『ここは大人が青春できる街だから』
朝までバカ笑いしたり、大喧嘩したり、誰かのために本気で怒り、泣いた…友情。
会いたくてドキドキして、でもうまくいかなくて胸を痛めた…恋愛。
《大人の青春》
この街で始まったみんなとの時間を表すのに、これ以上ピッタリな言葉はないと思う。
年齢なんて関係ない。この街に戻れば、私たちはいつでも《青春》を取り戻すことができる。
これは、はしゃぐことを忘れた大人たちに送る、大人の青春物語です。
「アオハルなんて甘すぎる」一挙に全話おさらい!
第1話:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…
― えっと…ここを右、か。
ちなみに宝は地図が読める女で、これまで道に迷ったことは一度もない。絶対の自信を持ってずんずん進むうちに、いつの間にか喧騒は消え、静かすぎるほどのエリア、目的地にたどり着いた。それは白いビルというのか、とにかく白い建物で、ここで間違いはないはずだったが。
「…入り口、どこ…」
入り口らしきものが見つからない。看板もない。何か困ったら連絡して、と教えられていた店の電話番号にかけようとした、その時。
「Sneet(スニート)に来たの?」
声の方向を振り返ると、存在感のある女性が立っていた。
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第2話:「別れ際のハグ」に深い意味はあるのか?イケメンからの突然の抱擁に、27歳女は動揺し…
「今日はありがとーのハグ」
「!?」
いきなり抱きしめられ、柑橘系…と単純に説明してはいけないような、苦味みが混じった優しい香りに心臓が跳ね上がる。
“西麻布の人って皆こんなにいい香りがするものなの!?”
”…っていうか、この街の別れ際はハグが決まりなの!?”
呆然とする私の体を優しく離しながら、大輝くんは笑顔で言った。
「西麻布にようこそ」
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第3話:失恋した27歳女が港区に引っ越し。自分を変えるために決心した“10のチャレンジ”とは?
「雄大さん、本当に来てくれた!ありがとうございます!」
「伊東くん、改築、おめでとう」
挨拶に来たシェフと立ち上がって握手をした後、雄大さんは、愛さん、大輝くん、そして私を伊東シェフに紹介してくれた。
「こちら、佐々木宝さん。今日は、彼女の決意発表のお祝いも兼ねてるんだ」
― 決意発表?
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第4話:夫が会社の部下と恋に落ちた。とんでもない男の態度にショックを受けた妻は…
「宝ちゃん、昨日の夜、俺たちの話、聞いてたでしょ?」
気づかれていた。雄大さんの位置からは、リビングの入り口のドアのすりガラス越しに、立ち去る私の影が見えたらしい。すみません、聞くつもりはなかったんですけど、と、もう一度謝ると、こちらこそ騒がしくて申し訳なかった、と謝り返される。
「宝ちゃんにちゃんと説明しておいた方がいいかな、と思って」と雄大さんは言った。
「今のままじゃ、あの2人に会うの気まずいだろうし、心構えがいるかなと。日本に帰っても一緒にいることが増えるわけだし。それに愛からの伝言で、今日の朝食は無理そうだから宝ちゃんにゴメン、って。だからオレが代わりに。朝食がてら、説明するよ」
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第5話:「東京での成功に、ものすごく憧れていた…」27歳女性が男の苦労話に涙した理由
伊東さんの下の名前は智春さんで、こちらではトモって呼ばれてます、と笑った顔が童顔、というか若々しくみえて年齢を聞くと、36歳だという。コックコートを着ていないと随分印象が変わるんだな、なんてことを考えていると、雄大さんが、実はさ、と私を見た。
「今日はシャンパーニュ訪問、といいつつ、宝ちゃんと伊東くんを話させたかったんだよね。彼の人生、面白いから。2人で話してみて。伊東くんは了承済み」
というと、オレは日本に買って帰るシャンパーニュを選んでくる、と止める間もなく立ち去ってしまった。
― ちょっと待って!いきなり2人きりにされても…!
