フリーザの姿で300日以上“ゴミ拾い”をする男。怪しい存在が「町のマスコット」に変わった理由

 フリーザの格好でゴミ拾いをする21歳の青年が、千葉県の柏市・我孫子市で局所的に人気を集めている。街を歩けば住人に声を掛けられ、写真を求める人も少なくないという。

 尻尾のついた全身タイツに白塗りの顔――明らかに怪しい存在が、なぜここまで地域住民に受け入れられているのか。千葉で活動しながら「茨城のフリーザ」と名乗る謎の青年の、ゴミ拾いに同行させてもらった。

◆千葉県の住宅街を中心に活動するフリーザ氏

 彼が現在ゴミ拾いを行っているのは、千葉県我孫子市のJR天王台駅周辺だ。繁華街とは程遠い、のどかな住宅街の雰囲気で、ゴミ拾いをする必要は無いように思える。

「住宅街だってどこだって、ゴミは落ちています。路上のたばこの吸い殻や、植木に埋もれたペットボトル。皆さんも、一度は見たことがあるはず。あと、繁華街はゴミを拾っても翌日には元通りになってしまうんですが、天王台は活動するたびに、着実に町がきれいになるのが嬉しいですね」

 加えて、天王台を選んだのには“個人的な事情”もある。

「僕はラグビーチームのNECグリーンロケッツ東葛の大ファンなんです。天王台駅はチームの練習場があって、選手がたくさん住んでいるエリア。どうせゴミ拾いするなら、好きな人たちが住む町をきれいにしたいじゃないですか」

◆ゴミ拾いで知り合いが「200人以上増えた」

 フリーザ氏が天王台駅に現れたのは16時半ごろ。夕方から夜まで、2時間半かけて町中のゴミを拾っていく。10分に1度くらいのペースで住民に「今日もやるんだ、頑張って」などの声をかけられ、取材した日だけでも20人以上と談笑していた。車やバスの中から手を振る人を含めれば、30人を超えるだろう。

「この活動を始めてから、知り合いは200人以上増えました。声をかけてもらえたり、写真を求められるのは嬉しいですね。目立つのは大好きなので(笑)」

 本来の活動であるゴミ拾いもこなしていく。たばこの吸い殻や空き缶、ペットボトルの割合が高い。取材当日は30度を超える真夏日であったことが影響してか、アイスの棒も多かった。

「いちばん多いのはたばこの吸い殻。夏はアイスや飲料のゴミ、冬はカイロと手袋が増えます。大きな車道沿いだと尿の入ったペットボトルが捨てられていることも多くて、処理に苦労しますね」

◆きっかけは高校生の時に参加したスポーツゴミ拾い

 夕方とはいえ、強い日差しが照り付ける中、重い籠を背負ってゴミを拾うのは重労働だ。腰や肩が痛むので整体に通っているという。何がそこまでフリーザ氏を突き動かすのか。

「最初にゴミ拾いをしたのは、高校全体で参加した『スポーツゴミ拾い』というイベントでした。町がきれいになることと、人からの『ありがとう』が嬉しくて、18歳の時から『東の渋谷』と言われる柏で自主的にゴミ拾いを始めました。現在までに300日以上はゴミ拾いしてます」

 フリーザの格好をしているのは、ある成功体験がきっかけだった。

「チラシ配りのバイトで、全然受け取ってもらえなかったんです。目立つ格好をしたら面白がって受け取ってくれるかもしれないと思ってフリーザの衣装を買いました(笑)。実際に配れるチラシの量も増えて、たくさんの人に声をかけてもらえるのがうれしくて味をしめました」

◆仕事を辞めてゴミ拾いがメインの活動に

 茨城県の実家から常磐線で柏や天王台に通っているフリーザ氏。高校卒業後は介護士として働きながらゴミ拾いをする生活を続けていたが、今年に入って大きな決断をした。

「人間関係とかいろいろあって…仕事は辞めることになりました。小さいころから芸人になるのが夢だったので、フリーの芸人としても少し活動しながら、メインでゴミ拾いをやっています」

 今の悩みは「活動資金がない」ことだという。仕事を辞めて以降、アルバイトで暮らす彼を支えているのは、ゴミ拾いで繋がった縁だ。

「活動を知って『スポンサーになりたい』と言ってくれる人がいるんです。コメ農家の方から支援してもらったり、天王台の『ばんばん亭』という食堂の店主が『いつ来ても無料で飯食わせてやる』と言ってくれたり、ありがたいことに食事には困らないですね」

◆代わりのいない「役割」に住民は感謝している


 街灯の少ない天王台では、日が落ちると活動が難しい。19時過ぎにゴミ拾いを終えたフリーザ氏は、夕食をとるために先述のばんばん亭に入った。「お疲れ様」とフリーザ氏をねぎらう店主に「住人は彼をどう思っているのか」聞いてみた。

「天王台に、代わりにこの役割を背負ってくれる人はいません。誰もやりたがらないけど、やるべきことを率先してやってくれている。そこは彼をリスペクトしているので『いつでも食べに来いよ』と言いました。いつ来ても、どのメニューを頼んでもOKです」

「もっときれいに食え!」とかつ丼をかきこむフリーザ氏の頭を叩きながら、店主は笑っていた。ゴミ拾いに一日同行することで、フリーザ氏は住人たちにとって決して“怪しい奴”ではなく、地域に認められたマスコット的な存在であることが分かった。

◆フリーザ氏の野望とは

 とはいえゴミ拾いが“無賃”であることに変わりはない。実際、ゴミ袋と一緒に背負っている「投げ銭」と書かれた箱にお金を入れる人が、取材日に現れることはなかった。

「各地のゴミ拾いイベントには呼ばれ始めていて、ギャラをもらうこともありますが、生活できるほどではないです。この衣装もずっと使っていてボロボロで、新調したいけどお金がない(笑)。

 いつか、全国の企業や人がスポンサーになってくれたらいいなと思っています。フリーザの格好でゴミ拾いだけをしながら日本を歩いて回れたら最高ですね」

 フリーザ氏の野望は続く。この星からゴミが消える日もそう遠くないのかもしれない。

<取材・文/日刊SPA!編集部>