6月、オーストリアを代表する協同組合ワイナリー「ドメーヌ・ヴァッハウ」より、ワイナリーディレクターのローマン・ホーヴァース氏が初来日し、テイスティングセミナーを行った。2004年からワイナリーディレクターとして参画し、ドメーヌの地位を押し上げたホーヴァース氏の解説とともにワインをテイスティング。そのワインの魅力を探った。
「ドメーヌ・ヴァッハウ」は、ヴァッハウ地区唯一の共同組合ワイナリーで、この地区の3分の1の生産量を占める地域最大のワイナリーでもある。12世紀ごろに修道院主導でワイン造りが始まり、その後は何百年にもわたり貴族がワイナリーを所有してきた。世界恐慌を機に貴族が畑とワイナリーを手放し、それらは農家の手に渡った。そこで、1930年代に小規模な農家が集まり協同組合を結成。現在は200を超える農家がオーナーとしてドメーヌ・ヴァッハウを支えている。
オーストリア最西端の冷涼エリア
高級白ワインを生み出すヴァッハウ
アルプス山脈から吹く風の影響を受けるオーストリアは、西に行くほど冷涼な気候となるのが特徴だ。同ワイナリーが位置するニーダーエスタライヒ州、ドナウ川下流地域に広がるヴァッハウ渓谷一帯は、オーストリアのワイン産地の中では最西端のエリアに当たる。冷涼な気候を生かしてグリューナー・ヴェルトリーナー、リースリングによる高級白ワインを生み出している。また、ヴァッハウ渓谷一帯は、一面に広がるブドウ畑、川岸に建つ修道院や古城、中世から引き継がれた町々が織りなす景観が「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」の名でユネスコの世界遺産に登録されている景勝地でもある。
産地はドナウ川沿いに東西20キロに広がり、ドメーヌ・ヴァッハウはその中でもテラスと呼ばれる急斜面の畑でブドウ栽培を行う。傾斜があるため水はけが良く、1ヘクタール当たり7000~9000本と平地で栽培されるブドウの2、3倍の植密度で栽培することで、凝縮感のあるブドウが収穫できるという。
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ドメーヌ・ヴァッハウの名声を高めた立役者
2004年にワイナリーディレクターとしてローマン・ホーヴァース氏がドメーヌに参画した。翌年にはヘンツ・フリッシェングルーバー氏が醸造責任者に就任、ともに大幅な組織改革に取り組んだ。
農家と目指したいスタイルを相談しながら、フリッシェングルーバー氏の判断によりブドウの収穫のタイミングを決める。200~500メートルにわたる標高差、東西20キロ間の気温差に加え、区画ごとに土壌も異なるため、栽培も各地に合わせた対応が必要だ。近年は霜をはじめとした被害も多いため、専門家によるセミナーを実施するなど、農家の教育にも力を入れている。各地の特徴を熟知したプロフェッショナルがブドウを栽培している。
ホーヴァース氏とフリッシェングルーバー氏の2名を中心とした改革により、ドメーヌの評価は向上し、特に白ワインで高い評価を得るようになった。2024年、ホーヴァース氏とフリッシェングルーバー氏は、ドイツ語圏における著名なワインガイド『ファルスタッフ』の「ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。