野生動物カフェ「日本は飛び抜けて多い」 世界的な“規制”の潮流に遅れ 「動物愛護管理法 」5年に1度の改正に向けWWFジャパン提言

来年2025年に5年に一度の法改正を迎える「動物の愛護及び管理に関する法律」(通称:動物愛護管理法)の内容について、現在、超党派議連による議論が続いている。

こうした動きを受けて、今月3日、野生動物の保全活動などを行うWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)が都内でメディア向け勉強会「野生動物保全の観点からみる 動物愛護法の課題と改正のポイント」を開催。

WWFジャパン 野生生物グループの浅川陽子氏、日本獣医生命科学大学 野生動物学研究室の田中亜紀特任教授が登壇し、国内で野生動物のペット利用が問題となっている現状や、犬・猫が主体の現行法に、野生動物の飼育規制を追加する必要性を訴えた。

「野生動物カフェ」などのふれあい利用増加

動物愛護管理法は“人と動物が共生する社会の実現”を目的として、動物の飼い主などの責任や飼育・保管に関するガイドラインを定めた「理念法」と、動物園やペットショップなどの動物取扱業者の義務や、危険な動物の飼育を規制する「規制法」の両方の機能をもつ。

2019年に行われた前回の法改正では、犬・猫の不適切な取り扱いを減らすために、事業者が順守すべき飼育管理基準が策定、施行された。また、動物殺傷罪の厳罰化なども盛り込まれた。

WWFジャパンがさらに改善の余地があるとして求めているのは、目的規定に生物多様性の配慮を盛り込むことや、動物取扱業者への規制、特定動物(危険動物)管理の厳格化などのほか「野生動物の飼育制限」についてだ。

WWFジャパンの要望の背景には、「日本は、ほかのアジア諸国と比較すると野生動物を取扱うアニマルカフェの数が飛び抜けて多い」という現状があるという。

野生動物を取り扱うアニマルカフェは年々、増加傾向にあるが、野生動物のふれあいやペット利用にはさまざまなリスクが伴うとして、WWFジャパンの浅川氏は次のように説明する。

「ふれあいなどにより、野生動物をだれでも飼えるペットとして認識してしまうと、求める人が増えるが故に過剰な捕獲や密猟・密輸が起こり、絶滅の可能性を高めることになります。

また、国内では飼育されていたトカゲやヘビが脱走するという事件が頻繁に起き、外来種問題にも影響を与えていると考えられます。そして、野生動物ならではの生態や習性を発揮できない環境での飼育や、病気になった際に専門的な医療が受けられない点も大きな問題になっています。

さらに、感染症の問題もあります。哺乳類と鳥類が保有する未知のウイルスのうち、人間に感染する可能性があるものは80万種以上と言われています」

海外で進む法律での「野生動物」保護

オランダでは今年7月、ペット飼育を認める動物を限定したホワイトリストによる規制が開始され、それ以外の動物の飼育を禁止する法律が施行された。また、韓国でも野生動物の利用について抜本的な見直しが行われ、動物園・水族館以外の施設における野生動物の展示を禁止(※既存施設は2027年12月まで展示可)。さらに現在、ホワイトリストの制定を検討しているという。

世界的な動きをみると日本は野生動物のペット利用について規制が遅れていると言えるだろう。

「野生動物の不適切なふれあい展示や飼育は、『ペットに不向きな動物も飼える』という誤った認識を助長させる恐れもあります。

日本でも、一般的に飼育することが難しい動物種を定め、そうした動物については、種の行動特性を発揮させ、さらに感染症対策も十分に整えることができる事業者だけが扱えるようにすべきだと考えています」(浅川氏)

動物福祉の考えから見た「動物愛護管理法」の問題点

日本獣医生命科学大学の田中特任教授は、「動物愛護管理法に犬・猫以外の哺乳類、鳥類、爬虫(はちゅう)類に対する規制や基準は、今のところありません。 動物虐待は刑事事件として取り扱われるべきですが、犬・猫以外の動物が虐待されても事件化されにくいという現状があります」と指摘し、動物福祉の観点から現行法の課題を解説した。

そもそも法律の名前にもなっている“動物愛護”と“動物福祉”はまったく異なる考え方だという。動物愛護が日本独自の言葉である一方、動物福祉は「全世界共通の普遍的なもの」として、田中特任教授は以下のように説明する。

「動物が本来生きている環境の中でどのような状態であるかを客観的に評価し、より良い生き方をさせるという考え方が動物福祉です。犬・猫はもちろん、野生動物や産業動物、実験動物など、飼育下にあるすべての動物に提供しなければいけない最低限の精神的・身体的なニーズという風に考えられています」

しかし、田中特任教授が行ったアニマルカフェやふれあい施設を対象とした実態調査では、動物が本来の生息地と異なる飼育環境で展示されていたり、鳥の羽がストレスによる毛引きでまばらな状態だったりと、動物の身体的・精神的ニーズを満たした施設はほとんど存在しなかったという。

これを踏まえて、田中特任教授は「これらは、野生動物の福祉を担保する法規制がないからこそ起こることではないか」と訴えた。

「良い」動物福祉とは?

SNSでも、ペットとして飼育される珍しい野生動物たちの動画が流れてくることがある。

たとえば、ミーアキャット。よこはま動物園 ズーラシアの公式サイトを参考にすると、本来はアフリカ南部の開けた荒地や乾いたサバンナに分布するマングースの仲間で、5立方キロメートルの縄張りに掘った地下のトンネルに、10頭から40頭ほどの群れを形成して暮らす動物だ。

自宅やアニマルカフェが、この生態、生息環境を満たしているかといえば……少し考えただけでも答えは明白だろう。

動物の問題は「かわいい」「かわいそう」といった感情が優先されがちだ。しかし田中特任教授は、動物福祉の考え方にこうした概念はないという。その一方で、「科学的根拠に基づく“良い動物福祉”はある」として説明を続けた。

「動物が健康な状態で快適な環境にいて、栄養状態がよく、安全で、本来の行動を示すことが可能であり、痛みや苦痛、恐怖といった不快さを感じる状況に置かれていないということが、“良い動物福祉”です」

その上で、「野生動物に関して法律の規制がないというのは大きな問題ですが、それだけではなく、一般の方々の意識を変えることも非常に重要だと考えています」と力をこめた。

珍しい動物をかわいい、触れ合ってみたいと思うのは悪いことではない。だが、本当に動物が好きなのであれば、その動物にとって一番幸せな暮らしを考える必要があるのではないだろうか。

触れ合いたいと思うほど美しく尊い野生動物たちが後世にその命をつないでいけるように、一人ひとりが正しい知識を持ち、客観的な理解を深めるために法改正が行われるよう、動向に注目したい。