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第6話:「今夜、食事しない?」浮気した同僚男性からの誘い。27歳女の心は揺れたが…
― キャリアアップ。
それはこれまでにも、何度かクレアに言われてきたこと。クレアの言うヒアリングとは3ヶ月に1度、クレアと部下との間で行われるもので、異動したい希望部署はないか、今後の目標設定は?などを聞かれるいわゆる人事に関係する面接のことだ。
クレアからは、タカラは真面目でミスもないし、丁寧で信頼できる。でも、将来どうしたいのかというビジョンは全く見えてこない、と毎回指摘を受けている。
― 将来の目標って…どうやったら見つけられるんだろう。
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第7話:「俺の大切な人」イケメン年下男からのまさかの言葉に、27歳女は動揺し…
「…なんのつもりか分からないけど、コイツをからかうのはやめてください」
「宝ちゃんをコイツとか言わないでもらえます?それにオレが宝ちゃんをからかってると?」
「あなたみたいな人が…宝とデートとかありえないでしょう?」
― うん、そう。祥吾、正解です。
私は心の中で突っ込みを入れる。だって疑似デートだからねと思いながら、もう行こう、と大輝くんを促した。そうだね、と言いながら大輝くんは動かず…というより、さらに一歩、祥吾に近づいて笑った。
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第8話:「ハグしたい」深夜の23時55分、デートの帰り際に女性が思わず言った言葉に男は…
映画でよく見るSPのような男性が2人、自動ドアの前に立っている。そこを顔パス?ってやつで通り過ぎた先にもう一つ扉があった。大輝くんが躊躇なくその扉を開けると同時に、お疲れーという複数の声が響いた。
「左からカツヤ、ショウ、エリック。で、メイくん。メイくんのことはたぶん知ってるよね」
そこにいたのは4人の男性。全員、大輝くんの幼馴染で、親同士も友達…らしいのだが、知っているよねと言われた男性…は知っているどころではなく、自分の顔が一気に赤くなるのが分かる。
― うそでしょ!?何でここに!?
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第9話:「港区に住むなら、絶対知っておくべきコトは…」27歳女が触れてしまった、西麻布の闇
メイくんに会ったのいいなぁ、あどけない顔にマッチョな体って最高だよね、とうっとりした愛さんに、そうなんです!と心で叫びつつ静かに頷いた…つもりが、隠せていなかったらしい。愛さんが、宝ちゃん大興奮できてよかったね、と笑っている。
「メイくんと会ったってことは…Porte(ポルト)で?」
雄大さんの質問に大輝くんが、そう、と頷く。
「あそこ、今相当ヤバいらしいけど、大丈夫だったか?」
「…別にいつも通りというか。大丈夫だったけど。なんで?」
「経営者変わったんだよ。気をつけないと巻き込まれるぞ」
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第10話:サイコパスな元夫が強制してきた、一人息子の海外留学。28歳女が思わず口にしたコト
ソファーテーブルをはさんで私たちの前、窓ガラスを背にして座ったタケフミさんの顔が逆光で暗い…と思っていると、窓ガラスのカーテンが電動で閉まった。座ると閉まるの!?と驚き密かに辺りを伺うと、お手伝いさんがリモコンを押しているようだった。
「…あなたが私に会う必要があるのは、あの子に関わることだけですよね」
切り出したのは愛さんからだった。そうだ、と短くつぶやいたタケフミさんの前に、お手伝いさんがグラスを運んできた。おそらく水であろうそれをグイっと飲んでから、タケフミさんは言った。
「タケルは、中学から海外に行かせる。決定事項だからジャマをしても無駄だと直接くぎを刺しておこうかと思ってね」
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第11話:28歳女の誕生日を、男女4人でホテルで祝うはずが…。女2人が深く傷ついたワケ
「愛、話は終わっていない。今帰ることはお前にとっても不利になると思わないか?それに…」
タケフミさんが立ち上がり、タケルくんを愛さんから引きはがした。そして言った。
「私は危険の芽はどんなに小さくても摘むよ。勝負は勝たねば意味がないからね」
愛さんは、またご連絡します、とだけつぶやき私の手を引くと、一度も振り返らないまま外に出た。私が最後に見たのは、いつまでもこちらを見ていた、タケルくんのその表情だった。
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第12話:「チープな正義感は通用しない」28歳女が、友人のために経済界に顔が通じる大物を怒らせてしまい…
いつもに増してきつい雄大さんの言葉は正直怖い。苛立ちを隠そうともせず、眉間にしわを寄せたままで、雄大さんが私を見た。
「さっきも言ったけど、今日のことは愛も悪い。むしろ愛が一番悪い。ついて行くと言われた時に断らなかったのがアホ。宝ちゃんが自分を思ってくれてることに感動して、とか言うんだろうけど、あの元旦那に隙を与えるだけなのに」
