◆適切なインフレ対応で業績を伸ばしたすかいらーくHD
高度経済成長期、外食を産業化し、生活スタイルに外食を浸透させたすかいらーくHD(以下、すかいらーく)の業績が、ここにきて好調だ。
コア業態はファミレス業界では最大の店舗数(1,256店舗、2024年6月30日時点)を誇るガストだ。あちこちで見かけるから認知度は高い。1992年、バブル経済が崩壊し、不況に陥った頃に、すかいらーくが再生するための大きな戦略的ブランドとして、業態開発された。
すかいらーくは他人資源を活用して多店舗展開するフランチャイズシステムとは一線を画している。店舗運営は直営店だけで、管理統制を徹底している世界最大の直営ファミレスチェーンだ。
すかいらーくは、物価高騰の中で、適切に値上げを実施しながら、収益を確保してきた。直近(既存店)の客単価を見ると、6月107.5%、7月108.8%、8月105.3%と上昇している。
売上も好調で6月116.1%、7月104.6%、8月113.4%だ。気になる客数は6月108.0%、7月96.1%、8月107.6%となっている。7月だけ客数が前年割れしたが、8月はまた前年をクリアしている。
その結果、2024年上半期(3月~8月)の実績は売上高1914億円(前年比216億円増、112.7%)、事業利益が119億円(前年比63億円増、213%)だ。インフレによって、前年(2023年)対比で14.2億円のコスト増となってはいるが、4月の値上げにより増収効果が出ているようだ。
◆世界40か国から食材を調達するすかいらーくの強み
グループ内のブランド別店舗数では、①ガスト、②バーミヤン、③しゃぶ葉が上位3ブランドを主力としながら、27のブランドを展開している。
グループ内2位のバーミヤンは中華料理業態である。すかいらーくの経営戦略に基づき、自社でカニバリゼーションしないような店舗配置を徹底している。
同じ中華ファミレスとして、よく比較されるのが、餃子の王将。餃子の王将が732店舗(FC190店舗、2023年3月時点)、バーミヤンが359店舗(全て直営、2024年7月時点)と、店舗数は餃子の王将が約2倍だ。
しかし、餃子の王将は一人客が多く小型店も多い。バーミヤンは大型店の標準設計となっており、卓数と席数は多めに確保するなどゆったりとしていて、店舗数だけでは、単純には比較できない。
グループ内3位のしゃぶ葉は、今年年初は279店舗だったが、現在は294店(8月時点)と、グループ内でも著しく店舗数を増やしており、経営資源の配分度合いを高めている。
あれだけ安く食べ放題プランができるのは、やはりすかいらーく約3100店のスケールメリットとグローバルネットワークを活かし、効率的で安定的な調達を実現できているからだ。
すかいらーくの調達先は世界40か国におよび、為替変動リスクを最低限に抑制している。相場が高騰した食材に関しては、世界中のサプライヤーとのネットワークを最大限に活用し、産地変更などフレキシブルに対応して、顧客提供価値を損なわないように仕組化している。
こうやって、世界中から厳選された高品質の食材を最適価格で調達するグローバルソーシングを構築しているのは強みだ。すかいらーくの傘下にある各業態は、それらを存分に活用することができる。
◆すかいらーくグループにうどん専門店が仲間入り
10月、すかいらーくは、九州を地盤にした成長著しい「資さんうどん」の全株式を取得し傘下に加える。自社で不足する業態は、自社で一から開発せずM&Aを活用し、時間を節約する経営方針であり、その一環だ。
創業40年で年間売上100億円(23年実績、123億円)以上を達成した資さんうどんの買収金額は240億円とのことだが、事業規模から考えて相当な将来性を見込んでいると言われている。
傘下に収めた際のシナジー効果や活用価値などの期待も大きい。資さんうどんとしては大手資本の傘下に入り、全国展開に向けた準備ができそうだ。
現在は店舗数71店舗(24年8月時点)だが、2割の常連客が延べ客数の8割を占めるといったリピート率の高さが強みの店で、絶対的な顧客基盤を有しているのが魅力の人気店だ。
◆資さんうどんの良き組織文化を守れるか
