「自分のために、自分のことを書き続ける」
そんな試行錯誤の痕跡でもある日記を、くどうさんは折に触れて読み返すという。
「ちょっと参っていたり、不安を覚えているときが多いかもしれません。でも、読んでいて楽しい気持ちにはなりたい。同じような辛い経験をしたときのことをなぞって、お、案外しんどくなさそうじゃん、私面白いこと書いてるじゃんと思いたい。だから、自分を楽しませるという意味でも、日記はSNSとはまったく違うんですよね。SNSは拡散力があるぶん、簡単に人を率いることができてしまうけど、日記では、自分が感じた喜び、違和感や孤独も、あくまでも私のサイズで収まったまま、適切な温度で保存できる。乱暴な言い方かもしれませんが、簡単に共感されなくてもいい、全部自分のために書いている、という気持ちです。でもそうやって自分のことをとことん書いていけば、私みたいなどこかの誰かが、勝手に救われて、楽になってくれるかもしれないとも思うのです」
読者から、「自分の言いたいことを言語化してくれてありがとうございます」という声が届くたびに、くどうさんは「私の言葉だけで納得せず、みんなも自分の言葉で日記を書いてみたらいいのに!」と思うそうだ。
「書いた本人がこれは日記だと思ったら、それはもう日記ではないでしょうか。何が面白くて、何がしんどかったのか、誰かに共感してもらうためだけではなく、ただただ記録するだけの場所があってもいいですよね。そうやっていろいろな人の日記が読めるようになったら、私はうれしいです」
クスリと笑える一行から、たっぷりと書かれた濃厚な日々のできごとなど、随所に散りばめられたくどうさんの生活のかけらを、本書を通して、味わってみては。
Book Information『日記の練習』
著者:くどうれいん
定価:¥1,870
発行:NHK出版
くどう れいん作家・歌人
1994年生まれ。岩手県出身、在住。著書に、エッセイ『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、歌集『水中で口笛』(左右社)、小説『氷柱の声』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。
For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」
&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントをくどうさんに聞いてみました。
「仕事が忙しいときこそ、夕飯を作る」:やらなきゃいけない仕事は、なにがあってもどうせやる。それならば、仕事に追われていたその日を、"ちゃんと料理をした日"にしたい。夕飯をつくることにきちんと時間を割いて、おいしいものたくさん食べたいのです。ちなみに、製氷器の氷を切らさないこともベターライフを叶えるヒントかもしれません。頻度は高くないのですが、ふと「使いたい」と思ったときにないと、悲しくなるんですよね。
photo : Hisashi Ogawa