一昔前の葬儀は、故人に縁のあった人に広く声をかけるなど盛大に営むこともめずらしくありませんでした。しかし、現在は家族葬、一日葬、直葬など、葬儀の簡素化が進んでいます。こうした小さな葬儀には費用が安いといったメリットがある一方で、後悔するケースもあるといいます。そこで本記事では、松尾拓也氏の著書『「おふたりさまの老後」は準備が10割』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、簡素化された葬儀のリアルについてご紹介します。
Q. 葬儀は誰も呼ばないでおこうかと思っていますが、構いませんか?
A. 誰も呼ばない葬儀も可能ですが、最後のお別れをしたい人がいるかもしれません。
近年、葬儀の小規模化、簡素化が進み、コロナ禍がそれに拍車をかけました。
相続・供養などの情報を扱っている鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査(2022年)」では、家族・親族だけでなく、知人や地域の人、職場関係者なども集まる「一般葬」が25.9%まで減少したのに対して、親族や近親者のみを対象とした「家族葬」が半数以上、さらに簡素化された「一日葬」や「直葬」といった形態のお葬式も登場しています。
ちなみに、「一日葬」は通夜なしで告別式のみを行うもので、「直葬」は通夜も告別式も行わず、火葬にするものです。
葬儀の小規模化・簡素化の流れは今後も続いていくでしょうから、ひと昔前のように多くの人が参列するスタイルの葬儀は減っていくでしょう。
質問にストレートに答えるならば、家族以外に訃報を伝えないことで、身内だけの「家族葬」は可能でしょう。あるいは通夜や葬儀を行わず、火葬のみを行う「直葬」にする選択肢もあります。
■故人と縁のあった人々のための儀式でもある
ただし、葬儀というのは故人のためだけでなく、近しい間柄の人が喪失を受け入れる意味合い、所縁のあった人々がお別れを告げる社会的な意味合いがあります。
故人と親しい間柄にあった人にとっては、葬儀という儀式を通じて、故人との思い出や喪失感などの気持ちを共有することで、死を受容していくという大切なプロセスでもあります。
そういった視点からも、どんな形で葬儀を行うのがベストなのかを考えてみましょう。
(広告の後にも続きます)
Q2. 自分や配偶者が亡くなったら家族葬にしたいと思っていますが、後悔はしないでしょうか?
A2. 親しい人たちでゆっくり見送れますが、注意しておきたい点もあります。
前項で見たように、今や葬儀の半数程度が家族葬となりました。家族葬といっても、参列者が家族でなければならないわけではなく、家族や親族だけでなく、親しい友人・知人などが参列する場合もあります。20〜30名程度の規模で行われることが多く、親しい人のみで故人をゆっくりと見送れるのが人気の理由のようです。
また、親戚付き合いや近所付き合いの希薄化、故人の高齢化によって関わりのあった人がすでに亡くなっていたり、高齢で参列できなくなっていたりという理由もあります。
最近では、小規模な家族葬向けに特化した葬儀場も増えており、遺族が故人との最後の時間をくつろいで過ごせるように配慮した建物となっている場合もあるようです。
■家族葬のリアルと注意点
葬儀費用についても、祭壇や斎場の規模が小さくなるため、一般葬と比べて費用を抑えられます(宗教者に対するお布施などは一般葬と同様にかかります)。
とはいえ、葬儀費用そのものは抑えられても、家族葬は参列者が少ないため、香典も少なくなります。葬儀費用を参列者からの香典でまかなうと考えた場合、施主側の負担としては一般葬のほうがじつは持ち出しが少なかったというケースもあります。
もう一点、考えておくべきなのが、葬儀後の対応です。
葬儀後に故人の死を知った親族や知人などが、「葬儀に呼ばれなかった」として不満を感じるケースや、「故人に線香をあげさせてほしい」と自宅に弔問客がくるケースもあります。これらは葬儀後の対応になるので、「これなら普通の一般葬をしておけばよかった」と後悔する方もいます。
また、故人とゆっくり向き合うために家族葬を選んだのに、実際はあまり時間の余裕がなく、葬儀後に「本当に家族葬でよかったのか」と自問自答する方もいるようです。
葬儀はやり直すことのできない儀式です。一般葬と家族葬の特徴をよく理解して、後悔のない選択をしましょう。
松尾拓也
行政書士/ファイナンシャルプランナー