医者は本当に患者の話を聞いているのか…現役医師が明かす「問診」時の知られざる心の内

病気になった際には、「最適な治療を受けたい」と多くの人は熱心に病院選びをする。そんな患者の思いをどのように医師側が受け止め、考えているのか…。

本連載では、現役のベテラン医師が医師や病院にまつわる不満や疑問などについて、本心を明かし、病院との付き合い方、病院の選び方などをガイダンスする。

第2回では、「医師の本気度」をテーマに、現役医だからこその視点で、医者の心の内を告白する。

患者が自身の病状をみてもらううえで、重要と考える「問診」。ところが、患者の必死の説明にもそっけない医師の反応。一体どういうことなのか。

淡白な対応は、決して患者に冷たいのではなく、理由があるーー。知ることで医者を選ぶ視点が変わる、知られざる医師の本心とは。(全4回)

※ この記事は松永正訓氏の書籍『患者の前で医師が考えていること』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。


問診の際、医師が患者に冷たいのは気のせい?(マンガ/松永夕露)

患者が話したいことと医者が知りたくないことのギャップ

「問診」という言葉があるように、患者さんから話を聞くのは診療の基本です。

しかし、この基本がちゃんと守られているのか、患者さん側から疑問を持たれることがあります。先日も私の友人が、こんなことを言っていました。

彼は50代の男性。長く喘息を患っており、定期的にかかりつけ医のところへ行って、アレルギー止めの内服薬とステロイドの吸入薬を処方してもらっていました。

季節の変わり目にぐっと気温が下がり、ちょっとまずいかなと思っていたら夜中に突然咳が止まらなくなりました。寝ていられなくなり、布団に座って呼吸を整えていましたが咳が止まらず、痰を吐き出したところ、血液が混じっていたそうです。これはヤバいと思ってかかりつけの医師のもとを訪れました。

ところが、医師は「ふんふん」と軽く頷きながら、視線も合わせてくれない。カルテに何か書き込んだあと、聴診をして「ま、気管支拡張剤を使ってみましょう」と、たったそれだけで話が終わったそうです。

話を親身になって聞いてくれなかった医師に対して、私の友人は不信感を抱いたそうです。彼からしたら、止まらない咳の挙句に血を吐いたのですから、これは何か途轍もないことが起きているのではと考えたのです。しかし、医師は患者さんの心配を受け止めてくれているようにはまるで見えませんでした。

なぜ、この医師はこのように淡白な態度だったのでしょうか。

患者の不安は、医者のあるある

患者さんの思いと医師の態度がすれ違うことは、実のところたびたびあります。その最大の理由は、患者さんにとって一大事であっても、医者から見れば一大事ではないケースがしばしばあるからです。

咳のしすぎで痰に血が混じるというのは、医者の側からするとけっこうよくある訴えなのです。嘔吐のときに、血が混じることもときどきあります。咳によって喉の粘膜が切れたり、嘔吐によって食道と胃の間の粘膜が切れたりするからです。

だけど、一般の人はそんなことは知りません。びっくりして医者のところに駆け込みますよね。確かに、今回のケースでは、医者の態度は患者さんにとってちょっと不親切だったように私には思えます。

質問していないことまで話す患者

患者さんが「この医者は自分の話を聞いてくれているのか」と思うことは、こうした医学知識のギャップからだけではなく、実は日常的にけっこうたくさんあるのではないかと私は思っています。

たとえば、風邪です。風邪には始まりがあり、最も悪い時期があって、治っていく時期があります。言ってみれば風邪のシナリオですね。このシナリオから外れた場合、風邪は肺炎に変化したりします。ですので、医者は患者さんから、風邪が現在、シナリオのどの段階にいるのかを聞こうとします。

ところが患者さんが少しでも細かく情報を伝えようと、何時に熱が何度で、何時に解熱剤を飲んで、その後に汗をかいて、少し食事をとって、また熱が上がってきて、顔が少し赤くなり……と医者が聞きたいシナリオとは関係のないことまで話すことがあります。患者さんとしては、自分の状況を伝えたいわけですから、当然のことですが、医者が知りたいことは全体の大きな流れなのです。

