顧客からの喜びの声が、社員のやりがい創出にも寄与

小父内 安心して発言できる、つまり、コミュニティメンバーにとって、心理的安全性がある場所なのでしょうね。しっかりと、ファンに愛されているコミュニティという印象を受けます。

澁谷 ファンの中には「このコミュニティが生き甲斐です」と言ってくださる方もいらっしゃいます。コミュニティがお客様の日々の生活に潤いを与えているのではないかと考えています。コロナ禍でなかなか人との交流ができなかった時期もあったのですが、オンラインコミュニティでは常に誰かとつながっており、自分で作った作品に対して反応がもらえることは大きなモチベーションになっていたのかなと感じています。

小父内 コミュニティの開設当初(2021年)は、まさにコロナ禍でしたよね。DIYは自分一人でも楽しめるかもしれませんが、誰からも反応がもらえないというのは寂しいですよね。そのなかで、つながる場を求めた方も多かったでしょうね。一方で、社内の反応はいかがだったのでしょうか?

澁谷 社内でも大きな反響がありましたね。ワークショップで一緒に作った作品がその後、お客様のご自宅でどのように使われているのかということをコミュニティの投稿を通して知ることができるようになったので、店舗スタッフのやりがいにもつながっているようです。また、社内メンバーから「この新商品のキャンペーンを展開したいのですが、コミュニティでできないですか?」などと声をかけてもらう機会が増えました。社内のメンバーの中でもコミュニティの存在が日に日に大きくなっていることを実感しています。

小父内 社内のメンバーもファンが集うコミュニティに価値を感じ、活用法を模索しているのですね。実際にコミュニティを活用した施策があれば、教えてください。

澁谷 カインズでオーダーカット家具を販売するサービスが新たに始まったのですが、そのオーダーカット家具を実際に使ってDIYでアレンジしてくれるモニターを募集しました。短期間の募集にもかかわらず、約120件もの応募があり、その反響の大きさに驚きました。

小父内 短期間かつ、濃いユーザーだけにアプローチできるのもコミュニティの強みです。DIYが大好きなファン120人のモニターを集めるのも、コミュニティなしではきっと大変だったはずです。これは、非常に大きな価値ですよね。

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ポイントは、小さい火を徐々に広げていくこと

小父内 ファンコミュニティ立ち上げのポイントを教えてください。

澁谷 コミュニティ立ち上げ当初に小父内さんに教えていただいたなかで印象的だったのが、「コミュニティでは小さい火を徐々に広げていくことが重要だ」という言葉です。教えていただいた通りに最初は10名のコアメンバーから始めたのですが、正直にお話しすると、もっと勢いよく大きく始めたほうが良いのではないかという声も社内で上がっていました。ですが、少人数のコアメンバーから始めたおかげで、運営の土台を築くことができ、コミュニティの活性化に大きくつながりました。小さい火を徐々に広げていくことは非常に重要なポイントだと思います。

小父内 まずは小さいことからコツコツ積み上げていくことが本当に重要です。「CAINZ DIY Square」は、今では年間15万アクションがある熱狂的なコミュニティとなっています。これまでコミュニティを見てきたなかで、印象的なユーザーのことやエピソードなどがあれば教えてください。

澁谷 先ほどお話ししたコアメンバーのうちの一人は、カインズのことが好きになりすぎて、今ではカインズでアルバイトメンバーとして働いています。その方の自宅をコミュニティの取材で訪ねたことがあるのですが、DIYで作った作品で溢れていましたね。

小父内 一緒に働く仲間になってくれるというのは、コミュニティの究極の姿ですね! 他に印象的なエピソードはありますか?

澁谷 今までワークショップに一度も参加したことがなかったお客様なのですが、コミュニティの投稿を見たことがきっかけで、年間100回以上もワークショップに参加してくださるようになった方もいらっしゃいました。また最近では、お客様同士、オンラインでつながったことをきっかけに、リアルでもつながっている方々もいらっしゃいます。中にはご自宅でワークショップを開催して、そこに他のコミュニティメンバーを招待している方もいらっしゃいますね。

小父内 自宅でワークショップを開催するのはすごいですね。どんどん広げてくれるアンバサダーのような存在になっているのですね。ちなみにコミュニティを始めるにあたって、大変だったことはありましたか?

澁谷 コミュニティを盛り上げるという意味でも、立ち上げた当初は誰も反応しない状態をつくらないようにスピーディなコミュニケーションを心がけていたので、少し大変な部分がありました。投稿があったらすぐ運営からコメントを返したり、〝いいね〟を付けたりして、コミュニティに投稿することへの心理的なハードルを下げる努力をしました。今考えると、必要なプロセスでしたね。

小父内 たしかに、当時の澁谷さんは、コミュニティ活性化のために、運営サイドとしてできる限りのことをされていましたし、非常に努力されていましたよね。現在、コミュニティに所属しているメンバーの属性はどのようなものでしょうか?

澁谷 当初は女性の割合が多くなると想定していたのですが、男女比はおよそ1:1です。投稿が多いのはどのような属性の方なのかという分析はこれから進めていきたいと思っています。

小父内 ちなみに、コミュニティでの投稿を見て、商品の購入につながるケースはありますか?

澁谷 そのようなこともあります。積極的に投稿してくださるお客様がいるのですが、そのお客様が使っていたカインズのオリジナル商品のドライバーを、投稿を見て購入したという方がいらっしゃいましたね。

小父内 それは良い流れですね。さらにコミュニティ内で商品を購入できたらいいですよね。

澁谷 それはとてもやりたいと思っていることのひとつです。さらに、DIYを極めているコミュニティメンバーの中には、自分の作品を販売したいと思っているような方もいらっしゃいます。そのようなマッチングなどもできたら面白いと考えています。