「人生の3大支出」といわれる「住宅費」「教育費」「老後生活費」。シニア世代となり、自宅のローンを無事に払い終え、子どもは独立。胸を撫で下ろしたのも束の間、想定以上に出費がかさむのが、現代シニアを待ち受ける老後生活です。昨今は物価が軒並み高止まりし、受け取れる年金は目減り傾向に。さらに人生100年時代を迎え、医療費・介護費の見通しは立ちづらい状況です。一方、豊かな資産をもって老後を迎えるうらやましい世帯も。たとえば元国家公務員――その年金、退職金は平均額よりも高いケースが多く、夫婦そろってともなれば、なおのことです。資金があると選択肢にあがることのある不動産投資ですが、知識が乏しいなか始めて大金を失うことも…。本記事では、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が、不動産投資のリスクを「元国家公務員の70代夫婦」を例えにシミュレーションして解説します。

2人そろって国家公務員。70代“老後最強”夫婦だったが…

今年72歳(1949年生まれ)を迎えるマツコさんとマツヲさんご夫妻はそろって元国家公務員。現役時代は多忙だったため、現在はのんびり趣味の俳句教室や推し活に集中できる気ままな生活をとても気に入っています。

そんな2人には1つだけ気がかりなことが。マツヲさんは先日亡くなった母親から、土地を相続しました。この土地は、マツヲさん夫婦が暮らす都内の自宅から電車で2時間半かかる郊外にあります。

相続税は母が逝去した日から10ヵ月以内に支払う必要があります。お金に疎いマツヲさんにとって、想像以上の出費でした。これからも固定資産税がかかると知り、「お金がどんどんとんでいくな……」と思っていた矢先、とある不動産管理業者からアパート経営を勧められます。

資産運用を考えたことはありませんでしたが、マツコさんに相談したところ「何もしなくても家賃収入が入るなんてとってもいいじゃない!」と勧められたことからアパートの建設を決めました。

建設コストは約7,000万円、そのうち2,000万円を自己資金から支払い、5,000万円を借入れました。当初は建設コストに対して年利6%程度が見込まれていました。

しかし数年後、予想外のことが次々とマツヲさんに降りかかります。ピカピカの新築だったアパートも築5年を迎え、家賃相場が値下がりしてしまします。さらに「となりの部屋から生活音が聞こえる」というクレームがしばしば入り、空室が目立つように…。加えて、外壁の塗装の剥がれも見られるようになりました。

建設会社との契約書では、そういった建物の劣化などについて定期的な修繕が義務付けられています。修繕について「指定の業者に依頼すること」といった内容が記載されており、約500万円の修繕費を支払うことに。ためしに別の業者に見積もりを出してもらったところ、指定された業者はだいぶ割高であることが発覚しました。

気がつけば経営は毎年赤字に。「こんなことなら、アパート経営なんてしなければよかった…と後悔する2人なのでした。

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老後のアパート経営「こんなはずじゃなかった…」はなぜ起こる?FPが解説

マツヲさん夫妻は、なぜこのような落とし穴に落ちてしまったのでしょうか? 不動産経営は大きな費用がかかる運用手法のため、事前に入念に確認するべきポイントがいくつかあります。

1つずつ確認していきましょう。まず大前提として、不動産は古くなるにつれて価格が下落します。これが原則です。もちろん例外もあります。たとえば昨今マンション価格は全体的に高騰傾向にあり、こうしたタイミングでは例外が往々にして生じます。そのときの印象が強いと、この原則を見落としてしまう可能性があるので注意が必要です。

株式会社不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023 年のまとめ」及び東日本不動産流通機構の「レインズデータライブラリー全国版」によると、首都圏の新築マンションの平均価格は8,101万円です。一方で、中古マンションの平均価格は4,784万円でした。

東日本不動産流通機構の資料では、築年数が古くなるごとに中古マンションの価格がさらに下落していくことがわかります。東京都内のマンションの平均価格は次のように推移しています。