雨で消えたうどん粉病


うどんこ病が発生したバラ。Bunina Darya /Shutterstock.com

バラの病気といえば、開花直前に咲かなくなる「うどん粉病」が有名です。この病気には実家の庭を手入れしているときにも悩まされ、あと少しで咲きそうなタイミングでうどん粉病にかかり、開花せずに終わるなんてことが何回もありました。

しかし、そのうどん粉病が薬剤散布せずに予防できると聞いたら、絶対に知りたいですよね!

私がうどん粉病の意外な性質に気づいたのは、ビニールハウスで育てているバラからでした。ビニールハウス内のバラは、毎年必ずうどん粉病にかかってしまうため、病気対策でよくある風通しをよくすることを行っていましたが、まるで効果がありません。しかし、外の庭に咲くバラはうどん粉病に全くかかっていない事に気がつき、なぜうどん粉病にかからないのか観察したところ、ある事実に気がつきました!

それは「雨が当たるか当たらないか」です。


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試しにビニールハウス内のバラに、株の頭から雨のようにシャワーで水をかけてみました。すると、明らかにうどん粉病の被害が減ったのです!

その時に「人間がお風呂で汚れを落とすように、自然界では雨が汚れを落とすシャワーになっているのではないか」と気がつきました。うどん粉病の原因はカビの一種です。カビが付着したままでは病気になるはずだと思い、バラに対して申し訳ない気持ちになりました。

そこでビニールハウスの屋根を外したらどうなるか試してみました。すると、うどん粉病が発生しなくなったのです!

これはあまりにも衝撃的でした。なぜなら、私がいままでのガーデニングの常識だと思っていた“雨が病気を運んでくる”とか、“植物に頭から水をかけるな”と教わってきたことは、実際の効果が真逆だったからです。

常在菌のバリアが病気を防ぐ

そこで菌についての本を読みあさり、分かってきたことがありました。

それは、私たちの肌も植物の表面も常在菌が埋め尽くしており、常在菌のバリアで病気から身を守っているということです。病気のメカニズムの1つに、この常在菌のバリアが大きく関係しているのです。

分かりやすい例えをすると、菌の繁殖は椅子取りゲームと同じ仕組みです。

健康な状態ではよい菌が椅子のすべてを埋め尽くしており、悪い菌は座れず病気にならない。しかし、健康状態が崩れよい菌が弱ったり、殺菌や消毒などで常在菌のバランスが崩れて席が空席になると、病気の原因になる菌が椅子に座り、悪い菌が増殖してしまうのです。

新型コロナウイルスが大流行した時にアルコール消毒を熱心にしている人の手は、常在菌のバリアが崩壊して、手荒れが酷い人がいたこともご記憶かと思います。私たちの肌も植物にも目には見えない常在菌たちが共生していて、健康を守ってくれているんですね。この働きを知ったときは、菌に感謝の気持ちでいっぱいでした。


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そのことから考えると、水道水をバラの頭からかけてもうどん粉病が消えなかったのは、塩素などの消毒液が含まれている水道水では、常在菌も一緒に殺菌していたからかもしれません。自然の雨には消毒液など含まれておらず、常在菌がたっぷり含まれています。この雨が、植物の常在菌バリアを綺麗に保っているのではないでしょうか。実家の庭でも、雨があまり当たらない軒下や壁際などのバラは、顕著にうどん粉病の被害が出ていました。

だからこそ、雨が当たりやすいように工夫しただけで、うどん粉病が確かに減ったのです。自然のメカニズムは本当に凄いなと改めて感じました。

そもそも自然界では消毒も存在しませんし、木酢液やニームオイルが空から降ってくるなんてことはあり得ないのです。だとしたら、じつは手を掛けず自然に近い環境にしてあげることが、一番の病気対策になるのではないかと、自然から学ぶことができました。それ以来、木酢液などの天然成分の散布剤も一切使用していません。

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枯れる前にうどん粉病になる植物たち


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早春に咲く紫色のホトケノザという野草があります。私の住んでいる地域では、春になると一面紫色に染まるホトケノザの絨毯が畑に現れます。まるで小さなラベンダー畑のように美しい光景です。

そのホトケノザは、一斉にうどん粉病になる時があります。それが花の見頃を過ぎた頃。その後4月になると枯れて、5月にはすっかりなくなってしまうのです。

その経過を見て、植物は枯れないといつまで経っても種が落ちないため、次世代への交代を手助けしているのがうどん粉病ではないのかと感じました。うどん粉病の原因菌は土や落ち葉などにいる糸状菌というカビ菌の一種なので、土に還るために土壌細菌のうどん粉病にかかるのも納得がいきます。

同じ現象が菜の花やギシギシなどの野草でも見られます。花が咲き受粉が始まる頃になると、虫がつき、病気になり、葉がなくなっていくのです。

病気が促す植物の生育サイクル


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花が咲き、実ができると、植物ホルモンのエチレンが分泌されます。このエチレンの効果に、果実の熟成と落葉・落果の促進、花の開花促進と老化という作用があります。ここから推測できるのは、開花後に病気になることは、次の世代へのサイクルを促す自然の摂理ではないかということです。

もっとも、バラのうどん粉病は開花前のつぼみにも発生するので、必ずしも枯れるためにうどん粉病になっているとは限りません。

しかし、自然界には病気の役割も多々あり、時に植物が自ら病気にかかる選択をしていることもあるのではないでしょうか。動物のようには動けない植物は、代わりに外部のものの手を借りる必要もあるでしょう。人間が病害虫と決めつけているものが、じつは植物と共生関係だという可能性は十分にあるのです。

謎の多い微生物の世界


William Edge/Shutterstock.com

私たちの知る病気の原因となる微生物を含め、微生物について現代で解明できているのは、なんとたったの1%程度だそう。99%は何をしているか分かっていないのです。微生物の研究は、病気を起こす原因になるものを中心に、それ以外の人間の役に立つ善玉菌などの有用菌から解明が進んでいるようです。研究にも資金が必要なので、悪い菌に効く薬を開発したり、善玉菌を活用した商品を発明するのに注力し、商売にならない菌の研究が進まないのもうなずけます。

最近では、病気の原因菌として知られてきたものが、じつはよい効果ももたらしていることが発覚したという記事も見かけます。自然界は私たちが想像する以上に、病気だから悪という単純なものではないのかもしれませんね。

時が経ち研究が進めば、今の常識がじつは違ったなんてこともあり得ますし、過去に何度も繰り返されてきた話です。だからこそ私は、あまり病気に対してネガティブなイメージは持たず、ありのままを感じるように心がけています。