免疫力を生かした柔軟な無農薬栽培

私たちも、普段ワクチンなどの予防接種を受けたり、風邪を引いて免疫を獲得して病気にかかりにくくなることがありますよね。私はガーデニングでも免疫獲得を意識しており、病気にかかっても慌てずに様子を見たり、あえて病気で落ちた葉をそのまま土に還したりしています。早期対処や病原体の隔離が鉄則な中、なんて非常識なことをするんだと思われるかもしれませんね。

ですが、自然界では薬剤散布をしなくても病気は少なく、美しい循環と調和の中で、植物も元気に育っています。だからこそ、あえて自然な方法で栽培できないか研究と探求をしたくて仕方ないのです。

実際に、自然に近い形で病気の葉を落としておいても、バラは元気なままでスクスク育っています。むしろ、どうしてこんなに色艶がよく、丈夫で生き生きとしているのですかと驚かれることもあります。自然界には必ず反作用が働きます。病気にしろ害虫にしろ、植物は害されると必ず抵抗物質を作り、病害虫に負けない株になるのです。

ただし、これは病気に負けない株になっていればの話。人間も体力が落ちて衰弱している人が病気にかかったら薬を使うように、育てている植物が弱っていたら、私のようなスパルタなことはやめておきましょう(笑)

目の前の植物を見て薬が必要だと感じたら、無農薬栽培にこだわらず、薬に頼ることも大切です。

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適材適所が大切

そもそも病気になる原因として、育てる場所や品種が合っていないケースがあります。

私のバラ園ではオールドローズしか植えていないのですが、ガリカ系のバラはことごとく育ちませんが、ダマスク系のバラはよく育っています。このように、一口にバラといっても品種により性質が違い、植え場所の気候や風土に合わないことがあります。日当たりが好きな植物を日陰で育てることが難しいように、合わない環境で無理に育てても元気に育たず、病気になりやすくなります。ご自身の育てる環境をよく調べた上で、適材適所で合う植物を選ぶことが大切です。

肥料過多も病気の原因


JulieK2/Shutterstock.com

最後にご紹介する病気の原因は、肥料過多です。

誰しも花をたくさん咲かせたい、元気に育てたいというあまり、つい肥料をあげすぎてしまうことがあるもの。肥料の規定量はパッケージに記載されていますが、何となくであげている方も多いのではないでしょうか?

肥料が多すぎると、植物に多くの問題を引き起こし、結果として病気にかかりやすくなります。過肥が引き起こす問題は次の5つです。

1. 塩害による根のダメージ

肥料が過剰に与えられると、肥料に含まれる塩類や土壌中の成分と反応して生み出された塩化ナトリウムにより、土壌の塩分濃度が上がります。これを「塩害」と呼びます。塩分が多いと、植物の根が水分を吸収しにくくなり、逆に根から水分が失われることもあります。この状態では、植物は水不足に陥り、弱ってしまいます。根が損傷すると病原菌が侵入しやすくなり、病気のリスクが高まります。

2. 不均衡な栄養吸収

肥料が過剰になると、特定の栄養素(例えば窒素)が過剰に供給され、他の重要な栄養素(例えばカリウムやリン)が不足することがあります。栄養素の不均衡は、植物の成長や免疫力に悪影響を及ぼします。特に窒素過多は、葉や茎が過剰に成長する一方で、根が不十分に発達し、病気に対する耐性が弱くなることがあります。

3. 成長が不自然に早くなる

肥料過多は植物の成長を促進しますが、急激な成長は植物の組織を柔らかく脆弱にします。このような軟弱な組織は、害虫や病原菌の攻撃に対して弱くなり、病気にかかりやすくなります。また、葉や茎が過度に成長すると、密集しすぎて風通しが悪くなり、病原菌が繁殖しやすい環境が作られます。

4. 土壌の微生物環境の悪化

肥料が過剰に供給されると、土壌中の有益な微生物のバランスが崩れます。特に化学肥料が多い場合、土壌中の有益な菌が減少し、病原菌が増殖しやすくなります。この結果、植物の根が弱り、病気に対する防御力が低下します。

5. 植物の免疫力低下

過剰な肥料は、植物にとってストレスとなり、免疫力を低下させます。栄養の過剰摂取は、植物の自然な防御メカニズムを損なうため、病気に対して抵抗力が弱くなります。特に、窒素過剰によって柔らかくなった葉や茎は、真菌や細菌の侵入に対して無防備になります。

肥料過多で軟弱に育った株は、人間でいえば肥満状態に近いです。万病の元ともいわれる肥満は生活習慣病の1つで、食生活が大きく関係していますよね。植物の肥料も食事と同じ。バランスのよい適切な食事が取れているかが、健康の鍵になります。

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無農薬栽培でもローメンテナンスを実現

私は無農薬栽培でも、週末の限られた時間の手入れのみで美しい花畑をつくることができています。無農薬栽培は難しいというイメージがありますが、自然の力を発揮させることで、ローメンテナンスな庭づくりが可能になるのです。

これからの時代は気候変動により、今まで以上に病害虫の発生しやすい環境になると予想されます。

しかし、自然にはもともと病害虫の多発を抑制する素晴らしいシステムや循環、調和が備わっています。それらが上手く機能するように人間がサポートすることで、植物が健康に育ち、同時に自然環境を保護することにも繋がります。

地球環境を守るという観点からも、環境負荷の少ないガーデニングが世界に広がっていくことを願っています。

Credit

文&写真(クレジット記載以外) / 持田和樹



アグロエコロジー研究家。アグロエコロジーとは生態系と調和を保ちながら作物を育てる方法で、広く環境や生物多様性の保全、食文化の継承などさまざまな取り組みを含む。自身のバラの庭と福祉事業所での食用バラ栽培でアグロエコロジーを実践、研究を深めている。国連生物多様性の10年日本委員会が主宰する「生物多様性アクション大賞2019」の審査委員賞を受賞。

https://www.instagram.com/rose_gardens_nausicaa/?igsh=MW53NWNrZDRtYmYzeA%3D%3D