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 アメリカの中央情報局(CIA)は年次報告書の「ザ・ワールド・ファクトブック」にて、世界の国・地域別の合計特殊出生率予測を発表している。その2024年予測値において、日本と韓国の出生率は人口置換水準を大きく下回っている。

 人口置換水準とは、人口を維持するために必要な出生率のことだ。これを下回ると人口減少が進む。世界的にも先進国を中心に出生率が低下傾向にあるなか、特に東アジアで状況は深刻だ。韓国の出生率は1.12、日本は1.4となっており、いずれも人口置換水準(2.1)を大きく下回る。

◆韓国の「非常事態」、人口半減の予測

 韓国の出生率は、台湾に続く世界ワースト2位となっている。アルジャジーラ(3月15日)は、未来の韓国の人口について深刻な予測を取り上げている。このままのペースで出生率が低下し続けた場合、2100年までに韓国の人口が現在の5100万人から半減する可能性があると、複数の専門家が警告している。

 危機感を抱く韓国政府は少子化対策の法律を2005年に制定。2006年以降、育児補助金などに360兆ウォン(約38兆円)以上を投入してきたが、出生率の低下に歯止めがかかっていない。

 韓国政府は、公共の保育施設の設立、無料の保育園、教育の初年度に対する補助金など、さまざまな施策を導入している。2019年10月には、既存の育児休暇政策を拡大し、8歳未満の子供を持つ親の労働時間を日あたり1時間削減した。また、現金補助も拡大されており、以前は対象外だった上位10%の富裕層家庭にも適用されるようになった。だが、効果は限定的だったとの見方が多い。

◆子育てに時間を割けない労働環境

 なぜ韓国の出生率は世界最低水準にまで落ち込んだのか。英イブニング・スタンダード紙(5月13日)は、韓国の女性が職場でのキャリアの停滞や子育ての経済的負担を懸念しており、その結果として出産を遅らせ、あるいは子供を持たないことを選択する場合があると指摘する。

 韓国は経済開発協力機構(OECD)加盟国のなかで最も大きな男女賃金格差を抱えている。同紙は、ソウル女子大学のチョン・ジェフン教授のコメントを取り上げている。韓国の女性は男性の約3分の2の収入しか得られないとの指摘だ。一方、子育てをする女性は長期間休職する必要があるが、賃金格差はさらに拡大する。こうした事情も、子供をもうけにくい理由の一つになっているようだ。

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 韓国では育児休暇が認められているが、利用は進まない。アメリカの首都ワシントンに拠点を置く非営利団体、人口問題協議会のジェニファー・スクバ代表は、健康と人口動態問題を取り上げるシンク・グローバル・ヘルスに対し、「韓国では出産には比較的ユニークな制約がある」と語る。スクバ氏によると、韓国には厳しい労働文化があり、従業員は会社側に期待されている役割を考慮するため、休暇を利用する人は男女ともほとんどいないという。

 韓国統計庁は、「結婚していない人もいるが、結婚しているカップルがなぜ子供を持たないのかを考えることが、出生率向上のための政策の焦点になる」と述べ、結婚数自体の増加を優先しない方針を示した。だが、浸透しない育児休暇制度を鑑みるに、展望は厳しそうだ。

 さらに韓国では、急進的なフェミニスト運動「4B」が存在する。男性との交際、結婚、男性との性行為、出産の4つを拒否する運動だ。シンク・グローバル・ヘルスによると、一部の識者は、4B運動も出生率の低下の原因の一つになっていると論じている。

◆先進国に広がる少子化問題

 もっとも、先進国全般において、出生率の低下は広くみられる。たとえばイタリアでも状況は同じだ。イブニング・スタンダード紙は、ローマ教皇が「出生数は人々の希望の最初の指標である。子供や若者がいなければ、国は未来への意欲を失う」と述べ、イタリアの低出生率に警鐘を鳴らしたと報じている。

 日本も他人事ではない。総務省のデータによると、65歳以上の人口が全体の29.3%を占めており、これは世界で最も高い。

 高齢化が進むと、労働力人口が減少し、経済成長が鈍化するリスクが高まる。さらに、年金や医療費などの社会保障費が増加し、若年層に対する負担が増える。これにより、若い世代が結婚や子育てを避ける傾向が強まり、出生率のさらなる低下を招く悪循環が生じる。

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 日本の岸田文雄首相は、少子化対策を最優先課題とし、年間3.5兆円を子育て支援に投入する計画を発表している。だが、アルジャジーラは、こうした対策が効果を上げるかどうかは不透明だと指摘する。