雄大さんの説明によると、元旦那さんの名前は瀧川偉文(たけふみ)さんというらしい。代々、偉人の“偉”を男子にはつけるという家系で、愛さんの息子、タケルくんも“偉瑠”と書くのだと知った。
「愛、今日1日、全く抵抗しなかっただろ?あの元旦那に」
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第13話:「港区の闇にのまれたのは…私」お金と野心に目がくらんだ女の後悔とは
やだなんか優しいじゃん!雄大が優しいと怖い!とふざけた愛に、雄大の眉間のシワが深くなる。そんな顔しないでよ~とその肩を押した愛が、私さ、と続けた。
「宝ちゃんと初めて2人で飲んだ日にね。この辺りで生活始めると、闇にのまれちゃう女子もいるから気を付けてって…言ったんだけどさ」
「…」
「闇にのまれた女子が私だなんて、宝ちゃんは思ってもいないと思うけど。あーあ、あの頃の私ってひどかったよねぇ」
「…」
「お金と野心に目がくらんで、成り上がりたくて」
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第14話:「他の人とデート行くの、俺もちょっと寂しいよ」28歳女に思わぬモテ期が来た理由とは
大輝くんの言葉が急に前のめりになり、目のキラキラが増した。そうだ。この人は極度の恋愛体質で恋バナが大好きな人だった、と思いだして、私は苦笑いになる。
「伊東さんみたいな人が私をデートに誘うわけないでしょ。フランスで日本に帰ることがあったらご連絡しますって言ってたから、律儀に…」
そこで言葉が詰まった。大輝くんの、ニコニコ、というか、ニヤニヤ、という視線が気になりすぎたからだ。何かおかしい?と聞いた私に、そのニヤニヤのまま大輝くんは言った。
「相変わらずの自己謙遜っぷりだけど、宝ちゃんって自分で思ってるよりモテると思うよ。宝ちゃんがデートかぁって思うと…オレも…なんかちょっと寂しくなってきたし?」
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第15話:「僕とご飯にいくのがイヤってことかな?」男からの単刀直入な質問に28歳女は慌てて…
「まとまらなくても、思い浮かんだまま言葉にしていいんだよ。わからないことはきちんと説明できなくてもいいし、話せることだけ話してくれたらいいよ」
大輝くんはいつも相手が話しやすい雰囲気を作ろうとしてくれる。私も随分助けられてきたなと、改めて大輝くんの気遣いをすごいと思った。
そして。しばらく黙っていたタケルくんが顔をあげた時に見たのは、大輝くんではなく私だった。
「その…僕が宝さんに会いたいと思っていたのは、宝さんに聞いてみたいことがあったからなんです」
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第16話:「デートの正しい作法がわからない…」西麻布の1Kの自宅で、28歳女が親友にすがりついた理由
「…あらら?気になる人かどうかわからないといいつつ、宝、伊東さんのこと既に結構好きじゃん」
「…そう、なのかな」
伊東さんは素敵な人で、好きか嫌いでいうなら間違いなく好きだろうとは思う。でも私の消えないモヤモヤは伊東さんとは関係ないところにある気がしているのだけど、それをうまく言葉にできないでいる。
きちんと誰かとお付き合いした経験は1度しかないし、フラれて以来、やや男性不信的なものも…と思っていると、友香が言った。
「まあ、宝の不安もなんとなくわかる気がするけど。宝って、恋愛バージン的な感じもするからさ。宝の不安って恋愛免疫のなさからきてるんじゃない?」
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第17話:「涙の理由は知らないけど、泣くなら美学を持たなきゃダメだよ」西麻布のゴッドマザーに相談すると…
私におごらせてもらえます?からババアのたわごとへの流れが理解できずにいると、大輝くんに、宝ちゃん、と呼ばれた。
「オレたちはカウンターに移動して、終わるのを待っていようか」
光江さんとの話が終わったらすぐ合流するからごめんね、と両手を合わせた愛さんに謝られ、何が終わるのを待つのかいまいちわからないまま私は頷いた。大輝くんに続いて個室を出ようとしたとき、お嬢ちゃん、と光江さんに呼び止められた。
「涙の理由は知らないけどさ。ただ泣くだけなら赤ん坊と同じだからね」
「…?」
「美学を持たなきゃダメだよ」
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第18話:「5cmヒールで、会社からお店まではタクシーに乗って…」気合を入れた初デートで男からの思わぬ告白
「ごめん、オレまた、自分ばっかり喋ってた。料理のこととなると…」
ワインが空になり注文するタイミングなどで、伊東さんは時々我に返るようで、その度に照れたように謝ってくれたけれど、私は本心から首を横にふる。
「お話、めちゃくちゃ面白いです。それに…実は何を話せばいいのか緊張していたので、沢山話してもらえてホッとしてます。そもそもデートしようって誘われて食事に行くことって、私、あんまりない…というかめちゃくちゃ久しぶりで」
「本当に?オレ的にはライバルが少ない方がラッキーだけど…宝ちゃんってめちゃくちゃ魅力的なのに。久しぶりに素敵な子に会えたなってシャンパーニュで初めて会った時から思ってるよ」
こちらを見つめる伊東さんの目に、ググっと一気に熱がこもった気がした。…こ、これはもしかして、アムールモードがオン、ってやつなのでしょうか?
