京都国立近代美術館で開催された『LOVE ファッション—私を着がえるとき』の様子や展示の見どころをご紹介します。
18〜19世紀、貴族や王族に愛されたドレスやスーツ
ランジェリーから小説まで、さまざまなかたちの「LOVE」が集結!
ワコールが支援する「京都服飾文化研究財団(KCI)」の所蔵品を中心に、京都国立近代美術館との共催で5年に一度開催されてきた展覧会。9回目となる今回は、『LOVE ファッション —私を着がえるとき』と題して2024年9月13日から始まりました。
「LOVE」に込められたのは、着る人のさまざまな情熱や願望。それを受け止める存在としてのファッションを多角的にとらえ、KCIが所蔵するコレクション約100点の衣服と20点の装飾品、そして約40点の現代アート作品によって表現されます。
会場ではまず、テーマとなる「LOVE」の文字のアート作品からスタート。作家・横山奈美さん自身が手描きした文字をネオン管にし、それを絵画として完成させたもので、横山さん自身はこれを「自画像」だと表現しています。
横山奈美『LOVE』豊田市美術館蔵 ©YOKOYAMA Nami,2024
19世紀の動物素材も現代のエコファーも
そこから奥に進むと、歴史の各時代に愛された動物素材や植物柄のファッションが。第1章「自然にかえりたい」の始まりです。華やかな花柄が刺繍された18世紀の男性用ウエストコート、20世紀前半に流行した鳥の羽や剥製(はくせい)が飾り付けられた帽子、動物愛護の観点から広まった近年のエコファーなどが並びます。人毛を素材としたアート作品『ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス2)』も目を引いていました。
写真中央にあるのは、32体のテディ・ベアを縫いとめたコート。素材はすべてフェイクファー。
J.C.de Castelbajac(ジャン=シャルル・ド・カステルバジャック)
豪奢なドレスに並んで、小説の中の一節も展示されているのがユニーク
「きれいになりたい」願望を体現したファッション
続く第2章のテーマは「きれいになりたい」。美しさをつくるうえで欠かせなかった19世紀のコルセットから始まり、ファッションとも芸術作品ともいえそうな20世紀のオートクチュール作品などまで。ヨウジ・ヤマモトやジル・サンダーなどの現代ファッションも紹介され、各デザイナーが表現する「美しさ」のかたちを見ることができます。
ファッションブランド発のアート展示も盛況な今、国内外の有名ブランドの貴重なピースが集まった光景は、まさに壮観! 京都服飾文化研究財団×京都国立近代美術館のコラボレーションならではの贅沢な展示です。
手前のブラックドレスは「バレンシアガ」、その右の白と黒のドレスは「ジル・サンダー」、さらににその奥のジャケット&ロングスカートは「クリスチャン・ディオール」
アーティスト自身が変装して撮った400枚の照明写真で構成されたセルフ・ポートレイト
澤田知子『ID400』
第3章「ありのままでいたい」は、装いと対極にあるテーマと思われがちですが、ここでは、「自然体のリアルな体を主役とした」ファッションとして見事に表現。ランジェリーや下着ファッション、さらには現代社会を生きる女性を描写した絵画などが並びます。
繊細で上品なスリップドレス。右から2番目は「プラダ」が1998年に発表した下着ラインからの一品
3章のテーマ「ありのままでいたい」には絵画も展示。リアルな女性へのインタビューをもとに描かれた写実的な作品。各作品のタイトルは、インタビューの中で語られた言葉からつけられた。
松川朋奈『誰か、私の名前を知ってくれている人と話したかった』
©Tomona Matsukawa
「ミニマル(最小限の)」ファッションを牽引したデザイナー、「ヘルムート・ラング」のデザインによるアイテムが並ぶエリア。白いスカート(写真中央)、赤いタンクトップ(その右)など
アイデンティティとは? 自由とは? 服と映像から考察してみる
「コム・デ・ギャルソン」のドレスやジャケット、パンツにスカート…。ファッションの楽しさがぎゅっと詰まった一帯。不自由な規範に抗い続けてきたデザイナー川久保玲の作品が並ぶ第4章は、「自由になりたい」がテーマです。川久保氏が衣装を手がけたオペラ『オルランド』の映像(2019年・ウィーン国立歌劇場)も映し出され、「自由」の解釈を自分なりに深めるのも一興です。
構築的なデザイン、精巧な刺繍などで表現された「コム・デ・ギャルソン」の衣装は圧巻。背景に流れるのが、オペラ『オルランド』の記録映像
こんな服、着てみたい! 夢の世界へ誘うドレスの数々
展示を締めくくるのは、「こんな服、着たらどんなに楽しいだろう!」と夢見ごこちにさせてくれる作品が並ぶ、第5章「我を忘れたい」。特に注目を浴びたのが、「東京2020オリンピック」開会式で歌手MISIAが国歌斉唱の際に着用したドレス。世界のセレブリティに衣装を提供するトモ・コイズミのデザインによるもので、京都会場のみの貴重な展示です。
左の2点は「ジュンヤ・ワタナベ」、奥のマルチカラーのドレスが「トモ・コイズミ」デザインによるもの。どれもポリエステル・オーガンジーでつくられている。ひときわ精彩を放っている「トモ・コイズミ」のドレスは、「東京2020オリンピック」開会式の興奮を思い出させてくれる
ナイロンチュールで形づくられた、「ヨシオクボ」の立体的なドレス。オレンジは頭部が獅子舞の形、ブルーが熊の形、グリーンが不動明王の形になっている
ベアトップの上部が大きな唇になった「ロエベ」のドレス。ドレスはレーヨン・ジャージー、唇の形に形成された部分は、樹脂コーティング
ヤドカリが世界各国の都市を背負う、というユニークな設定の作品シリーズ。手のひらに乗るくらいの小さなアートは樹脂でできており、各都市を再現した(上の写真は東京)ディテールは見事! 第5章のテーマ「我を忘れたい」との関連を、自分なりに想像してみるのも楽しい
AKI INOMATA
『やどかりに「やど」を渡してみる -Border-』
京都国立近代美術館蔵 © AKI INOMATA
――「LOVE」というシンプルなテーマながら、自由に発想を広げてみれば、さまざまな表現方法と楽しみ方があることに気づかせてくれる今回の展示。さらに理解を深めることができるイベントやワークショップ、シンポジウムなども開催予定。頭をやわらかくしながら、自分なりの楽しみ方を見つけてください。
「LOVE ファッション ―私を着がえるとき―」
会場
京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)
会期
2024年9月13日(金)〜11月24日(日)
月曜休館(ただし9/16、9/23、10/14、11/4の各休日は開館。翌日火曜休館)
観覧料
一般1700円、大学生1100円、高校生600円(団体割引あり)
URL
熊本、東京での巡回展示あり。詳細はwebサイトにて。
https://www.kci.or.jp/love/
取材/ワコールボディブック編集部
撮影/合田慎二
デザイン/WATARIGRAPHIC