でも、時が経つにつれ、私たちはただ離れていったのです」とも振り返る。長寿化で人生の先が長くなった今だからこそ、生き方を見つめ直したいという考えも働きやすいのだろう。
夫婦カウンセリングを専門とする心理学者のナフーム・コザック氏はABCに、「結婚して間もない頃は、問題に直面しても、子育てなどほかの問題への対処で手が回らず、曖昧になりがちです」と述べている。熟年になると、より相手や相手の問題と正面から対峙する時間が増え、不満を蓄積しやすくなるようだ。
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◆退職が近づくと経済問題が火種に
経済的な問題も大きな要因だ。ベリー・ウェル・マインドは、退職が近づいたタイミングで、夫婦間に金銭感覚の不一致が生じたり、隠れた借金を抱えていたことが発覚したりすることがある、と述べている。また、夫婦どちらかが秘密の銀行口座を持っていたことが露見すると、これも夫婦間の緊張を高める原因となり得る。
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もっとも、熟年になって経済的に余裕が生まれたことで、離婚を選択する余裕ができるとの見方もある。インド経済紙のビジネス・スタンダード(7月23日)は、昨今の女性は経済的にも自立していることが多く、「そのため、不満の多い結婚生活から抜け出す手段を手にすることができる」と述べている。増えつつある熟年離婚だが、女性が束縛されずに済むようになりつつあることの表れである、との捉え方もできるようだ。
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◆離婚を避けるために
熟年離婚は人生の一つの選択肢であり、恥ずべきことではない。しかし、より長く添い遂げたいと考えているならば、熟年離婚を回避するためのいくつかのヒントがある。
心理学者のトラヴァース氏はフォーブス誌への寄稿で、熟年離婚には2つのステップを経て至ると述べている。第1段階は、「疎遠になりながらもまだ一緒にいる」状態だ。不貞や暴言、性格の不一致などで相手から心が離れつつも、まだ離婚には至らない。「子供たちのため」と踏ん張ったり、世間体を気にしたりすることで離婚には踏み切れないでいる。
だが、苦痛が限界に達すると、第2の段階である「結婚生活の終わりを悟る」状態へと移行する。相手の不誠実さや経済問題など、何らかの致命的な事象を迎えたこと、さらには子供が巣立って「空の巣」状態になったことなどが重なり、離婚を決断するという。
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トラヴァース氏は、2つのステップを経て離婚に至った事例を複数挙げ、「こうした繊細なストーリーは、夫婦間の緊張の兆候を早期に発見し、迅速に対処する必要性を私たちに気づかせてくれます」と述べている。
離婚は経済的にも不利だ。米公認ファイナンシャルプランナーのエリザベス・ウィンディッシュ氏は、全米日刊紙のUSAトゥデイ(1月28日)に、「(夫婦の)どちらかが経済的に得をするというシナリオは、見たことがありません」と語る。別居すれば支出は増えるばかりであり、元夫は慰謝料を払うことも多い。元妻の側も、慰謝料を受け取ったとしても、決して多くは手元に残らないという。
熟年離婚を避けたい場合は、危機がまだ深刻でないステップ1の段階で食い止めることが肝要のようだ。相手と率直に対話し、互いの不満点を話し合うことが糸口となるだろう。
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