海外を見ると世界の国々のなかで相続税がある国は半分ほどしかありません。半分しか相続税がないことによって過度な租税回避を行おうとする超富裕層が後を絶ちません。世界の国々の相続税はどのような状況となっているのでしょうか。富裕層が多いアジア、欧州の国々の相続税について見ていきます。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。

国によって相続税の歴史あり

世界の国々の相続税について見ていきたいと思います。

直接税において、所得税と法人税はタックスヘイブンを除いて、ほぼすべての国の税制に組み込まれています。下記は富裕層の多いアジア・大洋州、米州、欧州の3つに区分して、相続税の有無を示した一覧表です。相続税のある国とない国はほぼ1:1のような割合となっています。

相続税がない国々が半分ほどしかないことによって、租税回避の潜在的可能性が高まっているといえます。

[図表1]

相続税は、民法の親族法、相続法との関係もあると共に、その国の歴史と深い関係があります。なぜ、この国にあって、ほかの国にはないのか、という単純な疑問に答えるためには、その国の歴史と税制史をたどる必要があります。

学問的に探究するのであれば別ですが、話のスタートとしては、この国は相続税があり、別の国はなしということから始めます。

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相続税のないアジアの国々の事情

アジアの場合、世界GDPランキング2位の中国と5位のインドに相続税がありません。また、アジアのタックスヘイブンとして有名な香港、シンガポールも同様です。さらに、南半球のオーストラリア、ニュージーランドにも制度として存在しません。

中国とインドは、相続税導入の試みがありましたが実現しませんでした。しかし、いずれ相続税の導入の機運は高まると思います。

その場合、世界2位の富裕層がいる中国において、どのような富裕層の移動が生じるのか不透明です。一説には、親族が居住しているケースが多いカナダやオーストラリア、日本に移住するのではないかという予測もありますが、このうち、相続税の課税のないのはオーストラリアだけで、中国国民の出国先は不明と言っていいでしょう。

香港は、2006年2月に相続税を廃止しました。そしてシンガポールは、2008年2月15日以降の相続について課税をゼロにしました。しかし、不動産の移転については印紙税の課税があります。

欧州ではチェコが2014年に相続税を廃止しています。背景として、外国からの富裕層受け入れを意図したものといわれています。