◆これまでのあらすじ
アパレル関連の会社を経営する翔馬(32)は、モテるが特定の彼女がなかなかできない。そんなとき、鮨店で隣の席にいた年上の男性経営者・秋山に話しかけられ、連絡先を交換した。親友の元太も「彼女を作れ」とうるさいので、秋山主催の食事会に行くことになったが…。
▶前回:「LINE交換しませんか?」麻布十番の鮨店で思わぬ出会いが…
Vol.2 西麻布の高級居酒屋に集まった美女たち
俺と元太が、秋山に出会ったのは2週間前。
推定50歳の飲食店経営者をしている彼から、なぜか食事会に誘われたのだ。
親友の元太もお節介に「ちゃんとした彼女を作れ」とうるさい。
だから、黙らせるためにも行くことにした…というのは建前で、本当は有り難く思っている。
最近は男だけで遊んでばかりだったし、女の子とお酒を飲む手段は、店に行くか、金を払って来てもらうか、の2パターンだったからだ。
「今日の店は『田中田』かぁ。そういえば、博多本店に一緒に行ったよな?」
「あぁ。覚えてる。何を食べてもうまかったわ。値段覚えてないけど」
「覚えてないんじゃなくて、知らないんだよ。あそこはメニューに金額が載ってないから」
「へぇ、そうなの」
元太と会話をしながら、本気で好きな子がいたのは、いつが最後か思い出してみたが、名前すら出てこなかった。
「すみません、遅くなりました」
実際は時間ちょうどに着いたのだが、秋山と女性たちが先に来ていたので、俺は無意識に謝った。
「こんちは。うわッ!二人ともめちゃくちゃ可愛いっすね!俺は元太っす!!」
― 出会いの場を提供してくれるのは有り難いが、爆美女が来ることは滅多にない。だから期待はしない。
俺は、ここに来るまでそう思っていた。でも今は、中学生のような反応を見せた元太と同じ感想を抱いている。
秋山が連れてきてくれた女性たちは、いい意味で予想を大きく裏切ってくれたのだ。
「僕らも着いたばかりだよ。もう一人女の子が来るけど、先に始めようか!」
秋山がそう言うので、それぞれが飲みたいお酒を注文した。
「シャンパンは、香澄ちゃんだったよね?」
「そうで〜す!」
笑顔で手を伸ばした小柄な女子は、香澄というらしい。顔が小さくて、色が白い。
毛先だけ巻かれた髪は、彼女が動くたびふわふわと揺れ、その度に桃のような甘い匂いがする。
「じゃあ、このまま自己紹介しちゃいますね。えっと…名前は香澄でPR会社に勤めています。趣味はSNSと、ネトフリとかアベマで香ばしい恋リアを見ることで〜す」
「香澄ちゃん、よろしくね。で…お隣りは友達?」
俺は、姿勢の良い黒髪ロングの高身長女子に視線を移す。
「いえ、今日が初対面です。私は玲。東大卒で総合商社で働いています」
玲が短い自己紹介を終えると、すかさず香澄が口を開く。
「え〜!東大?すご〜い!!ところで、翔馬さんと元太さんは、なんのお仕事しているんですか?」
― キタ。この質問。
俺の悪い癖なのだが、会社経営という肩書を明かしたときの反応で、女性をジャッジしてしまうところがある。
美人で経営者の知り合いが多い女性は、反応が薄いので物足りない。かといって目の色を変える、専業主婦願望が隠せない金目当て女性も萎えてしまうのだ。
「え〜〜!すご〜い!!!かっこいいなぁ、尊敬しちゃいます!ところで、どんな女性がタイプなんですか?」
「あ……それは、もう少しお酒を飲んでからにしようかな」
― 香澄は圧倒的後者。玲は香澄に圧倒されていただけかもしれないが、恐らく前者だろう。
そんなことを思っていた時だった…。
「ごめんなさい。遅くなっちゃいました!」
女性の声がして、皆の視線を一気に集める。
黒のTシャツにデニム。シンプルな服装なのにだらしなく見えないのは、スタイルがいいからなのだろうか。
ラフに結んだ髪さえ計算されたように見える。
「おぉ、ミナちゃん。待ってたよ!!コムギちゃんどうだった?」
「はい。動物病院が混んでて…でもなんともなかったので大丈夫です」
愛犬を使う言い訳はよく聞くが、彼女の表情を見る限り、嘘をついているようには見えなかった。
しかも、香澄や玲に負けず劣らず美しい。
「翔馬、今日アタリだな。秋元っつぁんすごいわ」
「あぁ」
元太が耳打ちしてきたので、俺は正面を向いたまま小さく返事をした。
経営者に美女友達がいるのは、至極当然で港区では飽きるほどに見慣れた光景だ。
けれど、こんな美女たちを、秋山は独り占めせず、なぜ俺と元太に紹介してくれるのだろうか。
― この男、自分によっぽど自信が…?
