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人が都市に住む理由は利便性だ。交通機関、病院、学校、スーパーマーケットなど、日常生活に必要不可欠な場所やサービスにアクセスしやすい。自宅から徒歩や自転車で15分内にアクセスできる都市を「15分都市」と呼び、ここ数年、持続可能な都市として注目されている。ところが、世界にはまだこうした理想的な都市がほんの一部しかないことがわかった。
◆15分都市の上位はヨーロッパに集中
学術誌「ネイチャー・シティーズ」に16日に発表された研究論文によると、スーパーマーケット、学校、病院、公園といった日常生活に必要不可欠なサービスや施設に自宅から徒歩や自転車で15分以内にアクセスできる「15分都市」といえるのは、世界1万都市のごく一部だということがわかった。
ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)ローマのサステナブル・シティーズ・リサーチ・ライン研究チームは、15分都市に関する研究「包括的な15分都市のための普遍的な枠組み」を発表した。
「15分都市」とは徒歩や自転車で15分以内に日常生活に必要なサービスや施設にアクセスできるという概念で、都市部における交通、汚染、社会的孤立、生活の質など喫緊の課題に対する解決策の一つになるとして、近年、都市計画で人気が高まっている。現在、世界人口の半分以上が都市に居住し、その数は着実に増加していることから、都市が直面する課題はますます深刻化している。
ソニーCSLローマは、スーパーマーケット、学校、病院、公園、飲食店など日常に必要不可欠な場所を9つのカテゴリーに分け、世界の都市ごとにそれぞれへ徒歩や自転車で移動する平均距離を割り出し、どのくらい15分都市に近づいているかを定量化したマッピングをオープンプラットフォーム「15min-City」に公開した。
さらに世界1万都市から54都市を選んで詳しく調査した結果、最もアクセスしやすい都市はチューリッヒ、ミラノ、コペンハーゲン、ダブリンといったヨーロッパの中規模都市で、いずれも住民の95%以上が15分以内に必要なサービスにアクセスできることがわかった。ランキングの最下位は、サンアントニオ、ダラス、アトランタ、デトロイトなど、自動車への依存度が高い北米の広大な都市だった。たとえば、サンアントニオの場合、住民の2.5%しか満たない。
小規模都市が15分内にアクセスできる傾向にあったが、ベルリンやパリといった大都市でも住民の90%以上が徒歩で公共施設などにアクセスできる15分圏内に居住していることがわかった。
また、多くの場合、都市の中心部では十分なサービスが受けられるが、 周辺部では選択肢が少なく、都市内の不平等が浮き彫りになった。また、アクセスに格差のある都市は社会的・経済的格差が大きい傾向にあった。
同研究チームのリサーチディレクター、ビットリオ・ロレト氏は「都市内また近隣地域間においても、サービスへのアクセスに著しい格差があり、特に都市部において格差の度合いが大きいことが明らかになった」とし、「世界的に見ると、ヨーロッパの多くの都市はアクセシビリティの面で高いスコアを獲得しており、ウィーンはその代表的な例だ。しかし、アメリカ、アフリカ、アジアの一部の都市では、基本的なサービスを受けるのにかなり長い時間を要するところが多い」と説明する(Phys.org)。
◆公共施設など移転の必要性が低い都市は?
ソニーCSLによると、同研究では、公共施設などサービスの拠点を移設することによってアクセスを向上させることができるのか、また、必要不可欠なサービスにアクセスするために、大規模な交通機関の強化が必要なのか、それとも、必要不可欠な近接のサービスをより毛細血管状に拡大することが必要なのか、詳細に調査するため、必要なサービスや施設の移転の割合を算出する「再配置アルゴリズム」を開発した。
アルゴリズムは人口密度と公共施設などの所在地を踏まえたうえで、どこに資源を再配置すべきかを決定する指標になる。サービスにアクセスできないエリアに資源を再配置することで、行き届いている地域に負荷をかけずに、15分都市の居住者数を増やすことが可能になる。
アルゴリズムによると、アトランタでは住民1人あたりの日常のサービスの分配を均等にするために80%の移転が必要であるのに対し、パリではわずか10%の移転で済むことがわかった。
必要な移転の割合の低い上位10都市は以下の通り。
1.チューリッヒ 3.46%
2.ミラノ 3.62%
3.トリノ 4.47%
4.コペンハーゲン 5.18%
5.リスボン 8.27%
6.パリ 9.76%
7.ダブリン 10.17%
8.ミュンヘン 11.11%
9.アテネ 11.40%
10.バルセロナ 11.48%
ヨーロッパが上位を占めるなか、日本からは札幌(13位、11.81%)、東京(24位、17.57%)、大阪(27位、20.28%)がランクインした。
すべての地域が15分圏内にあらゆるサービスを揃える必要はなく、娯楽施設など必要不可欠でないサービスについては、都市中心部から遠く離れていても効率的な公共交通機関で結べばよいことがわかった。
さらにこの研究で明らかになったのは、15分モデルは、特に人口密度の低い都市部に対して普遍的に適用できないということだ。無秩序に拡大した郊外を持つ都市は自動車に依存し、住宅地とサービス施設間の距離が離れているため、このモデルを実施する上で大きな課題がある。
研究グループは、住みやすい都市を作るには単に時間ベースの都市構想だけでは不十分だと指摘する。再配置アルゴリズムをベースに、地域の人口密度、社会経済的、文化的要因を考慮した価値観に基づく都市づくりに取り組むべきだと結論をまとめた。