 英ガーディアン紙(2月28日)は、「多くの若い日本人は、将来の見通しの立たない仕事や、給料の伸びよりも速い生活費の上昇、両親がともに働きにくい企業文化などを理由に、結婚や家庭を持つことに消極的であると述べている」と報じる。

◆経済成長や男女の役割の変化も影響

 アルジャジーラは、経済成長と生活水準の向上によって子供の死亡率が低下し、結果として夫婦が子供の数を抑えるようになったと指摘する。

 米教育・研究機関のイースト・ウエスト・センターのアナリストは同局に、経済成長を遂げたこと、そして女性の教育機会が増加したことが背景にあると指摘している。女性が伝統的な役割に縛られなくなり、これにより、結婚や出産を選択しない女性が増えているとの見方だ。

 もっとも、コペンハーゲン大学のアヨ・ウォールバーグ教授(人類学)は、これだけでは説明が不十分であるとの持論を示す。氏によると、男女ともに労働時間の長時間化がみられ、その結果として育児に割ける時間とエネルギーが減少しているという。(アルジャジーラ)

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 出生率で下位6つの国と地域は、戦禍のウクライナを除き、東アジアが占める。227の国と地域中、出生率で193位と比較的下位に位置する中国では、「996労働時間制度」がある。朝9時から夜9時まで、週6日働くことが求められる制度だ。ウォールバーグ教授はこのような状況では子供の世話をする時間がないと指摘する。

 韓国や中国、日本など、東アジアを中心に、出生率をとりまく展望は厳しい。

◆世界出生率ランキング(2024年予測値)

