「野球史上最高の日だ!」大谷翔平が「50-50」の歴史的偉業を達成するまでの軌跡

 時間の問題とみられていたドジャース・大谷翔平の「50本塁打&50盗塁」。前人未到の大記録は、我々の想像をはるかに超える方法で成し遂げられた。

◆「6打数6安打・3本塁打・2盗塁」で偉業達成

「48本塁打&49盗塁」で迎えた19日(日本時間20日)のマーリンズ戦。1番指名打者で先発した大谷は、初回の第1打席でライトへ二塁打を放つと、4番ウィル・スミスの打席で三盗に成功。まずは今季の盗塁数を50個に乗せた。

 その後は得点圏に走者を置いた場面で2本の適時打が飛び出し、早くも猛打賞を記録。チャンスに弱いイメージを払拭すると、第4打席から3打席連続本塁打の離れ業を見せ、2回表の盗塁を含めて、「51-51」にまでその数字を伸ばした。

 結局、この日の大谷は6打数6安打、3本塁打、10打点、2盗塁の大爆発。ドジャースが挙げた20得点の半数を大谷一人が叩き出した形だ。

◆現地実況も歴史的瞬間に大興奮

 そんな大谷が3本目のアーチを描いた直後には、現地放送局のアナウンサーも「野球史上最高の日だ!」「彼は人間じゃない!」と興奮気味に実況。ところがその後、信じられない光景を目にしたアナウンサーが約20秒間の沈黙に陥ると、コンビを組む解説者から「大谷のせいで言葉を失っているね。ただ彼を見ていたいんだろ……」というツッコミが入ったほどである。

 この日の打棒爆発で大谷は一気に「54-54」ペースにギアアップ。今の勢いなら、「55-55」すら通過点となりそうな雰囲気を漂わせている。

◆シーズン開幕前に立ちはだかった壁

 チームの153試合目で区切りの「50-50」を達成した大谷。改めてその活躍を振り返っておくと、ドジャース1年目の今季は決して順風満帆な船出ではなかった。

 まず、ドジャースと10年総額7億ドル(当時のレートで約1034億円)の超大型契約を結んだ大谷だが、そのうちの6億8000万ドル(約1005億円)が契約満了後の後払いという内容だった。これはチームが支払う贅沢税を低く抑えることに繋がるため、チーム並びに提案者の大谷を批判する論調も目立った。

 また、大谷は開幕直後にも予期せぬトラブルに見舞われた。3月の韓国・ソウルシリーズでパドレスを相手にデビューした大谷は、2試合で10打数3安打とまずまずの滑り出しを見せていた。ところが、ここで巻き起こったのがあの狂騒曲だ。

 大谷にとって“最高の相棒”だった水原一平氏の違法賭博問題である。

 水原氏は通訳兼“事実上のマネージャー”という立場を悪用。大谷の銀行口座から自身の口座へ送金するなどの不正を働き、合計60億円を超える莫大な借金を背負っていたことが後に判明した。大谷は関与を否定したが、2人の親密な関係性もあって、あらぬ疑惑をかけられたのは言うまでもない。中には「共犯説」まで取り沙汰されるほどだった。

◆“第1号”は41打席目のことだった

 アメリカ本土での開幕を前にドタバタ劇に巻き込まれた大谷が、打者一本でシーズンに臨むことに対しても、一部のファンから不安の声が上がっていた。それまで投手と打者の二刀流として過ごしてきた大谷が、“一刀流”で果たしてリズムをつかめるのか、本領を発揮できるのか、といったファンの心配だが、結果的にそれは杞憂に終わった。

 ただ、開幕直後は大谷からなかなか一発が出なかったのも事実だ。ドジャーブルーのユニホームを身にまとって飛び出した待望の“第1号”は開幕9試合目、41打席目のことだった。

◆大谷翔平は“雑音をかき消す男”

 その後は、徐々に本来の力を発揮。本塁打の量産態勢に入ったが、得点圏打率が低迷すると、「チャンスに弱い」と、粗探しをされる始末。オールスターを境に今度は盗塁の量産態勢に入ると、「記録狙いか」という声も少なからず聞こえてきた。

 さらに50本塁打が近づくにつれ、三振の数が増加傾向になると、「一発狙いがすぎる」という声まで……。

 ただそんな少数派クレーマーたちの意見は全く耳に入らんとばかりに、大谷は「40-40」を史上最速で達成すると、その後も、決して調子が良くない中で、数字を伸ばし続けた。

 9試合を残して「51-51」までたどり着いた大谷。次なる目標は当然、自身初体験となるポストシーズンを勝ち上がっていくことだろう。数々の雑音をかき消し、結果を残し続けてきた男を待つのはどんな未来か。レギュラーシーズン残り9試合、そしてその先の1か月間が楽しみでならない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】

1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。