チューリップには早咲き、遅咲きがあります
左は早咲きの‘アプリコットインプレッション’、右は遅咲きの‘レモンシフォン’。
チューリップにはとても多くの品種があり、毎年違う雰囲気のものにチャレンジできるのも楽しいところです。品種の違いは見た目だけでなく、開花期にも差が生まれます。「早咲き」は3月下旬頃から、「遅咲き」は4月中旬頃から咲き、品種によっては開花期に1カ月近くの差がある場合もあります。同時に咲かせたいときは開花期が同じものを選ぶ必要があり、逆に開花期の異なるものを植えれば、リレーするように花が咲き継ぎ、チューリップのシーズンを伸ばすことができます。私はどちらの方法も取り入れています。
チューリップシーズンを伸ばす開花期違いの組み合わせ
ここはクリニックの待合室から見えるメインガーデンで、4月初旬から中旬にかけての風景です。朱色のチューリップは早咲きの‘アプリコットインプレッション’という品種で、ブルーのデルフィニウムやネモフィラとのコントラストが気に入っています。‘アプリコットインプレッション’は、20日過ぎには花が傷んでくるので、花が終わったら葉だけ残して花茎を切り取ります。球根ごと抜き取ると、庭にボコボコと違和感のある「空き」が生まれるので、季節が進んで他の草花が大きくなってきたタイミングで球根を抜き取ります。
チューリップ‘アプリコットインプレッション’とブルーの花の共演。チューリップは一直線でなく、少しランダムに植えると自然な雰囲気。
上写真は、20日過ぎの風景。‘アプリコットインプレッション’から、淡い黄色の‘レモンシフォン’へバトンタッチしました。こちらは4月中旬から咲き出し、5月初旬まで咲いてくれる遅咲きです。チューリップが交代しただけで、庭の雰囲気が一気に変わると思いませんか。段々と気温が高くなるなかで、レモンイエローとブルーのコンビネーションが庭に爽やかさをもたらしてくれます。咲き継がせるときは、こんなふうに印象がガラっと変わるような2種を選ぶと、歌舞伎の早替わりのようで面白いですよ。
白とレモンイエローがやさしい雰囲気のチューリップ‘レモンシフォン’。冬から咲いているシックなパンジーとも相性抜群。
同時に咲かせて可愛い原種系と園芸品種の組み合わせ
ピンクの背の高いチューリップは‘ホーランドチック’。咲き始めは白色で、咲き進むにつれピンクと白が入り混じるように咲き、変化が楽しい花です。‘ホーランドチック’の株元でパンジーに混じって咲く小さな黄色のチューリップは、原種系の‘ブライトジェム’。ヒヨコみたいなかわいらしい花で、どのチューリップとも相性がよいのでこちらは植えっぱなしです。
同じ小道の別の年。淡いピンクのチューリップは‘シルバークラウド’。
原種系の‘ブライトジェム’は草丈が20cm程度で愛らしい。
ピコティ品種と単色の園芸品種の組み合わせのコツ
単色のチューリップは‘パープルハート’、花弁が赤色で縁取られるピコティ咲きは‘ビューティートレンド’です。どちらも4月上旬〜中旬にかけての早咲き品種です。ピコティや斑入り品種は個性的でとても美しいのですが、それだけだと意外と風景に紛れてしまい目立たないので、単色のチューリップを少量混植して存在感を引き立たせるのがポイントです。その際、単色のチューリップは、縁取りの色と合わせるとおしゃれにまとまります。
チューリップと他の球根花との組み合わせ
春の球根花はチューリップばかりではないので、他の花との組み合わせも楽しめます。ここは前出の小道の庭で、今年2024年の風景です。シックな赤色が魅力のチューリップ‘ラスティングラブ’が引き立つように、白色のアリウム・コワニーを添えるように植えました。アリウムといえばバラの頃に咲く紫色の大きなギガンチウムが有名ですが、コワニーは4月下旬から咲き出す小型種で、白色の愛らしい花を咲かせます。‘ラスティングラブ’は遅咲きのチューリップなので、アリウム・コワニーとベストマッチ。
チューリップ‘ラスティングラブ’とアリウム・コワニー。コワニーは花もちがよく切り花としても重宝します。
‘ラスティングラブ’は今年初めて咲かせた赤色のチューリップで、とてもよかったのでちょっと熱弁を振るわせていただきます。まず名前が素敵! そしてなんといってもシックで上品な赤色は、何人もの患者さんから褒められました。見る時間帯や光によって透き通るような澄んだ赤色だったり、ベルベットのような濃厚な感じになったり、表情豊かなのも魅惑的。写真の右側はもう花が終わりそうな頃ですが、多くのチューリップが花の終わりはバラーンとだらしなく花びらが開いてしまうのに対し、‘ラスティングラブ’は静かにひっそり萎んでいくのもいいところ。ご覧のように花色もあせるというより、黒っぽく凝縮されていく感じなので、だいぶ長く庭に置いておいてもOKでした。
木の株元は野原のような原種系ゾーン
ここは枝垂れ桜の株元付近で、自然な雰囲気にしたかったので、小輪で細身のものが多い原種系のチューリップや、小型の球根花のスイセン、ムスカリ、クロッカスなどを混植しています。植えっぱなしでいいので、掘り返して木の根を傷つける心配もありません。原種系の花は小ぶりなので、1穴にある程度まとめて球根を植えるのがポイントです。
黄色と赤の2色咲きの原種系チューリップ‘クルシアナシンシア’。
ムスカリと原種系チューリップ‘ヒルデ’の共演。
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買い逃しのないよう早めのお買い物を
球根の植えどきはイチョウが黄葉する頃が目安とされています。最近は温暖化でズルズルと植えどきが遅くなっており、球根の流通時期とかなり時差が生まれています。深い雪に覆われる場所でない限りは、年を越して1月に植えたとしても問題なく咲きます。しかし、植えどきには肝心の球根が入手できないことも多いので、買い逃しのないよう早めの計画&お買い物をおすすめします。かくいう私も、毎晩来年の春の庭を想像しながら眠りにつく日々。文字通り寝ても覚めてもガーデニングに夢中です。
Credit
話 / 面谷ひとみ
– ガーデニスト –
おもだに・ひとみ/鳥取県米子市で夫が院長を務める面谷内科・循環器内科クリニックの庭づくりを行う。一年中美しい風景を楽しんでもらうために、日々庭を丹精する。花を咲き継がせるテクニックが満載の『おしゃれな庭の舞台裏 365日 花あふれる庭のガーデニング』(KADOKAWA)が好評発売中!
写真(表記以外) / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。