交通費にお金を割けないほどカツカツの収入
現実に生活レベルは15年ぐらい前と比べるとかなり縮小している。
「外でご飯を食べるなんてしなくなった。たまに行くのは日高屋とかガストみたいな低価格帯の店だけです」
年齢的に病気が心配で以前は奥さんともども2年に1度は日帰りの人間ドックを受けていたが、この5年近くは行政が住民サービスで実施している各種健診だけ。
パート仕事での収入は約11万円。これに奥さんの収入が約9万円で合計すると20万円にはなる。だけど生活は相変わらず苦しい。
「20万円のうち借金の返済で半分近く出ていっちゃうから」
借金というのは信用組合から借りた店舗兼住まいのリフォームローンと行政から設備費、運転資金として借りた小規模事業者特別融資のこと。2つ合計の返済額が毎月9万7,000円ほどある。
「もう8割方返済しているけど、合計するとまだ150万円近い債務が残っています」
妻のお兄さんと自分の従兄が連帯保証人になっているので、もし返せなかったら迷惑が及ぶ。何が何でもきっちり返さなければならないのだ。
「10万円ちょっと残っても税金や社会保険料も払わなきゃならないでしょ、ざっとですが収入の25%を持っていかれる」
借金を返して10万円ぐらい残るが、諸々の支払いをすると手元に残るのは6万円と少し。生活費の足しにできるのはこれだけだ。
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贅沢と趣味を諦め、切り詰めた生活…目標は“現状維持”
「贅沢は御法度なのはもちろん、ゆとりのある生活とも無縁。いつもお金のことを気にしている。トイレットペーパーを買うのだってどの店が安いか調べてからじゃないと買わないし、ちょっと外出するときも20分ぐらいの違いなら安いルートで移動する。いじましいと思うね、ホント」
最近の大きな買い物は扇風機。今まで使っていたものはタイマーが壊れ、モーターの調子もおかしいらしく30分ぐらい回していると熱を帯びるようになった。それでも騙し騙しで夏を乗り切り、秋口に量販店の展示品特別処分セールで元値の半額以下になったときに来年から使おうと買ったものだ。
「金銭的な余裕がないと交際の範囲も狭くなってしまいますね。同業者の寄り合いにもめっきり参加しなくなった。商売が良かったときは花見とか暑気払い、忘年会などに参加していたけど今は5,000円の参加費も払えない」
釣りが唯一の趣味だったがここ最近はすっかりご無沙汰。釣り仲間が誘ってくれても適当な理由で参加しなかったので、最近は誘ってもくれなくなった。
「最近は親戚付き合いも重荷に感じることがあります」
特に慶弔事、法事など。
「去年、今年はわたしの甥っ子が2人、妻の方の姪っ子が結婚しましてね。伯父さん、叔母さんだから披露宴にお呼ばれするわけです。今どきは3万円包まなきゃみっともないじゃない。結婚しますという通知があると、それはめでたいと思うけど、いくらかかるんだと考えてしまう」
来年の5月には自分の母親の七回忌がある。お寺でお経をあげてもらってその後の食事会となるといくらかかるか心配になる。
「お布施として20万円ぐらい出さなかったらどう思われるか分からない。ご本尊さんとお墓に供えるお花代も1万円するらしいですし。御仏前を頂戴するけどそれだけでは賄えない、数万円の持ち出しになると思います」
お見舞い、快気祝い、子どもの誕生祝い、進学・卒業祝い、お中元、お歳暮、お香典、餞せん別べつ……。社会的儀礼や付き合いで必要になるお金は結構な額になる。
「この生活の先に何があるのか? って思うことがあります。朝から晩まで働いて、ただ生活していくだけ。自転車操業っていう言葉がありますけど、今の生活はまさにそれですよ。とりあえずペダルを漕いでいればいいけど、足が止まったら倒れてしまう。正直怖いですね」
最近は経済的な不安に比例して夫婦の会話もめっきり減ってしまった。時々だが互いにイライラしていることがある。どうでもいいようなくだらないことで言い合いになったことも数回。
「今の目標ですか? これ以上悪くならないこと。これに尽きる」
自分たちの生活がV字回復するのは不可能に近い。ならば現状維持、そう願うだけだ。
増田 明利
ルポライター