10月に行われる国連女性差別撤廃委員会の日本政府審査に向けて、9月24日、NGO8団体が選択的夫婦別姓制度と「性と生殖に関する健康と権利」について記者会見を開いた。
日本は女性差別撤廃条約の「選択議定書」を未批准
「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、通称「女性差別撤廃条約」は1979年に国連で採択され、1981年に発効。日本は1985年に批准した。
1999年には条約の実効性を強化し女性が抱える問題を解決するために「女性差別撤廃条約選択議定書」も国連で決議・採択、2000年に発効されている。
2024年9月時点で女性差別撤廃条約の締約国189カ国中115カ国が選択議定書を批准しているが、日本は批准していない。そのため、条約に認められた権利を侵害された個人が人権機関に直接訴える「個人通報制度」が、日本では利用できない。
10月17日、スイス・ジュネーブ市にある国連欧州本部にて、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が、8年ぶりに日本政府審査を行う。
選択的夫婦別姓を求める一般社団法人「あすには」は、同制度について日本政府への改善勧告を求めるレポートをCEDAWに提出し、ジュネーブで委員への陳情も直接実施する予定。
また、国際協力NGO「ジョイセフ」他6団体は、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の分野におけるレポートを合同で提出する。
「岩盤のように動かない」夫婦同姓制度
2008年から11年間CEDAWの代表委員(うち2年間は委員長)を務めた林陽子弁護士は、前回(2016年)の日本政府審査が行われて以降、民法が改正されて婚姻年齢の男女同一化や再婚禁止期間の廃止などは行われたものの、夫婦同姓制度は「岩盤のように動かない」と説明した。
「選択的夫婦別姓制度の導入に消極的な政治家が多いことには、大変、失望させられている。8年ぶりの日本政府審査は『変えられない政治』を変えていく好機だ」(林弁護士)
「あすには」代表の井田奈穂氏は「選択的夫婦別姓を実現するためには、国連をはじめとする外部からの働きかけが必要だ」と語った。
「現在の日本では、結婚した女性の約95%が夫の姓を名乗っている。夫婦同姓制度は、家父長主義な『家』制度の温存や、望まない改姓に伴う女性のキャリアへの悪影響などをもたらしている」(井田氏)
また、「いかなる分野における男女の平等」を定めた第1条をはじめとして、性別役割の固定化を禁じた5条や職業選択の自由・雇用の機会について定めた第11条など、夫婦同姓制度はさまざまな面で女子差別撤廃条約の趣旨に反していると指摘した。
条約は性的マイノリティにとっても重要
「ジョイセフ」の草野洋美氏はSRHRについて「性と生殖について、一人ひとりが適切な知識と自己決定権を持ち、自分の意思で必要なヘルスケアを受けることができ、自らの尊厳を守れること」と表現。
「日本政府は、国際的な場では『すべての人のSRHRにコミットする』と表明している」と指摘し、実効性のある政策を実現するよう要望した。
また、公益社団法人「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」の松中権理事や、「LGBT法連合会」の西山朗氏は、女性差別撤廃条約の「女性」にはレズビアン女性やトランスジェンダー女性も含まれることを指摘し、性的マイノリティにとっての条約の重要性を語った。
今年8月に発足した「トランスジェンダー・ネットワーク・ジャパン(Tネット)」の大本奏太氏も「女性差別撤廃条約とトランスジェンダーには深い関係がある」と語った。
「トランスジェンダーの人々のなかには、女性としてのアイデンティティを持つ人や女性として生きてきた人もいれば、周囲から女性と見なされる人もいる。
現在でも性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更する際には、外科手術をして不妊化することなどの要件や、学校や医療へのアクセスへの制限など、さまざまな問題が存在している」(大本氏)
「SOSHIREN 女(わたし)のからだから」の大橋由香子氏は、今年7月に最高裁大法廷が旧優生保護法下における不妊手術の強制を「違憲」と判断したことを評価しつつも、現在の母体保護法では中絶の要件に「配偶者の同意」が含まれているなどの問題を指摘した。
「#なんでないの」プロジェクト代表の福田和子氏や、NPO法人「ピルコン」の染谷明日香理事長も、日本では中絶薬や緊急避妊薬のアクセスが制限されており、性教育も不十分であるなどの問題を指摘。SRHRを守るためには、医療や学校における取り組みが必要であると訴えた。