そんなことを考えていると、注文した料理が次々と運ばれてきた。
元太は香澄の方を見ながら、わかりやすくデレデレしている。どうやら彼女のことが気に入ったらしい。
― 女の本性を見抜けないヤツは、お気楽で羨ましいよ。
けれど、残念ながら香澄は元太に興味がないようだ。さっきから俺にばかり優しくしてくれる。
香澄みたいな女性は苦手なのだが、好意を向けられると素直に嬉しいのが悔しい。
「翔馬さん!このアワビのバター焼き、すっごく美味しいですよ。はいどうぞ♡」
「ありがとう」
「え〜香澄ちゃん、僕にも取ってぇ」
「はいは〜い」
その様子を日本酒を飲みながら半笑いで見ている玲と、黙々と食べ進めるミナ。
見た目だけじゃなく、彼女たちは性格もまるっきり違うのが面白い。
うまいツマミに、綺麗な女性たち。酒が進まないわけがない。
何杯目かのお酒を人数まとめて注文すると、秋山は俺たちに言う。
「気を使って聞いてこないのかもしれないけど…」
「はい?」
「翔馬くんと元太くんは、僕と彼女たちの関係が気になっているよね?」
俺と元太は顔を見合わせる。
「そうっすね、確かに。どういう知り合いなんですか?」
元太が聞くと、秋山は持っていたグラスをテーブルに置いた。
「想像しているような変な関係じゃないんだよ。だから、彼女たちの名誉のためにも言っておくね。
香澄ちゃんは、僕が経営している店で昔アルバイトしていたの。玲ちゃんのお家は栃木の有名な蔵元で、日本酒を卸してくれているんだよね。
で、ミナちゃんは…店に来ていたところをナンパしました!あはは」
秋山もだいぶ酒が回っているらしい。顔がほんのり赤くなっている。
「秋山さん、俺らのこともナンパしたじゃないですか〜!だからミナちゃんと同じですね」
俺はミナをフォローするつもりで言った。
「ははは、そうだったね。ごめんよ、ナンパおじさんで」
「全然。お声かけいただけて光栄ですよ」
聞けば、秋山は銀座に高級和食店と、焼鳥店を都内に3店舗、その他にバーなんかも経営しているそうだ。
「実は、食事会を開催してほしいと言ってきたのは、玲ちゃんなんだ。クライアントに頼まれたら、断れないからねぇ」
「ちょっと、秋山さん!それ言わないでくださいよ!」
「え?内緒だった?ごめん。でも、今年29歳だからって、焦ることないのにね」
不意に自分の名前を出された玲は、顔を赤くしている。
「あ。玲ちゃんと私、同い年だ。95年?」
その様子に救いの手を差し伸べたのは、意外にもミナだった。
「うん。今年29歳。そういえば私たち、お互いの年齢を知らなかったね。香澄ちゃんは?」
玲が香澄に聞く。
「31歳だけど」
「……あぁ、そうなんだ…ごめんなさい。てっきり年下かと」
「ちょっと、急に敬語になるのやめて。その気の毒そうな顔もやめて」
「すみません、香澄先輩」
「だから、やめてってば!」
「あははは」
女子たちのやり取りに、男性陣も思わず笑ってしまう。
気づけば3時間が経過していて、ミナの犬も心配だからと、僕らは解散した。
「あ、グループLINE作ってくれてるわ」
「よかったな」
「いやいや。お前の彼女を探す会なんだから、“よかったな”はちがうだろ」
― まぁ、そうか。
珍しく元太がツッこんでくるので、何も言えずにいたら、ある女性から個別メッセージが届いた。
『今日はありがとうございました。よかったら今度はふたりでお食事行きませんか』
その瞬間、俺の中の恋愛スイッチがカチッと音がした気がした。
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翔馬は連絡をくれた女性とデートに…