「貧しい国に寄付します」高齢女性の優しさに付け込み、自宅に来て物品を買い取る「訪問購入」をめぐるトラブル相談が増えている。
不要品を引き取るはずが、途中で「貴金属はないのか!」と豹変、あろうことか貴金属を盗み去る被害もあるため、国民生活センターは2023年9月18日、「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」という警鐘を鳴らすリポート発表をした。
どうしたら悪らつな手口の被害を防げるのか。調査担当者に聞いた。
目を離したすきに、金のネックレス持ち去る業者
国民生活センターによると、訪問購入をめぐるトラブル相談が2019年は5220件だったのが2023年には8595件と、4年間で1.6倍に増えた。被害者の約4人に3人が70歳以上の高齢女性だ。
こんな事例が代表的だ【イラスト】。
【事例1】目を離したすきに、金のネックレスやダイヤの指輪を業者に持ち去られた
自宅に一人でいる時、突然購入業者から訪問を受けた。集めていた切手帳を買い取ってもらうことになり、代金約2万円を受け取った。
その後、「貴金属はありませんか」と言われ、2階に取りに行って戻ると、一人だった購入業者が2人になっていた。大事にしていた金のネックレス数本とダイヤの指輪とイヤリングを見せていたが、ふと目を離した隙に購入業者がいなくなっており、アクセサリーの入っていた箱はすべて空になっていた。
書面は何も渡されておらず、事業者名や電話番号もわからない。警察には相談済みだが、どうすればよいか。(2023年11月・80歳代女性)
【事例2】「貧しい国に寄付する」と言われ、業者を自宅に入れたが指輪が消えた
購入業者から「不用品を買い取り貧しい国に寄付する」と電話があった。何でも買い取ると言われた。人の役に立つならと思い、訪問を了承した。男性2人を自宅に入れ、不要な衣類やネックレス数点を数千円で買い取ってもらった。
その際業者に「貴金属を見せてほしい」と言われたので、大切にしているダイヤ付きの金の指輪を見せたが売らなかった。業者が帰った後にその指輪がないことに気づいた。(2024年5月・年代不明女性)
【事例3】身に着けていた母の形見の指輪を強引に要求され、怖かった
「何でも買い取る」と女性の声で電話があったので、購入業者の来訪を承諾した。終活のため買い取ってもらいたい未使用の贈答品や古着を用意した。男性がやって来た。「何でもよい」と言っていたのに贈答品や古着には目もくれず、「貴金属はないのか。タンスの中を調べてこい」。
「貴金属はない」と言っても引き下がらず、身に着けていた母の形見の指輪を外せと迫ってきた。「これを外すのは、墓場に入るときだけ」と強く言い返したら帰ったが、すごく恐ろしかった。何でも買い取ると言われて用意したが、ウソだった。(2024年6月・90歳代女性)
【事例4】認知症の母親が記念硬貨を安値で買い取られていた
一人暮らしの認知症の母の介護をしているヘルパーから「家の金庫が開いている。荒らされているようだ」との連絡があった。驚いて母の家に行くと、金庫が開いており、荒らされた様子だった。
金庫の中を調べると、記念硬貨がなくなっていた。母に聞くと「買い取り業者が来て、金庫の中を見せてほしいと頼まれて開けた。業者が『記念硬貨を買い取る』と持って行った」という。業者が事前に母へ連絡してから訪ねて来たのかはわからない。
部屋に売買契約書があり、記念硬貨が約3万円で買い取られていた。価値は2倍以上する物だ。母は契約内容を理解していないと思われ、あまりにもひどい。契約を白紙にしたい。(2024年6月・契約当事者80歳代女性)
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「金」の高騰と、「買い取り」ブームが要因
J‐CASTニュースBiz編集部は調査を行なった国民生活センター相談情報部の加藤良太さんに話を聞いた。
――なぜ、急に不要品買い取りの訪問販売の相談が急増したのでしょうか。
加藤良太さん 理由は2つあると思います。
1つは国際情勢が不安定になり金の価格が上昇したことです。経済リスクが高まると、安全資産として金の値段が高くなります。2019年に1グラム4000円ほどだったのが、現在は1万円以上、つまり2.5倍以上に上がっています。
業者側にすれば、不要品の買い取りを理由に高齢者の自宅に入り、金製品を買い取りたい、あるいは盗み去りたいという動機が十分あります。
もう1つは被害者側の事情です。近年、不要品買い取りビジネスが広がり、テレビCMなどでも盛んに宣伝しています。もちろん、テレビCMで宣伝するは真っ当な業者に違いありませんが、高齢女性にとって不要品を業者に持っていくことが身近になりました。警戒する心理的なハードルが低くなっているのです。
――そこに電話がかかってくると、簡単に騙されてしまうわけですか。
加藤良太さん 業者側も女性や、高齢女性の孫のような若い男性の声を使って優しい口調で安心させます。また、「不要品を貧しい国に寄付する」とか「能登半島地震の被災者に送る」などという言い方で訪問の承諾を得ようとします。
特定商取引法では、飛び込み勧誘を禁じていますから、訪問購入を承諾させるために、話し相手になって信用させるなど、あの手この手を使います。