ここにすれ違いが生じてしまいます。

みなさんは熱型表という折れ線グラフを知っていますか? 横軸が日にちで縦軸が体温です。私のクリニックでは、3日以上熱のある人にはこの折れ線グラフを記入してもらっています。

そうすると、全体の流れが分かるのです。この熱はピークを過ぎたとか、まだまだ上がるぞとか、熱が長すぎて肺炎が心配とか。

患者家族にはちょっと面倒に感じるかもしれませんが、これを書いてもらうだけで、風邪がいまどこのステージにあるのかが分かります。医療は原則的に未来を診察することはできませんが、熱型表を書いてもらうと、未来の予測が立つのです。

私はこの熱型表を大いに参考にしていますが、その分、患者さんの話を聞いていないように見えてしまうかもしれません。患者さんの言いたいことと、医者が知りたいことの間にズレがあるので、「この医者は話を聞いてくれない」と思われてしまう可能性はあると思います。

こういうギャップは医師の側が埋めていくテーマですよね。でも前項で述べたように、短い診察時間ではどうしてもポイントを絞って聞きたくなってしまうのです。

院長はもっと患者の顔を見てください

最後にもう一つ。現代の医療は電子カルテで行なわれています。電子カルテには利点がたくさんあり、実は患者さんもその恩恵に浴しているのですが、同時に欠点もあります。それは、医者がパソコンの入力に夢中になって患者さんと向き合う時間が減ってしまうことです。

電子カルテは、なるべく文字を入力しなくて済むように、チェックボックスやプルダウンメニューを作って活用しています。しかし、それでもテキストを打ち込む場面はあります。医者がカチャカチャとキーボードを叩いている姿を見ると、患者さんとしては少しがっかりしてしまうでしょう。

私が18年前にクリニックを作ったとき、開業の数日前に予行練習をしてみました。電子カルテの業者さんの監督のもとに、患者さんの受付から診察、そして会計までの流れを実際にやってみたのです。そのときに、業者さんから言われた一言が忘れられません。

「院長はもっと患者の顔を見てください」

こっちは必死になって慣れない電子カルテを操作しているのですから、そんなことは言われたくないと正直思いました。

でも本当に、これを言ってもらってよかったと思いました。以来、私は可能な限り患者さんの顔をしっかり見るようにしています。ですがそれでも、もしかしたら不十分かもしれません。話をちゃんと聞いていないように思われているかもしれません。

患者の声は、医者に届いています

特に診察が終わって、「お大事に」と声をかけたあとは、カルテを急いでまとめるために、患者さんが診察室から退出する様子を見ないことが多いのは事実です。これはやむを得ないと思っていましたが、最近になってそうではないと知りました。

私の妻が通う循環器内科のクリニックの医師は部屋を出ていくときまで、しっかりと目を合わせてくれるそうです。私はそれを聞いて、自分にもできるはずだ、自分もそうしなくてはいけないと反省しました。電子カルテにまとめの記載をするのはこれまで通りですが、グイッと首を曲げて、体はパソコンに、顔は患者さんに向くように最大限の努力をしています。

小児クリニックでは、泣いていた子どもが部屋を出るときに、バイバイをしてくれることがけっこうあるんですよね。電子カルテに夢中でバイバイにお返しができなかったら保護者の方もがっかりしますよね。こういうコミュニケーションの積み重ねがいい医療の基盤になっていくのかなと思います。

「医者ってどれくらい患者の話を聞いているの」って思われても仕方がない一面が医療にはあると思います。そう思われないように、医者はもっと患者さんの気持ちを考える必要があるのでしょう。

ただ、それでも医者というのは、患者さんが思っている以上にみなさんの言葉を聞いています。なぜなら、患者さんの話を聞かないと医療が始まらないからです。