「はじめまして」それは、人と人の縁が始まる合言葉。
年齢を重ね、出会いを繰り返しても心騒ぐこの瞬間を、大人としてどう迎え、育てていくべき? この秋、注目の演目で初共演するおふたりに、初対面のタイミングでインタビュー。
心を開き、ともに感動を生み出すパートナーとなるための秘訣を伺いました。

眞島秀和さん(以下、眞島) はじめまして、眞島です。よろしくお願いします。

緒川たまきさん(以下、緒川) こちらこそ、はじめまして。「オトナトモダチ」なのに、タイトルと不一致ですみません(笑)。

眞島 同じ作品に関わったことはあったかと思いますが、一緒にお芝居するのは初めてですよね。今回の作品は歌舞伎の演目を現代解釈したものですが、僕はこれまで舞台で時代劇の芝居をしたことがなかったので、まずそれに挑戦することが楽しみです。

緒川 私はもともと古典ファンでして、現代演劇の人間としてなかなか立ち入れないこのジャンルに参加させていただけることが、まず非常にうれしくて。この最初の「好き好き、やりたい!」という素朴なワクワク感は、この先ずっと背中を支えてくれるんじゃないかと思っています。それに、眞島さんが夫の文里(ぶんり)を演じてくださるというのが、また楽しみで。文里は、遊女に恋して廓(くるわ)に入り浸っていて、私が演じる妻のおしづや子どものことはほとんど顧みない、いわゆる「ダメ男」なんですが……。

眞島 どうやら、そのようですね。

緒川 ダメはダメでも、自信を持ってわがままを貫いているなら「しょうがないな」と言えるんですが、彼はそうしていながら「ああ、俺って」という、ちょっとヨロッとしたタイプの人で(笑)。でも、おそらく純愛の人ではあるんだと思います。

人のダメな部分までもが魅力になる。それこそが、楽しい世の中ですよね

眞島 女性からすると困った男かもしれませんが、彼のような生き方にちょっと憧れを覚える部分もありますね。そんなに強い人間じゃないのに、ある意味、欲望に忠実な部分があって、そこに抗えない……そんなところが魅力的というか。

緒川 ええ、確かに。

眞島 ダメ男にしても立派な人間にしても、役に魅力を感じて演じられたら、それはそれでいいのかなと。それに、正しいのか正しくないのか、うまくいっているのかいないのか、その間にいるような人のほうが、演じる人間としては面白い気がするんです。人間くさくていいなぁって。

緒川 ダメな部分までもが魅力になるとしたら、そんな楽しい世の中はないですよね。おしづさんはきっと、初恋のように切ないため息をついている万年少年の夫に任せてはおけない!と、相手の女性にまで感情移入して、親心に近いものを発揮するんじゃないかと……ですから、「しょうがないな、文里は!」ではなく、「かわいそうで色っぽくて、ちょっと好きかも?」という方向にお客様をお連れしたいですね。

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本当に大事な縁ならこれから何があっても決して切れたりしないはず

眞島 うーん、ハードルが高いですね。それに、完全にもうおしづさんの掌の上で転がされているような(笑)。文里とおしづは、そういうわけで切っても切れない縁なのだと思いますが、自分でも、出会って本当に身近な存在になった人たちとは、たとえこの先どんな状況が起こったとしても、その関係が終わったりなくなったりすることはもうないんじゃないかと感じるんです。

緒川 そうですね。たとえインパクトのある出会い方をしたとしても、本当の意味で縁のない方とはやはり離れてしまうものでしょうし、「この人とは」と感じた人との関係は、私も永遠なのだと思います。ですから、おしづさんも、自分の大事な人にとって自分以外にそういう相手がいるということを受け入れ、尊重しているんじゃないでしょうか。逆に、他人の縁に干渉するというのが、実はいちばんよくないことで。

眞島 なるほど……これまで緒川さんを先輩として拝見していて、一緒に作品を作っていくからには自分も頑張らなければと思っていましたが、今日お会いして、あらためて頼りになるなぁと実感しました。

緒川 いえいえ、そんな(笑)! でも、縁あって仲間になれたおひとりおひとりを観察しながら、その現場でしか生まれないうねりのようなものに巻き込まれるのが毎回、すごく楽しみで。眞島さんの柔らかな空気感は、タフさに通ずるところがあってのものだとお見受けしましたので、きっとその打たれ強さに助けられると思います。

〔 舞台 〕
東京芸術劇場Presents
木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)』

古典作品の現代劇化に取り組む木ノ下歌舞伎。歌舞伎の白浪物として人気の高い『三人吉三』に夫婦と花魁のエピソードなどを加え、三度目の完全上演に挑む。「戯曲が生み出されたのは、大地震や飢饉、疫病の流行を乗り越えた江戸末期。地獄を生き延びた人たちが求めた娯楽作には、厄災の続く現代を生きる私たちにもきっと訴えかけるものがあると思います」と緒川さん。

監修・補綴 木ノ下裕一
演出 杉原邦生[KUNIO]
出演 田中俊介 須賀健太 矢部昌暉/藤野涼子 小日向星一
川平慈英/緒川たまき 眞島秀和 ほか
9月15日 (日) ~29日 (日)  東京芸術劇場 プレイハウス
10月に長野、三重、兵庫公演あり

撮影/久富健太郎 ヘアメイク/佐伯憂香(眞島さん)文/大谷道子

大人のおしゃれ手帖2024年9月号より抜粋
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