私もさっそく資さんうどんに行ってみた。入店するとまず、自動案内→タッチパネルで注文→水は卓上にてセルフサービス→料理提供→会計はセルフレジ、といったよくある一連の流れだ。
だが、料理提供は配膳ロボットではなく店員さんが丁寧な接客で提供してくれるから嬉しい。うどんとミニ丼のセットが人気のようでその組み合わせはバリエーション豊かであり、価格もリーズナブルである。出汁が自慢で麺のもちもち感が店の売りだ。
DX化を推進するチェーン店の中には、会計を済ませて帰る際に店側から何の反応もないところも多い。だが、資さんうどんは、オープンキッチンになっており、お客さんが帰るときは、「ありがとうございました」と気持ちのいいお礼の挨拶があった。
資さんうどんは働く人に重きを置き、能力と意欲の喚起に力を入れている店だそうだ。様々な制度があり、従業員に聞くと「働きがいがある店」と言っていた。
効率性を追求するすかいらーくと効果を重視する資さんうどんとの相性はいかがだろうか。M&Aの最も大変なのは統合作業である。これで約8割は失敗すると言われている。すかいらーくはDX化を積極的に推進し、お客さんの利便性向上とフロア生産性の向上を目指しており、そういった組織文化がある。
資さんうどんの人による「目配り・気配り・心配り」を重視する組織文化がうまく融合できるかを心配する。そこらは傘下に27のブランドを有するすかいらーくは管理統制に慣れているから、余計なお世話かもしれないが。
◆“丸亀製麺一強”のうどん市場に刺激を与えるか
ちなみに、うどん専門店チェーン業界は店舗数・売上と共に、1位と2位の間には開きがあり、2位の吉野家グループのはなまるうどんは、店舗数418店舗、売上334億円、(2024年2月期)だ。
丸亀製麺の方が、出店数は2倍以上、売上は3倍以上と差があり、圧倒的な優位性を確保している。売上実績は1021億円(2023年3月期)→1149億円(2024年3月期)と12.4%増と伸ばしており、過去最高を更新。今期も約100店ペースで改装を予定しており、その勢いはうどん業界を牽引していると言ってもいいだろう。
その丸亀製麺とは進むべき方向性が違うようだが、大資本のすかいらーくの傘下に入り、そのインフラを活用して成長を目指す資さんうどん。うどん市場にどういった影響を与えるかが楽しみであり、市場がもっと刺激的・競争的になることを願いたい。
◆すかいらーくはDXの推進とM&Aで更なる成長を目指す
すかいらーくは、戦略上の基軸であるDXの推進と人的資本の強化をより徹底し、週末売上を増大させている。人員の適正化で機会損失を防止し、週末売上は店によって異なるが、7%~30%向上している。
セルフレジは約2400店舗に導入が完了し、お客さんの約70%がセルフレジやテーブル決済を使って会計を済ませている。その導入効果として、お客様一組当たりの会計時間が80秒から9秒に減少し、加えて、下げ物指示のテーブル表示により発見速度が10秒短縮できているそうだ。これらの取り組みは今後もさらに強化し、効率化を目指していくようだ。
また、人件費抑制と人手不足解決のため、配膳ロボットの活用も増えてきた。管理が容易で、充電すればフル稼働が可能な配膳ロボット。人と機械をうまく組合せて、最適なオペレーションを確立をして経費抑制に努めている。
◆すかいらーくの積極的な改革姿勢を今後もお客さんは期待している
グループ総店舗数2,964店 、業態ごとに20以上のブランドを傘下に持つすかいらーく。過去には内外部の環境が悪化する中、大胆な改革を実行するため、MBO(経営陣による買収)を実行し非上場化させ、その後、事業再生して再上場させている。
今回、志を同じにできる資さんうどんを傘下に入れ、自社が有する盤石なインフラを活用してさらなる成長を目指すのが狙いだ。
そして、適材適所の業態配置による全体最適化、業態のフルライン戦略で収益機会の増大などで売上拡大、ブランド・ポートフォリオによる経営資源の適切な配分と管理、などを徹底していくようだ。今は外食売上では3位だが、2位のマクドナルドを追い抜く体制の整備中だ。
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan