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●「旅先で旨いものを食べたければ、タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。そこで、東京のB級グルメに精通する現役タクシー運転手・荒川治さんに、オススメのお店を教えてもらいました。

 ラーメンには味噌、醤油、塩、とんこつ、家系、二郎系などさまざまなカテゴリーがありますが、みなさんはどれが一番お好きですか? ラーメン好きの人なら、カテゴリーごとに好きなお店があるから選べない、と言う人もいると思います。

 私もそうです。たとえば味噌ラーメンなら江戸川区船堀の『大島』や『あさひ町内会』、煮干し系なら『中華ソバ 伊吹』(共に板橋区)などなど。同じカテゴリーでも味わいは全く異なります。日本のラーメン文化の奥深さは計り知れませんね。


今回紹介するのは、東京都文京区・大塚駅そばの『中華そば 貴富 』。以前、『ホープ軒』があった場所に2023年5月20日にオープン

 本題ですが、今回はそんなラーメンの派生麺料理である「つけめん(つけそば)」が絶品のお店を紹介したいと思います。これも好きなお店はいくつかあるのですが、最近ハマっているのは東京・文京区大塚にある『中華そば 貴富(きふ)』さんです。

 ここは昨年(2023年)5月にオープンした比較的新しいお店。実はちょうどその頃、つけそばの名店、荻窪の『丸長中華そば店』が閉店した、という話をラーメン好き仲間としていた時に、この店のオープンを知ったんです。友人によれば、 “丸長インスパイア”メニューを出しているという噂。

『荻窪 丸長』といえば、1947(昭和22年)年に創業し、日本のラーメン文化を作ったともいえるレジェンド店。現在のラーメンは豚骨や鶏ガラといった動物系と鰹節や鯖節の魚介系を合わせてスープを作るのが当たり前になっていますが、昭和初期は動物系だけでした。この魚介系を組み合わせることを最初に考案したのが『丸長』なんです。


都電の沿線沿いに店がある

 また、ここで修業した料理人たちが、次々独立して名店と呼ばれるお店をどんどん開業していきました。代表的なところでいえば、中野や池袋で有名な『大勝軒』です。ちなみに丸長では「つけそば」は、創始者が賄いで出していた料理。これをヒントに、それぞれの料理人たちが工夫を凝らし、つけ麺ブームが起こったのです。

 話が長くなりましたが、そんな『丸長』のインスパイアメニューを出しているという『貴富』に、ぜひ一度は行っておかねば、と友人と訪れたのは去年のこと。以来、醤油藻塩ももちろんつけそばも制覇。そして、やっぱり最終的に「つけそば」がめちゃくちゃ旨いので絶賛リピート中です。その魅力をご紹介したいと思います。

濃厚で奥深いつけ汁にノックアウトされること間違いなし!


店の外にある券売機

『中華そば 貴富』はJR山手線・大塚駅前の、都電荒川線の線路のすぐ横にあり、昼時は必ず行列しているので、すぐに見つかると思います。店内はカウンター6席、また店の外にもカウンター席が3席。行列はありますが、回転が早いので、平日の昼であれば10分待ちくらいで入れます。

『貴富』さんの定番メニューは、「つけそば」(1000円)と「地鶏醤油そば」(1000円)。季節限定で「塩」系も登場します。ただ、もちろん一番人気は「つけそば」です。


「つけそば」1000円

 上の写真が『貴富』の「つけそば」1000円です。ご覧のように濃い醤油の色で、脂がしっかり浮かんでいて、いかにも濃厚そうでしょ。このつけ汁、丸鶏、ゲンコツ、昆布、野菜などでとったスープに、煮干し、鯖節、鰹節、数種類のスパイスを加えて作る、なんとも手間暇のかかった逸品。

 具材には、ネギ、細切りのチャーシュー、メンマがたっぷり。麺は、ラーメン界で有名な『菅野製麺所』特注の太いストレート麺。小麦色が美しいですね。


ラーメン業界でも有名な大田区の「菅野製麺所」が作った『貴富』オリジナルの麺。つけそばは250g

 お店が推奨する食べ方は、以下の通り。

1.まずは(麺をつけ汁に浸して)普通に食べる
2.(麺を)1/3ほど食べた後、卓上にある酢をつけ汁に入れる
3.残りの1/3の麺に、卓上の黒七味をかけて食べる
4.残ったつけ汁をスープ割にして飲み干す


もちもちの太麺とつけ汁が見事に絡みまくります

 麺をスープにつけると、スープが麺に密着するように絡まります。その麺をすすれば、最初はキリッと刺激のあるスパイシーな風味が訪れ、続いてスープの濃厚な旨味が麺とともにツルリと入ってくる。麺はもちもちで、小麦のいい香りも。そしてスープと小麦が合体した旨味が口いっぱいに広がる、まさに絶品。

 この最初の一口で「ああ、幸せ!」となります。この幸福が永遠に続けばいいのに……と毎回思うんですよね。でも、残念ながら麺は確実になくなっていきます。

 そしていつも夢中になって食べるので、店オススメの食べ方の「1/3でつけ汁に酢を入れる」という約束や、「1/3で麺に黒七味をかける」を忘れがち。卓上の調味料に脇目も振らずに無我夢中で食べちゃうんですね。

 でも、絶対に忘れないのは最後の「スープ割」です。麺が儚くも消えてしまったら、お店の方に「スープ割りをお願いします」とお願いします。


スープ割は絶対に忘れません[食楽web]

 残った濃いつけ汁にスープを足してもらった「スープ割」がまた最高に旨い。まずはそのまま飲んで、次に卓上の酢や黒七味を入れたりして、最後の一滴まで余すところなく飲み干します。最初から最後までずっと美味しいのですが、このスープ割で〆ると、旨味の最高峰に昇りつめるような、そんな感じなのです。

 最後に、『丸長』さんのつけそばのインスパイア系と前述しましたが、見た目も味わいも違うことを付け加えておきたいと思います。食べるとわかりますが、丸長をリスペクトしつつも、『貴富』さんのは令和の新しいつけそばに進化していると思います。私はそんな気がしますが、ぜひ食べて感じてみてほしいです。

 というわけで、『貴富』の「つけそば」食べに行ってみてください。話していたら、また食べたくなってきましたので、今からまた食べに行ってきま〜す。

●SHOP INFO

店名:中華そば 貴富

住:東京都豊島区北大塚2-14-8
TEL:03-6903-5639
営:10:30〜22:00(日は18:00まで)
休: 無休(※祝日は営業時間が異なる場合あり)

(撮影・文◎土原亜子)

●プロフィール

荒川 治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。