大企業は「人手不足への対応」「雇用対策」の割合が中小企業より高い
――なるほど。「支援の拡充」を求める中小企業が多いですが、具体的にはどんな政策を次期政権に求めているのでしょうか。
調査担当者 下請け零細企業への支援の強化や金融支援策の実施が求められています。
また、中小企業でも無理なく賃上げを行えるような施策や大企業と中小企業間の格差是正対策を求める声もありました。企業からの生の声をあげると以下のように。
「下請け零細企業への支援の拡大ほか、そこで働く従業員の生活支援に力を入れてほしい」(電気機械製造)
「中小零細企業への金融支援策を希望」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
「中小企業の社会保険料を見直してほしい」(出版・印刷)
「零細企業には賃上げをする余力がない。むしろ大企業が下請け構造による単価引き下げを強要するなどして、ますます厳しい現状である。格差是正対策を期待する」(情報サービス)
「最低賃金をただ引き上げるようなことではなく、中小企業も無理なく賃上げを行えるような政策を即実行して欲しい(化学品卸売)
「中小企業倒産のリスク対策を実施してほしい」(建設)
「大企業の内部留保を減らす施策、中小企業の減税を実施してほしい」(飲食料品・飼料製造)
「中小企業に富を分配する政策を希望」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
――新政権への要望が非常に多いですね。ところで、大企業と中小企業の違いが目立つ項目は「人手不足への対応」「雇用対策」「賃上げ促進」「デジタル化の推進」「科学技術・イノベーション推進」です。
これらは中小企業にとっても大事だと思いますが、なぜ大企業にだけ求める声が多いのでしょうか。
調査担当者 大企業は比較的資金余力が大きいため、法人向け減税など資金関連施策よりも、多くの企業で深刻化している人手不足問題の解決を優先してほしい状況にある。そのため、「人手不足への対応」や「雇用対策」の割合が中小企業より高い結果になったと思います。
「賃上げ促進」も同様の要因で、中小企業は賃上げをする余力が少ないことから、特に大企業における割合が中小企業を大きく上回りました。
「デジタル化の推進」や「科学技術・イノベーション推進」については、人手不足の解決策の一環として考える大企業もあるため、中小企業よりは割合が高くなっていると考えられます。
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中小企業には「デジタル化」「イノベーション」より、目の前の危機対策が急務
――しかし、デジタル化を進めないと、中小企業もピンチですよね。
調査担当者 中小企業はとにかく事業を継続するために、目の前の問題解決に重きを置く企業が多いです。だから、何としても「中小企業向け支援策の拡充」を求める企業が多いと推測できます。
逆に「デジタル化の推進」や「科学技術・イノベーション推進」は経済全体および自社への効果が出るまでに時間がかかります。間接的な効果をもたらすことが多い施策と考えるため、優先順位が大企業と比べて低い結果になったと考えられます。
――それほど中小企業は、切羽詰まった状況に追い込まれているわけですね。現在、自民党総裁選で9人の候補の論戦が行われていますが、こうした企業側が求める経済政策が活発に論議されていると思いますか。
調査担当者 最も求められている「中小企業支援」については、取り組む意向を持つ候補者が複数いたほか、2番目に高い「物価高対策」も多くの候補者が言及していますので、政策が活発に議論されていると思います。
しかし、3番目に高い「個人消費の拡大」は、消費を直接的に促す政策ではなく、賃上げや投資促進を通じて消費を拡大させていくことが議論されています。どちらかといえば、中長期的な効果をもたらし、間接的に消費につながっていく政策が重視されている点が、中小企業が希望している政策との間に乖離があるように感じます。
4番目に高い「個人向け減税」も、財政健全化をより重視する傾向にあり、議論はされていない状況になっているようです。
――う~む。もっと議論を煮詰めてほしいですね。今回の調査で特に強調しておきたいことや、次期政権に望むことはありますか。
調査担当者 企業が新政権に求める経済政策について、「中小企業支援」が5割近くで、最も高くなっています。裾野が広く日本経済を支える中小企業への支援が重要と多くの企業経営者が考えているようです。
長らく実質賃金がマイナスで推移してきたことで、消費者の節約志向も続いています。個人消費がより活発に、消費マインドが回復していくことが重要になってくるでしょう。
人手不足対策、半導体、DXやAI、グリーンエネルギーといった技術革新を促すさらなる後押しも必要です。新政権には、物価と賃金がともに上昇する経済の好循環を実現できる環境を早く整備して、生産性と競争力を高める施策が求められます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)