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第19話:「新しい男で上書きしないと、古い恋の傷は癒えない」デートでの猛アタックに戸惑う28歳女に友人は…
「伊東さんにトラウマを克服する練習台になってもらうというかさ。それこそ宝ちゃんが西麻布に引っ越した理由って、元カレさんの浮気…そして“つまらない女”って言われちゃったことが原因でしょう?ついにそれを克服する時が来たと思ったらどうかな?
元カレと同じような押しの強いタイプにでも、今の宝ちゃんならきっと違う対応ができるはずだし。オトコにつけられたトラウマは、新たなオトコで上書きしないかぎり消せない。私、世にはびこる恋愛のHOW TO論とか全部ウソだと思うし、全く信じてないけど、それだけは絶対だと思うんだよね」
愛さんがなんだかイキイキしてきた。とても楽しそうだ。
― トラウマを上書きして消す…?
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第20話:「もう少しだけ、このままでいいかな?」初デート中、東京タワーまでの道で突然手を握られて…
「…なんで大輝くんはOKしてくれたのかなぁって」
「え?」
「だって大輝くんが逆の立場だったら…大輝くんは疑似だったとしても恋人が他の人とデートするのはいやなんだよね?彼女さんも本心ではいやだと思ってるかもしれないでしょう?私が大輝くんに甘えすぎてるんじゃないかって心配になってきちゃって」
今更でごめん、ともう一度謝った私を、大輝くんは不思議な表情で見ていた。虚をつかれたような、それでいて悟り切ったような。そして言った。
「オレさ、今の自分の気持ちがわからないんだよね。こんなの初めてなんだけど」
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第21話:「手をつないだら、君のことが好きなのかわかると思ったけど…」デート中の男性からの衝撃のひと言
大輝くんの視線が、ぐっ、ぐっ、と私に刺さってくる。ちょっと待って。この雰囲気は何?なにかと甘すぎるのは大輝くんの癖。癖だけれど、これはなんだか…。
「オレにとって宝ちゃんがどっちに属するのか、ちょっと今、わからなくなっちゃって混乱してる。手をつないでみたらわかると思ったけど、まだわからない。でも伊東さんとデートしてる宝ちゃんを想像すると少しイヤな気持ちになるし、たぶんデートに行って欲しくないんだと思う。
宝ちゃんへのモヤモヤっとした気持ち…それが友情か恋愛なのか……宝ちゃんは、どう思う?意見を聞かせて欲しくて」
「…ど、どう思うって、言われても…」
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第22話:「ちょっとだけ芸能のお仕事させていただいていた」港区の飲み会に頻出する20代女性からの忠告とは
― 部屋から出られたら逃げられるかも。
そう思い、私もトイレに行きたいと伝えたけれど、あっさりとその思惑はバレてしまったらしく、宝ちゃんが逃げないようにと、門番をしていた1人が見張りとしてついてきてしまった。
― もう覚悟するしかない…。
3時間で解放してくれると言っていた。それに大輝くんも来てくれるかもしれない。そんな希望的観測を無理やり心に灯しつつ、今更トイレに行かないという選択肢を失った私はトイレへ入り、個室の中へ。
しばらくして出ると、トイレの鏡の前で、化粧を直していた女の子と目があった。
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第23話:「元アイドルって、普通の仕事に就くのが…」美女が港区で夜な夜な飲む理由
「約束の3時間が経過して1度も私から連絡なければ、対応してもらうことになってる。今回はカナさんの紹介だったから、上客しかいないって少し油断しちゃってたけど…短時間で高額をもらうならそれなりのリスクがあって当然だからね」
「…すごい。強いんですね、尊敬します」
思わず漏らした言葉に、そんなことはじめて言われたと笑うともみさんを見つめながら疑問が湧いた。
ともみさんはとても賢い。それなのになぜ…という疑問だ。聞いてもいいですかと前置きしてから尋ねてみる。
「なんで、ギャラ飲み、を?」
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第24話:「資産家の家に生まれたお前が、ずっと妬ましかった…」幼稚舎からの親友だった男2人の縁が切れた瞬間
「宝ちゃん、知ってる?コイツ、こう見えて一通りの武道をたしなんでいらっしゃるわけですよ。小さい頃から誘拐の危機にさらされてきたからね。中学生までSPもついてたんだから」
タバコに火をつけたエリックさんを、ここ禁煙だろ、と大輝くんの低い声がとがめた。ああ、清廉潔白なお坊ちゃまの前ですみませんねと言いながらもエリックさんは煙を吹かした。
