200%の力で仕事と向き合う、冨永愛の生き方

トップモデルの冨永愛の仕事の幅がさらに広がっている。自身の生き方について初めてつづったエッセー本は女性たちの共感を呼んでいる。また、日本の伝統工芸の魅力を伝える番組にも出演。制作の現場を訪ね歩き、さまざまな体験を通して未来へつなごうとしている。多彩な活動に全力で取り組む姿勢は、見ている人たちの心をも動かしていく。「冨永愛らしく、かっこよく」を生み出す原動力とは。


photo: Teruo Horikoshi〈Tron〉
styling: Shino Suganuma
hair: Tetsuya Yamakata〈signo〉
make-up: Yumi Endo〈eight peace〉
model: Ai Tominaga
direction: Atsuko Kobayashi
knit, shirt, necktie, pants: BRUNELLO CUCINELLI

今年6月、『冨永 愛 新・幸福論 生きたいように生きる』(主婦の友社)を出版した。各章の見出しがちょっと小気味いい。

「生きたいように生きると決めた」「コンプレックスは消せない」「『こうあるべき』から抜け出す」「これからの時代の女性たちへ」「有限の美しさを重ねる」

「内容は、結構踏み込みました。本を出版するのは勇気がいるというか、すごく大事だと思っています。冨永愛がどういう人間かを一冊の本で説明してしまうんですから。今は著名人も、ものを言うのに慎重になる時代ですし」

プライベートな部分として、母親としての思いにもページを割いている。

「今は息子も成人して、子育てはある程度終わった段階での母親としての気持ちを書いていると思うんです。わりと楽になったから。私の本は、どこに着目するか、共感するか、読む人によって違うでしょうね」


ウールカシミヤの大判ストールは、フードとフリンジを備えたプレイフルなルックスが魅力。ドレスアップスタイルにプラスして個性派モードを楽しんでみたい。
ストール¥319,000 トップス¥506,000 スカート¥1,174,800 シューズ¥243,100 ピアス[参考商品] グローブ[参考商品](すべてブルネロ クチネリ/ブルネロ クチネリ ジャパン)

「41歳の冨永は、わりと幸せなんです」。本にはこうも記している。

「人生で初めて感じています。わりと幸せだって。すごいことですよ。いろいろなことに挑戦してきて、成功とか失敗とかではなく、得るものがすごく多かった。だから経験を積むことによって、自分を俯瞰(ふかん)して見ることができる余裕ができたのかもしれません」

「わりと」と表現するところが、決して現状に満足することなく、さらに進んでいく冨永らしいのかもしれない。

仕事への姿勢は、人を動かす力がある。2023年初めから放送されたNHKのドラマ「大奥」で徳川吉宗を演じたことがきっかけとなり、戦国武将の武田信玄をしのび、甲府市で開催されている「信玄公祭り」の武田信玄役にと声がかかった。50回を記念した祭りで、同年10月、冨永は女性として初めて武田信玄公を演じ、1300人の武者行列を率いた。沿道からは「キャー!」「愛ちゃーん!」と、声援が飛び交い、大きな話題を呼んだ。

「二度とこんな声援を浴びることはないだろうというほどのものでした。AKB48とかアイドルってこんな気持ちなんだと」と笑う。50周年を記念した企画に、「多様性の時代に武田信玄が女性でもいいのでは」との声が上がり、冨永の名前がいち早く挙がったという。

「吉宗を演じていなければ、絶対名前が挙がることなどなかったはず。全部つながっているんです。新しいことに挑戦している人というイメージがあるのかも。だから新しいことがさらに来るようになっているのかもしれませんね」


職人のハンドクラフトによるフラワーモチーフが印象的なクロシェニットを、タイドアップでハンサムにコーディネート。シルバーパンツでモードコンシャスに装って。
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今年4月にBS日テレで始まった「冨永愛の伝統to未来̶ニッポンの伝統文化を未来へ紡ぐ」に出演し、全国各地に根づく伝統文化の現場を訪ねている。実はこの企画を長い間やりたいと思っていたのだそうだ。

「すごく仲のいい、息子の幼稚園時代のママ友が日テレの社員で、10年前からふたりでずっと『日本の伝統文化や工芸をもっとみんなに知ってもらいたい。未来に向けて私たちに何かできることがないか』と、話していたんです」

これまでに東京都新宿区の江戸小紋の染工場、日光東照宮に使われた鹿沼組子、茨城県の笠間焼、秋田県大館市の曲げわっぱなどの工房に足を運んだ。ものづくりに携わる職人や作家の話を聞く。そして、体験もするのが実に面白いという。

「自分の国を再発見するのはとても楽しいですし、それらをかっこよく美しく伝えたい。こうして伝統工芸などについて発信して、誰かのアンテナに引っかかったり、興味をもってくれたりするとうれしい」

「俳優・冨永愛の生みの親」と自らが呼ぶドラマ「グランメゾン東京」も今年冬、スペシャルドラマとして戻ってくる。映画も上映される予定だ。

俳優の仕事は面白いかと尋ねると、「面白いかどうかはわからない。まだ役をこなすのに手いっぱい。自分の至らなさとかで、毎回悔しい思いをする。でもそういう場があるのがありがたいですし、やりがいがあります」

ひとたび受けた仕事は期待に応えるべく、200%の力を出すという冨永愛。最近の活動を見ていて、ふと高村光太郎の詩「道程」の一節を思い出した。「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」

聞き手:マリ・クレールデジタル編集長 宮智泉 

・冨永愛 新刊エッセー発売 悩める女性たちの背中を押す一冊
・「冨永愛の伝統to未来」BS日テレで放送 伝統と革新が融合した備前焼に挑戦

『冨永 愛 新・幸福論 生きたいように生きる』
著者:冨永 愛
定価:¥1,760(税込)
サイズ、ページ数:四六判、200ページ
出版社主婦の友社
※電子書籍も同時発売