順位
国・地域
合計特殊出生率

1
ニジェール
6.64

2
アンゴラ
5.7

3
コンゴ民主共和国
5.49

4
マリ
5.35

5
ベナン
5.34

6
チャド
5.24

7
ウガンダ
5.17

8
ソマリア
5.12

9
南スーダン
5.09

10
ブルンジ
4.9

11
ギニア
4.78

12
モザンビーク
4.66

13
ギニアビサウ
4.62

14
ナイジェリア
4.52

15
スーダン
4.47

16
カメルーン
4.44

17
アフガニスタン
4.43

18
ザンビア
4.42

19
タンザニア
4.27

20
トーゴ
4.13

21
赤道ギニア
4.12

22
セネガル
4.06

23
ブルキナファソ
4.02

24
東ティモール
3.98

25
中央アフリカ
3.94

26
リベリア
3.93

27
エチオピア
3.84

28
パプアニューギニア
3.79

29
コンゴ共和国
3.79

30
シエラレオネ
3.61

31
タジキスタン
3.56

32
ガーナ
3.56

33
ガンビア
3.52

34
ヨルダン川西岸地区
3.49

35
マダガスカル
3.47

36
ジンバブエ
3.47

37
エリトリア
3.43

38
モーリタニア
3.4

39
コートジボワール
3.4

40
パキスタン
3.32

41
サントメ・プリンシペ
3.31

42
ガザ地区
3.26

43
ガボン
3.21

44
マラウイ
3.19

45
ケニア
3.16

46
ルワンダ
3.14

47
イラク
3.1

48
リビア
3

49
アルジェリア
2.94

50
イスラエル
2.92

51
ナミビア
2.89

52
ヨルダン
2.87

53
レソト
2.85

54
イエメン
2.82

55
ツバル
2.78

56
ソロモン諸島
2.77

57
ウズベキスタン
2.76

58
フィリピン
2.75

59
グアム
2.73

60
シリア
2.69

61
マーシャル諸島
2.67

62
トンガ
2.65

63
エジプト
2.65

64
オマーン
2.64

65
コモロ
2.61

66
カザフスタン
2.58

67
北マリアナ諸島
2.56

68
ナウル
2.55

69
バヌアツ
2.53

70
グアテマラ
2.52

71
キルギス
2.45

72
ハイチ
2.44

73
エスワティニ
2.37

74
パナマ
2.35

75
ボツワナ
2.34

76
ホンジュラス
2.33

77
サモア
2.33

78
南アフリカ
2.27

79
フェロー諸島
2.27

80
モロッコ
2.25

81
ラオス
2.24

82
クウェート
2.21

83
エクアドル
2.21

84
フィジー
2.21

85
ボリビア
2.2

86
ミクロネシア連邦
2.19

87
ベネズエラ
2.18

88
カンボジア
2.17

89
アルゼンチン
2.15

90
ペルー
2.15

91
キリバス
2.15

92
ドミニカ共和国
2.15

93
スリランカ
2.13

94
ジブチ
2.11

95
カーボヴェルデ
2.1

96
バングラデシュ
2.07

97
アメリカ領サモア
2.06

98
ジャマイカ
2.05

99
ガイアナ
2.05

100
ベリーズ
2.05

101
インド
2.03

102
ベトナム
2.03

103
トルクメニスタン
2.02

104
クック諸島
2.02

105
エルサルバドル
2.02

106
ドミニカ
2.01

107
シント・マールテン
1.97

108
ヴァージン諸島
1.97

109
ミャンマー
1.97

110
インドネシア
1.96

111
キュラソー島
1.96

112
ジョージア
1.95

113
アイスランド
1.94

114
コロンビア
1.94

115
チュニジア
1.93

116
アンティグア・バーブーダ
1.93

117
イラン
1.91

118
グレナダ
1.9

119
トルコ
1.9

120
カタール
1.9

121
フランス
1.9

122
スリナム
1.89

123
ジブラルタル
1.89

124
グリーンランド
1.88

125
バミューダ諸島
1.88

126
パラグアイ
1.88

127
マン島
1.88

128
モンゴル
1.87

129
コソボ
1.87

130
サウジアラビア
1.87

131
ニュージーランド
1.85

132
ネパール
1.85

133
アメリカ
1.84

134
ニカラグア
1.83

135
ニューカレドニア
1.83

136
ケイマン諸島
1.82

137
アルバ
1.82

138
北朝鮮
1.81

139
セーシェル
1.81

140
サン・マルタン
1.8

141
モンテネグロ
1.8

142
メキシコ
1.79

143
フランス領ポリネシア
1.79

144
デンマーク
1.77

145
ベルギー
1.76

146
セントクリストファー・ネイビス
1.76

147
ブータン
1.76

148
チリ
1.75

149
ウルグアイ
1.75

150
フィンランド
1.74

151
ブラジル
1.74

152
セントビンセント・グレナディーン
1.74

153
ブルネイ
1.73

154
チェコ共和国
1.73

155
オーストラリア
1.73

156
マレーシア
1.73

157
アングィラ
1.72

158
アイルランド
1.72

159
レバノン
1.71

160
ウォリス・フツナ
1.71

161
セントルシア
1.71

162
キューバ
1.71

163
バルバドス
1.7

164
タークス・カイコス諸島
1.7

165
モルディブ
1.7

166
パラオ
1.7

167
アゼルバイジャン
1.69

168
リヒテンシュタイン
1.69

169
スウェーデン
1.67

170
ジャージー
1.66

171
バーレーン
1.65

172
アルメニア
1.65

173
サン・バルテルミー島
1.64

174
トリニダード・トバゴ
1.63

175
ルクセンブルク
1.63

176
ルーマニア
1.63

177
イギリス
1.63

178
エストニア
1.62

179
リトアニア
1.62

180
オランダ
1.61

181
セントヘレナ・アセンション
およびトリスタンダクーニャ
1.61

182
アラブ首長国連邦
1.61

183
サンピエール島・ミクロン島
1.6

184
スロバキア
1.6

185
スロベニア
1.6

186
ハンガリー
1.6

187
スイス
1.59

188
ガーンジー
1.59

189
カナダ
1.58

190
ドイツ
1.58

191
ノルウェー
1.57

192
ラトビア
1.55

193
中国
1.55

194
アルバニア
1.55

195
サンマリノ
1.54

196
モナコ
1.54

197
タイ
1.54

198
北マケドニア
1.53

199
ロシア
1.52

200
オーストリア
1.52

201
マルタ
1.51

202
ブルガリア
1.51

203
キプロス
1.49

204
アンドラ
1.47

205
セルビア
1.46

206
クロアチア
1.46

207
ポルトガル
1.45

208
ベラルーシ
1.45

209
バハマ
1.44

210
コスタリカ
1.43

211
ギリシャ
1.41

212
日本
1.4

213
イギリス領バージン諸島
1.38

214
ボスニア・ヘルツェゴビナ
1.38

215
モーリシャス
1.36

216
モントセラト
1.33

217
ポーランド
1.32

218
スペイン
1.3

219
イタリア
1.26

220
プエルトリコ
1.26

221
モルドバ
1.26

222
マカオ
1.24

223
香港
1.24

224
ウクライナ
1.22

225
シンガポール
1.17

226
韓国
1.12

227
台湾
1.11

CIAザ・ワールド・ファクトブックより