大きなテーブルをソファーが囲む配置の部屋で、私は大輝くんの正面に座り、私からは右斜め、大輝くんからは左斜めの位置にエリックさんが座っている。煙は私の方には流れてこないが、宝ちゃんごめんね、と大輝くんが言った。
「いちいちムカつくな。その王子様きどりの紳士ぶりが」
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第25話:「本物かどうかなんて、他人は興味ない」元カノの恨みが加速し、SNSで流出した“ある写真”とは…
「前に愛さんが私に、恋愛の傷は恋愛でしか上書きできない的なことを言ってくれたことがあるんだけど」
伊東さんとのデートを勧められた時に言われたその言葉を借りて、私は続けた。
「友情の傷も友情でしか上書きできないんじゃないかなって」
友情も?と大輝くんは疑問形になったけれど、私にはその実体験がある。その体験を話させて欲しいと告げると、大輝くんは穏やかに頷いてくれた。
「私も…親友っていう関係を壊してしまったことがあるから。高校生のときに」
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第26話:「勝負デートに向けてプレゼント♡」28歳女性が、年上の女友達からの贈り物を開けて仰天した理由
鏡の中の自分は、さっきまでとは、たぶん…少しは、違って見えるはず。これなら伊東さんも少しは驚いてくれるかも…と、自分なりに満足したところで、愛さんに渡されていたもののことを思い出した。
「私からのプレゼント。というかデートへの応援♡」
着替えて準備万端になってから、最後に開けてねと渡されていたのは、黒いシフォンの包装紙に包まれ、ゴールドとグレイのリボンが掛けられた20cm四方くらいの箱だった。おそる、おそる、開けてみると。
― 愛さん!!
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第27話:「“うらやましい”は、ヒント」女性がデート中に惚れ直した、男が語る人生教訓とは
「伊東さんや清水さんみたいに、明確な目標に突き進む人たちがすごく眩しくて、輝いて見えるのかもしれません」
そっか、と言った伊東さんがしばし沈黙し。少しデート向けじゃない話してもいいかな?と前置きしてから続けた。
「オレを雇ってくれた恩人の、レストランのオーナーに言われたことがあってさ」
それは以前シャンパーニュで聞いた、伊東さんがフランスで初めて働いた店のオーナーさんのことだろうか。
「うらやましいはヒントだから、うらやましいを探しなさいって」
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第28話:「寝起きの君は…」初のお泊まりデートの翌朝、彼のひと言に大パニックになり…
なんとかベッド脇に落ちているバスローブを羽織りたい。そのためには伊東さんの腕を抜け出さなければならず…少しずつそっと静かに体をひねっていき、いざ起き上がろうとしたその時。
グイっと体を引かれ、その勢いで体が反転した。
「おはよ」
伊東さんの笑顔が…息が触れあう程、近くに。その表情は、まさか。
「……もしかして…伊東さん、ずっと…起きてました?」
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第29話:「キャリアに迷って…」28歳女性が、難解な社内公募に挑戦。影で支えるありがたすぎる彼の存在とは…
コミュニケーション室が重要視するのはTOEICの点数ではないけれど…と前置きしてクレアは続けた。
「もし英語力の壁を突破できたとしても…タカラはコミュニケーションが得意とはいえないでしょう?コミュニケーション室に配属になれば、苦手だからって避けられなくなるけれど、その覚悟はあるの?」
クレアが本社から赴任してきて1年とちょっと。働く国の言語を使うことが礼儀だと普段は日本語を使うクレアが、思わず…と言った様子で熱のこもった英語になっている。その熱はきっと私への心配によるもので、私は感謝を覚えながら言った。
「確かに得意とは言えません。でも…このテストにチャレンジしてみたいんです」
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第30話:「合格した人が妬ましい…」28歳女性に初めて芽生えた“欲”に、男友達がかけた意外なひと言とは
「元々、私の実力では難しいとわかっていたし、それを承知の上で挑戦して落ちた。覚悟してたはずなのに、思ってたよりずっと悔しくて悔しくて。変な感情が芽生えちゃって」
「変な感情って?」
「…受かった人がうらやましい…を通り越して、妬ましいって思っちゃった」
「それって別に普通じゃない?自分が欲しいものを別の人が手に入れたら、羨ましくも妬ましくもなるよ」
「…そうかもしれないけど…」
なんと伝えたらいいのか。うまく言葉にできずにいると、おめでと、と言われて顔を上げる。
「おめでとう…?」
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