兵庫県・斎藤知事「不信任の議決」が成立したら? 知事が“法的に”とりうる「起死回生・必勝の一手」とは

明日(19日)開会する兵庫県議会の定例会で、県職員への「パワハラ疑惑」が報じられている斎藤元彦知事の不信任決議案が提出される見通しとなっている。すでに斎藤知事に対し、知事与党と目される「維新の会」も含むすべての会派から辞職の申し入れが行われており、不信任案が提出されれば可決されることはほぼ確実な情勢といえる。

斎藤知事が辞職を拒んだ場合、どのようなシナリオが考えられるか。斎藤知事に「勝算」はあるのだろうか。

不信任の議決が成立するのは「きわめて異例」

首長の不信任決議案が提出された場合、議長を除く出席議員の4分の3以上の賛成があれば成立する(地方自治法178条1項・3項前段参照)。兵庫県議会は定員86名なので、全員出席したとすると議長を除く64名以上の賛成があれば可決となる。

戦後、都道府県知事の不信任決議案が可決されたケースは4件しかない(【図表】)。しかも、うち2件については県議会の多数派と対立したケース、2件は犯罪の嫌疑で捜査を受けたケースだった。今回のように、まだ刑事事件として立件されていない段階で、与党までもが不信任の議決に加わる見込みなのは、異例の事態である。


【図表】戦後、都道府県知事の不信任決議案が可決されたケース

東京都国分寺市議会議員を3期10年務めた経歴があり、首長・議員の法務の専門家でもある三葛敦志弁護士は、以下の通り分析する。

三葛弁護士:「議員としては、首長には“自発的に”辞めてもらいたい、首長の不信任の議決は可能な限り避けたいと考えるものです。本件でも、すでに報じられている通り、すべての会派が12日までに非公式に斎藤知事に辞職を申し入れています。

議員が不信任の議決を避けたい理由は2つあります。

第一に、二元代表制の下、住民によって選ばれた知事を議会が辞めさせるのは望ましくないというものです。

第二に、首長が不信任決議に対抗して議会を解散する可能性があるからというものです。こちらのほうがむしろ大きいかもしれません。

というのも、議会が解散された場合には、県議会議員選挙が行われます。そうなれば選挙費用がかかるうえ、自分も支援者も大変な思いをします。しかも、その選挙で自分自身が落選するリスクを負います。

議員にとっては、自分が取り組んでいる政策課題があるのに、首長の不祥事のせいで、任期満了を待たずに議員の地位を失うのは、避けたいものです」

特に「維新の会」は、先の県知事選挙で斎藤氏を支持した手前、議場での不信任の議決に至れば、いわば「踏み絵」を迫られることになる。

斎藤知事が「続投を選んだ場合」の「見通しと勝算」は?

首長の不信任の議決が行われた場合、首長は辞職するか、10日以内に議会を解散しなければ、失職することになる。

斎藤知事は、不信任の議決が行われた場合、「法律に則って、さまざまな選択肢を考える」と述べている。これまで続投の意向を表明しており、議会を解散する可能性も十分に考えられる。

もし、斎藤知事が辞職せず「続投」を選んだ場合、どのような見通しが考えられるか。

三葛弁護士:「県議会議員の選挙が行われます。県議選の結果、知事に反対する議員が過半数を占めた場合、議会は再度の不信任の議決を行うことになるでしょう。

再度の不信任の議決を行う場合、決議要件が緩和されています。3分の2以上の議員が出席し、過半数の賛成があれば成立します。この場合、知事は失職します(地方自治法178条2項・3項後段参照)」

現時点で、県議会に斎藤知事の「味方」は1人もいない状態である。斎藤知事が議会を解散しても、県議会議員の選挙が行われれば、よほどのことがない限り再び斎藤知事を支持しない議員が多数を占め、再度の不信任の議決が成立する公算が強いと考えられる。

そうなれば、結局、斎藤知事は失職せざるを得ない。結局、県議会の議員が入れ替わるだけで、斎藤知事が任期を全うできなくなるのは同じではないのか。

もし、斎藤知事に「勝算」があるとしたらどのような場合か。

三葛弁護士:「議会を解散したうえで、県議会議員選挙に合わせて“自発的に”知事も辞任し、出直し知事選挙と県議会議員選挙を同時に行う、ということも論理的にはあり得ます。

斎藤知事は、県民から『頑張れ』といった励ましの声が多いことを強調しています。また、SNS等の一部では、兵庫県民によるものかどうかはわかりませんが『斎藤知事がんばれ』というハッシュタグがトレンド入りしています。

彼の頭の中では、県議会やメディアはともかく、自分が多くの県民から支持されているという認識なのだと考えられます。

もし、その認識が客観的な事実と合致しているとすると、自身が出直し選挙に出馬すれば有権者の多数の票を得て当選することは可能でしょう。

加えて、県議会議員選挙で、それぞれの選挙区に自分の味方をいわば『刺客』として立候補させ、当選させれば、出直し選挙後の県政を安定させることができるでしょう」

斎藤知事は、辞職しない理由として、「県民からの付託」「県民のため」ということをたびたび述べてきた。斎藤知事が最終的にどのような形で「民意」を仰ぐことになるのか。注目される。